自衛隊破壊
永田町地下シェルター、またの名を裏国会とよばれる東京の地下にある日本の最高意思決定機関では、テロリスト山田太郎について議論されていた。
「現在のところ、テロリスト山田太郎の足取りはつかめておりません。彼の仲間と思われる二人の女も、全国各地の観光地で目撃情報が報告されていますが、いまだ捕らえられていません」
警視庁の長官が、ほとほと困り果てたという顔で発言する。
「我が息子も、奴の復讐によって大けがを負わされ、入院中です。医者の話では、数年は退院できないだろうのとのことです」
このところの騒動ですっかりやつれた法務大臣が、そう報告した。
「それより問題なのは、鬼族の王が政府に鉱物資源の上納を減らすと通告してきたことだ」
「それは、なぜですか?」
「どうやら、あのテロリストに鬼我原を襲撃されて、従属を迫られたらしい。奴に金銀の献上を迫られたため、政府に回す量が少なくなるらしい」
岸本総理大臣が憎々し気につぶやく。、鬼族のもつ掘削技術は人間のものよりはるかに優れていた。日本のあちこちに存在する地下鉱山から献上されていた金銀財宝は、政府の機密費として貴重な収入源だったのである。
「それだけではない。皆も知っての通り、鬼族が支配するヤクザたちは、政府にとって都合の悪い者を始末してきた。いわば、日本を裏から支える組織だ。それが今後協力を得られないということは、今後は秩序を保つことが難しくなるだろう」
それを知って、ヤクザたちに色々自分と身内の違法行為を処理させてきた政府の要人たちは頭を抱えていた。
「このままでは、政府が維持できなくなる。それだけではなく、日本の支配権をもつあの『高天原の一族』から見捨てられてしまうかもしれない。なんとかしてあのテロリストを始末しなければ」
そう発言した岸本総理は、警視庁長官を睨みつける。
「なんとか、あのテロリストを逮捕できないのかね」
「無理です。奴は異常です。たとえて言えば、町を破壊する力をもった怪獣が知能を備えており、好きな場所に出現できるようなものです。警察では対処しきれません」
警視庁長官は、責任を押し付けられることを恐れるかのように言い訳する。
「いっそ、ここは自衛隊を動かしては……」
そう言われて、防衛庁長官は慌てて首を振った。
「待ってください。自衛隊はあくまで自衛組織で、犯罪者の逮捕権はありません。そもそも、どこにいるかもわからない一個人を捕まえるのに、兵站はうごかせないです」
「このことですが、奴の根拠地の目星はつけております」
宇宙航空研究開発機構「IAXA」長官が自信満々にタブレットを操作する。スクリーンに映し出されたのは、最近小笠原諸島にあたらしくできた島の衛星画像だった。
無人であるはずの島に、大勢の人間が住み着いている。映像の解析度をあげると、彼らの頭に角があることが確認された。
「テロリストに屈した鬼族がここにいるということは、ここが山田太郎の根拠地であることは間違いありません」
「な、なら、警察がその島に乗り込んで……」
勢い込んで言う防衛庁長官に、警視庁長官は静かに首を振った。
「警察の装備では、奴の力に対抗できません。それに、この場所は日本の排他的経済水域内。いわば日本の領土です。それが占領されているということは、自衛隊の出動を動かすに足る理由かと」
「ぐぬぅ」
防衛庁長官は、言い返せなくなって黙り込む。
「決まりだな、自衛隊に出動を促す。だが、あくまで秘密裏にだ。国民に日本の領土がテロリストによって侵害されているなど、公表できぬ。日本国の権威が地に落ちてしまう」
岸本総理大臣が決断を下す。こうして、海上自衛隊に出動命令が下るのだった。
シャングリラ島
太郎は、新しく来た鬼族の移住者のために、島を整備していた。
「引力」
大地に引力をかけて隆起させ、10メートルほどの岩壁をつくる。そして中をくりぬいて階段と部屋を作った。
「これでよし。次はビルドプラントを配置して……」
地面に向けて魔力を放つと、島中に張り巡らしているビルドプラントの根から新たな樹が生えてきて、建物に絡みつく。
「これで最低限のインフラは整備したぞ。後は自分でやれ」
「ありがとうございます。太郎さま」
まだ若い鬼族の夫婦は、満面の笑みで礼を言う。少々おかしな所はあるが、タダで新居をもらえたのであるから当然である。
「気にするな。それより、奴隷としてしっかり働くんだぞ」
「はいっ」
夫婦と別れて街を歩いていると、別の移住者から声をかけられた。
「太郎さま。できれば、この川に橋を架けていただきたいのですが……」
見ると、ロンたちによって新たにつくられた川が道を寸断している。
「……しょうがないな」
引力魔法を使って、岩を運んで橋をかける。住民たちはこれで便利になったと喜んだ。
「太郎さま、ありがとうございました」
そんな御礼の言葉を背に街をあるいていると、ふと思ってしまった。
(あれ?俺は王様だよな。なんで奴隷より働いてるんだろう)
首をかしげていると、また声をかけられた。
「太郎さま。ここからこっちまで道を作ってください」
「……ああ」
なぜか奴隷に使われている王様だった。
島中を整備しながら浜辺に着くと、三人の王妃候補がやってきた。
「タロウさま。大変ですわ。見たこともない大きな船が、たくさんこの島に近づいています」
ロンにのって空から島を哨戒していたルイーゼが、慌てた様子で報告する。
「うそ。もしかして警察?」
「いや、自衛隊かも。ど、どうしょう」
うろたえる美香と文乃に、太郎は告げる。
「慌てるな、こういう事態は想定していた。とりあえず、文乃とトケラは待機」
「わ、わかったよ」
「グル」
文乃とトケラは素直に従う。
「美香たちとルイーゼは、ついてきてくれ」
「わかりました」
美香はネスコにのって水上を、ルイーゼはロンにのって空を飛んで太郎についてくる。
すると、すぐ近くまで自衛隊の艦隊がきているのが見えた。
「……ついに来たか。覚悟はしていたけどな。まずは美香、ネスコと一緒に水魔法で津波を起こして、艦艇を近づけないようにしてくれ」
「わかりました。ネスコちゃん。頑張ろう」
「ギョ」
マナの実をたべて魔法が使えるようになっていた美香は、水魔法で高波を発生させる。
ネスコの魔力と美香の制御により、生み出された波は正確に艦艇に直撃した。
「うわっ。なんだ!」
「わかりません。さっきまで穏やかなさざ波だったのに、いきなり高波が発生して……」
自衛隊の艦艇たちは、いきなり発生した波にとらわれて、沖合に押し返されていった。
「よし。次はルイーゼ。あの艦艇の「神経」に雷を落とせ」
「了解ですわ。ロン、いきますわよ」
「きゅい」
ロンが雷雲を呼び、雷を発生させる。それをルイーゼが光魔法の制御を応用して、艦艇の電気信号回路に落とした。
「うわっ」
制御室のコンピューターが一斉に火花を吹いてショートしてしまう。電気回路が焼け焦げて、二度と使い物にならなくなった。
「艦長、これでは動けません」
「くっ。民間人に被害を及ぼしたくなかったが、こうなったらテロリストのアジトを破壊するという任務だけでも果たさせてもらおう。ミサイル発射!目標、未知の島全域!」
艦長命令により、隊員たちが必死に手動でミサイルを起動しようとする。
「太郎さん。ミサイルが」
美香がそれを見て、叫び声をあげる。
「慌てるな。文乃とトケラ。土魔法で島を覆う重力の壁をつくれ」
「わ、わかったよ」
「グァ」
文乃とトケラは、島をぐるりと取り囲む重力ウォールをつくる。
「準備できました。ミサイル発射!」
艦艇から撃ちだされたミサイルは、一直線に島へと向かう。しかし島を取り囲む重力の壁にぶつかった瞬間、軌道をそらして海面に向かって落下していった。
「くそっ。なんなんだあいつらは!現代兵器がまともに通じないなんて」
任務に失敗した艦長は、地団駄踏んで悔しがるのだった。
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