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ホテル破壊

「もしかして、本当に寝たふりをしているのでは?」

「大丈夫だ。みろあのだらしない姿を。所詮は雑魚さ」

端子カメラに映る太郎は、いびきをかきながら寝こけていた。

「よし。第二部隊突入」

警官隊で編成された第二部隊がスイートルームに突入する。

ソファに寄りかかって寝入る太郎に網を投げかけたとき、見えない何かにぶつかって防がれた。

「なっ」

「バカは何度でも同じ過ちを繰り返すものだな。『斥力シールド』」

太郎の目がぱっちりと開き、警官たちは動揺する。

「ば、馬鹿な。確かに泥酔していたはずなのに」

「お前ら一般人と違って、勇者である俺は体内の自律神経まで自分の意思で支配できる。飲んだ酒は消化器官に吸収されることなく、そのまま小便で出したよ」

太郎が手を振ると、ホテル全体が激しく振動をはじめ、壁や天井が崩れ落ちてくる。

「ひいいい!」

「早く逃げた方がいいぞ。ここは最上階だ。このホテルが崩壊するまでに外に出られたらいいがな」

太郎の言う通り、最上階のスイートルームは崩壊を始める。

「くっ。巻き込まれるぞ!撤退だ!」

「助けてくれ!

警官隊たちは我先にへと逃げ出していく。地震でエレベーターが停止したので、狭い階段に大勢の警官たちが殺到した。

「早くいけ!ホテルが崩れる!」

「どけ、俺が先だ!」

大混雑状態になった階段では、自分だけは助かろうと必死に人を押しのけ下に降りようとする。警官たちは大混乱に陥りながら、逃げ出していくのだった。


地上でやきもきしながら見守っていた支配人は、ホテルが崩壊していくのを見て叫び声をあげる。

「ああ……ホテルが……こうなったのもお前のせいだ!」

「痛い!痛い!すいません……すいません!」

絶望した支配人は、ひたすら土下座している信夫を殴りつけていた。

その近くでは、この警官隊の指揮官である圭司が茫然としている。彼が手をこまねいている間に、ホテルは跡形もなく崩れていった。

「まさか……ホテルが崩れるなんて…こ、こんなの俺のせいじゃない。俺は悪くない……」

ぶつぶつと何事かつぶやき続ける圭司と、ひたすら土下座し続ける信夫。

そんな二人の上に、何者かの影が落ちてきた。

「ひっ」

首根っこが捕まれ、持ち上げられる。二人をつかんで宙に浮きあがった太郎は、そのまま報道陣のテレビカメラの前につれていった。

「全国の皆さん。見ているか?こいつらが俺を嵌めた『24人の愚か者』のうちの二人だ」

二人は必死に顔を隠そうとするが、すでに全国に放映されてしまった後だった。

「こいつが勤めていたせいで、大日本ホテルは潰された。物理的にな」

信夫の顔が、テレビにアップで映し出される。

「こいつの無能な指揮のせいで、大勢の機動隊員や警官たちが大勢傷ついた。家族たちはどんな気持ちになるんだろうな」

抵抗しようとする圭司を押さえつけ、よく見えるようにテレビカメラの前に立たせる。

「覚えておけ。俺の復讐はこんなものじゃ終わらない。まだまだ続くぞ」

そういって二人を突き飛ばすと、太郎は空に飛びあがる。

残された警官隊とホテルの従業員は、魂が抜けたようにへたり込む二人に、憎しみの視線を向けるのだった。


翌日

警察による記者会見が開かれる。頭をさげる圭司と警視総監に対し、記者たちの追及は厳しかった。

「墜落して怪我を負った機動隊員が100名、ホテルの倒壊に巻き込まれて怪我した警察官が200名ですよ。これほどの損害を出した責任は誰がとるのですか?」

「……誠に遺憾なことであり、真摯に受け止めています」

やつれた顔の圭司は、そういって頭をさげた。

「そもそも、若くて経験もとぼしい上に、テロリストに恨まれている者の一人である橘警視を現場指揮官にした理由は?まさかあなたの甥だからではないでしょうね」

報道陣は次に警視総監を責める。

「……私の認識不足で無能な彼にすべてを任せてしまったことを、心から反省しております。この責任を取りまして、辞任させていただきます。もちろん橘警視にも、相応の処罰が下されます」

それを聞いた圭司は、がっくりと肩を落とす。圭司は責任を取らされて警察を首になるのだった。

背中を丸めて警視庁から出てきた圭司の前に、一人の美女が立つ。圭司の婚約者である林美香だった。

「み、美香。お前だけは俺を見捨てないよな」

「ふんっ」

すがりついてくる圭司を、美香は鼻で嗤った。

「あんたにも警察にも、うんざりだわ。もうやめるつもりだから、二度と関わらないで」

「そんな……警察を辞めてどうするんだ?」

「そうね。太郎さんの愛人になるのもいいかもね」

それを聞いたとたん、圭司は心の底から絶望した。

「そ、そんな。なんであんな奴なんかに。俺は金持ちの高学歴エリートだぞ」

「あなた、薄いのよ」」

「え?」

訳が分からないといった顔になる圭司に、美香は冷たく告げた。

「なぜ女が本能的に悪党に惹かれるのか、今までわからなかったけど、彼をみてはっきりわかったわ。悪党って濃いの。いろんな意味でね」

そういうと、美香はうっとりした顔になった。

「お金や学歴、地位みたいに、誰かが決めた価値観でしか威張れないあなたと違って、太郎さんは自分の力で強大な敵と戦って、何かを得ようとしているわ。それは茨の道かもしれない。親や社会のいうことを聞いて大人しく生きていた方が得かもしれない。でもね」

そこで一度言葉を切って、ふふっと笑う。

「強大な敵をたおして自分の領土を切り取ることができれば、彼は悪党から『英雄』になって、自分の王国を創ることができるわ。そういう英雄に、女は惹かれるのよ」

美香に振られて立ち尽くす圭司の前て、美香はスマホをとりだす。

「あ、太郎さん?私警察やめるの。日本征服頑張ってね。応援してるから。そして自分の領土を手に入れたら、迎えにきてね。待っているから」

そうしてスマホを切ると、圭司を見下した目で一瞥して去っていく。地位も婚約者も失った圭司は、地面にはいつくばって泣き崩れるのだった。

その後、信夫と圭司はそれぞれの職場を解雇される。二人は、世間から冷たい目で見られながら生きていくことになるのだった。



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