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遠い遠い国の悲恋の女神

 よく晴れた秋晴れの空。やわかい日差しが降り注ぎ気持ちの良い風が吹く。お気に入りの淡いピンクのドレスと母から受け継いだ純白のパールのネックレス。大好きなものに包まれているのに気分は沈むばかり。少し離れた所からチャペルの鐘がなる音が聞こえる。


 私、本当にあの人が好きだったの


 頬を静かに涙が伝う。あともう少し出会うのが早ければ…

 

 何を考えているのだろうと思う。私には大切なものがたくさん既にある。そうであるはずなのに何故こんなに胸が苦しいのか。


 もしかしたら手を伸ばせば届いたかもしれない。でも私は伸ばさなかったの。日常を壊せなかった。


 ああ、見たくない。でも見なければ。


 この国で一番綺麗とされる水辺に立つ。そしてナイフを手のひらに突き刺す。激しい痛みが手のひらから全身を襲いだす。足が痛みで震える。目を開いて自分の小指を見る。


 赤い糸が延びている。


 あの時見えなかった赤い糸。どうして今見えるのか。


 ふらふらと赤い糸を追って歩きだす。赤い糸はチャペルの中に続いている。


 あの人と繋がっていませんように


 待つこと数分チャペルの扉が開き、幸せそうな新郎新婦が出てくる。赤い糸の先には笑顔の新郎が。


 なんて皮肉なんだろう…


 私と彼は運命で繋がっていたのだ。ただ以前の私には見えなかった。いや、見えていたかもしれないが臆病な私にはその糸を見つめ手繰り寄せる勇気がなかったのだ。


 眩しいほどの笑顔を浮かべる新郎新婦におめでとうの言葉の雨が降り注ぐ


 おめでとう…


 言葉は掠れて宙に儚く消えた。


 涙がまた次から次へ溢れてくる。そんな自分を誰にも見られたくなくて踵を返し走り出す。淡いピンクのドレスが足にまとわりつく。綺麗に巻かれた髪は乱れる。心は散り散りに裂けてしまいそう。


 私は今まで数多の縁を気づき結ぶ手伝いをしてきた。それなのに自分の縁だけ見えないなんて…


「辛い…!辛くてどうにかなりそうよ…!!どうして!?こんな力要らなかった!普通の女の子に生まれたかった!!」


 好きな人の隣で微笑みたかった…


 気づけば大好きであの人との思い出がたくさん残る美しい湖に戻ってきていた。


 ふらりと湖に足を踏み入れる。手から血が湖に滴り落ち波紋ができる。


 このままだと人の幸せを憎む悪しき存在になってしまう。それならばいっそのことこの湖とともに美しい心のままでありたい…


また一歩湖へと進む。ドレスが青に染まっていく。


 私が急に消えたら優しいあの人は心配するわね…


 また一歩湖へと進む。澄んだ水が身体を優しく包んでいく。


 幸せを祈れなくてごめんなさい。


 湖に全身を委ねる。意識がだんだんと遠のき、自分の命の灯火が消えゆくのが分かるが不思議と恐怖はない。ただキラキラと光る青が眩しい。こんな最期も悪くないわね。


 来世は普通の女の子としてあなたに会えたら…


天へ最後の祈りを捧げ、ゆっくりと瞼を閉じた



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