ハズレスキル【お味噌汁】しか持たない俺が雪山で女の子と遭難した
『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』応募作です。
タイトルのキーワードは「雪山」ですが、本文内にはすべてのキーワードを盛り込んでいます。
コスモス/雪山/温泉/パスワード/たまご/和菓子/5年/金魚
帽子/クエスト/三日月/文化祭/暖炉
※一昨年のなろラジ応募作「ハズレスキル【お味噌汁】しか持たない俺がデスゲームに巻き込まれた」(https://ncode.syosetu.com/n5190hj/)の主人公のその後です。前作を読まなくても一応話が分かるようにしています。
この世界では皆能力を持って産まれる。
1人1つ。殆どが、ある一点に限り筋力や知能が格段にパワーアップする特化型能力だ。
え? 炎や氷の魔法能力はないのかって?
そんなものはない。漫画の読みすぎだよ。そもそも無から有を生み出すなど、物理法則を無視している。
……まあ、極々稀に無から有を生み出す能力もあるにはあるが。
ところで俺達は今、雪山の避難小屋に閉じ込められている。
前から気になっていた女の子に雪山登山に誘われたはいいが吹雪で遭難してしまった。もう少し普通のデートを事前に重ねるべきだった。遊園地とかコスモス畑とかさ。それで付き合ってからなら、たとえ遭難しても裸で温め合う的な……。
「何か言った?」
「いやなんでもないです」
彼女の冷たい視線を避けながら暖炉の火に当たる。もう一度望みをかけ電池を温存していたスマホの電源を入れるが、パスワード画面の右上のアンテナは×を示していた。
「やっぱり圏外だ」
「困ったわね。身体も冷えるしお腹も空いたし」
口ではそう言うがあまり困ってなさそうな彼女。うっすら笑ってる気さえする。でも薪も残り少ないし、持ってきた茹でたまごもお土産の和菓子も食べちゃったしそんな余裕ある? まあ、実は食料はあるにはあるんだけど……。
だが5年前の高校の記憶がフラッシュバックする。秘密にしていた俺の能力を好きな子に教えた途端、学校中に広められ笑い者にされた。文化祭の出し物にしようと言うイジリはもうイジメに近かったぞ。本当に俺の能力を教えてもいいものか?
……いやここは命優先だ! 勇気を出せ。俺はデスゲームというクエストをこなした男だ!
「あのさ、お腹空いたなら、食べる?」
「え?」
俺は口から味噌汁を出した。
「俺の能力だから、汚くはないけど……嫌だよね?」
彼女の目が三日月の様に弧を描く。
「ううん。ていうかやっぱりね。私と似てる人だと思ってた」
「え?」
「ねえ【人間ポンプ】って知ってる?」
「? あの、金魚を飲んで出すやつ?」
「ええ」
そう言いながら彼女は小屋の隅からバケツを持ってきた。更に帽子や上着を脱ぐ。
「私の能力はそれ」
彼女がお腹をポンポンと叩くと、マーライオンのように口からドバアッとお湯が溢れ出す。それをバケツで受け止めた。バケツの中のお湯はホカホカ湯気を立てている。
「山に来る前に温泉のお湯を飲んでおいたの。足湯で温まろ?」
「……はい」
斯くして、俺達は無事下山し、後に結婚した。
めでたしめでたし。
お読み頂き、ありがとうございました!
↓のランキングタグスペース(広告の更に下)に前作へのリンクや、「5分前後でサクッと読めるやつシリーズ」等、他作品のリンクを貼っています。もしよろしければそちらもよろしくお願い致します。