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とにかく校舎に逃げろ

 狛犬と堂上は不穏な台詞を言い合った。

 敵が動く前に風が動く?


「すげ。一撃必殺。ハーさんやばい」


 私は宗近の台詞に彼が見つめている先を見返し、そして脅えた。

 何が起きたのか私にはわからないが、見えているものが恐ろしいのだ。


 さっきまで目の前にいたハーニバルが、今や数十メートル先にいて、地面にうつ伏せで倒れている男の背中の上に立っている。

 さらに、倒れている男の横には、右を下にした横向き寝の姿で倒れているもう一人がいるではないか。


 一瞬で倒したの?

 どうやって、あの巨体二体を一瞬で倒したのですか?


「さすがシルフの末裔というべきか。酸素供給を絶って昏倒させるとはな」


「冬弦、熱中症か貧血で倒れたにしておけ。ハーニバルの窒息行為を拷問行為に取られたら大変だ」


「確かに。ハハハ」


 ついさっきまで人類が失った良心みたいに見えた大柄二人だったが、ろくでもない会話からすると、彼らもしっかり妖精の血が流れいている人だったんだな。

 私の口元からは乾いた笑い声が漏れていた。


 すごいと思うよりも、やばいという感覚だ。

 こんな人達と一緒にいて大丈夫?とか、そういう恐れよ。

 だけどこんなにも驚異的に強い人達であるならば、残った三人に対しても圧勝かもしれない。

 私こそすぐに家に帰れる?


「うわっ。くそ、糞虫か!!この卑怯者が!!」


 昏倒している人の上に乗るという人でなし行為をしていた美少年が、美少年らしからぬ罵倒をするや紙切れのようにふわっと宙に浮いた。

 高く高くジャンプしたのだ。


「兵庫。能渡井君を連れて校舎に逃げろ」

「兵庫、舳宇、まだ動くな。動けば的だ」


 どっちだよ!


 そして兵庫は堂上ではなく狛犬の命令の方を選んだ。

 堂上も、そういう事か、と舌打ちしながら呟いたので、ここは絶対的に狛犬の判断が正しかったはずだ。

 私は三秒後に、しっかりと確信したもの。


 まだ立っているハッシュ以下三人の肉体が、ばしゅんと粉々に弾けた。

 それは私達を攻撃する目的だ。

 弾けた肉体の破片には全て意思があり、それらは一斉に私達に向かって襲い掛かって来たのである。


「いやだああ!むねちか~」

「俺だってあれは嫌だああ!」


 古くから妖精は虫型に描かれる事が多いけど、ずんぐりした甲虫の集合体で人型になっているなんて最悪だよ!!

 数百匹はいるであろう甲虫が、一気に飛んで向かって来たんだよ!!

 ゴキブリ一匹だけでも恐怖なのに!!


「合図をしたら校舎迄一気に走り抜けろ!!」

「まずは身を低く!」


 宗近も私も、堂上の命令の方を選んだ。

 堂上が何かをひっくり返すような仕草をすると、一気に校庭の土が彼の肩ほどにまで持ち上がり土嚢を作り上げたのだ。


 ズズズズズズズン。


 それも、校舎のエントランスに続く塀のような壁が地割れみたいな音を立てながら出来上がっていく。大部分の虫は堂上の作った壁に突き刺さり、壁を越えた虫達は伏せた私達の上を素通りして空へと飛んで行った。

 もしかして、宇宙船を作っていたのは、この金属っぽい虫達?

 怖気に震えながら私は身を起こす。


「走れ!!」


 今度は狛犬の命令一択だ。

 命令されなくとも校舎へと走っていたと思う。

 飛んで行った虫達は、再び私達を襲うために空中で方向転換をした。

 それに、土嚢に突き刺さった甲虫達は、ぶぶぶと嫌な音を立てている。


 つまり、すぐにまたあれらが絶対に向かってくる!!


 私は悲鳴を押し殺しながら、必死になって走った。

 どうして余計な口を挟んでしまったのかと、自分を責めながら。


 だってほら、見てよ。

 妖精の血を引く人達は、とっても足が速いじゃ無いの。

 一瞬でエントランスに辿り着いてるじゃない。


「うそ!!」


 私の数十メートルまだ先で、エントランスのガラスの扉が閉められた。

 いえ、また開いた?


 ぶぶぶ。


 羽音!!

 私は自分のすぐ後ろに迫った羽音に振り向いて、そのためにバランスを崩して大きく地面に転がった。


「わあ!!」

「いい!能渡井!!そのまま伏せていろ!!」


 私の真上に真っ赤な影が躍り出て、何か大きなものを宙にはためかせた。

 堂上は私に襲い掛かって来た虫を払いのけたが、彼が大きく振って放り捨てたのは昇降口に必ずある木のすのこだった。


 あんなものを紙か布みたい振り回すなんて、なんて怪力!!


 堂上は地面に両手を叩きつける。

 私は大きく息を吐いた。

 私と堂上に襲い掛かって来た虫達は、とりあえず彼の盾で封じられたのだ。


「急いで立って走れ。サポートする」

「一緒に走らないので――」

 ぽた。


「え?」


 地面をついている堂上の両手、それは右側だけ赤く染まっている。

 右の脇腹だって。

 堂上は立ち上がった私を睨んだ。

 その瞳に浮かんでいるのは怒りでも何でも無く、父親が子供に言い聞かせる時に浮かべるような強い意思だ。


「君は走れ」

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