仲が良すぎる?
私と宗近は仲が良すぎると、親友の春桃から責められた事がある。
まるで付き合っているみたいだって。
でも言わせてもらえば、宗近は舳宇と親友となるや毎日のように我が家に来て、気が付けば日本家屋の我が家の適当な所で転がっている有様なのである。
母など私達兄妹に聞く前に、その日の献立について宗近に聞くぐらいだ。
だからこうして私達が揶揄い合って腕を掛け合ってくっつくのは、いつもの流れであり、男女を意識しての行為ではない。
舳宇がいれば、三人で肩を組んでいるに違いない。
「でも、はるもにミウがするみたいにトモはしないよ!はるもこそトモとミウと昔からの幼馴染なのに!!」
やっぱり、私と宗近は非常識なのかな?
舳宇がいじめられっ子になる前の小学生の頃は、男も女も無くこんな風に仲良しの子はじゃれ合っていた気がするんだけどな。
「お前達、いい加減に離れろ」
「ふひゃ?」
狛犬が尊大な眼つきで睨んでいる。
私と宗近のふざけ合いは、春桃がかっていじけたようにして、兄の義兄弟に勝手になったつもりの男の神経をも苛立たせるものなのか?
肩を組み合った宗近と私は、狛犬によって引き離された。
正しくは、狛犬が私の腕を引いて私を自分の方へと引き寄せたのだ。
「ちょっと」
「ここは戦場だ。絡まるな。いざという時に身動きが取れなくなる」
義兄弟も焼餅も、実は関係なかったようだ。
私の自意識過剰だった模様だ。
いいや、狛犬が焼餅焼いたとしてもそれは兄に対してで、真実の私にでは無いのだから、本気の本気で私の恥ずかしい思い上がりだ。
「気を付ける」
「う。い、言い方がきつかったならば謝る」
「え?」
簡単に私の腕から手を外した狛犬は、そのまま私の前に出て私の壁になった。
どうしたと狛犬の後姿を眺める私の視界は、瞬間的にベージュ色の壁になった。
私の壁になったのは狛犬だけじゃない、のだ。
私と宗近の目の前には、左から二年生のハーニバル、三年生の狛犬と堂上の背中が見える。彼らは真ん中となる狛犬ではなく、私と宗近を守る壁として私達に背を向けて立っているのである。
「いつ円盤から降りたのかなって、最初からあれこそ目くらましだったのか」
宗近の言葉に空を見上げ、曇天に何も無くなっていることを知った。
本当の意味で張りぼてだったらしい。
「お前ら!交渉中に攻撃をしてくるとは卑怯この上ないじゃないか!!」
壁の向こうからがなり声があがった。
私達に散々脅しつけていた円盤の声だと、私は狛犬達の隙間から覗く。
なんと、いつのまにか狛犬達の前方には、白いスーツの長髪の男と角切りに黒メガネと黒スーツの四名という、映画の悪役のような人達がいた。
顔の作りは上位妖精の血が入っているだけあってきれいなはずだが、私はもう限界点を突破した美貌を見てしまっている。
よって第六皇子らしい美青年の御一行様は、単なる悪役にしか見えなかった。
「あはは。人間界ではね、特に日本では、フライトプランのない飛行は国土交通省に通報案件なんだよねえ。でもって、妖精国家となった今じゃ、所属不明機は問答無用で撃墜ですね。ご存じありませんでしたか?」
とっても美しい人は生徒副会長だけあって、とっても機転が利くようだ。
いや、撃墜知ってて通報したのならば、冷酷非道だな。
私はさらに単なる悪役化してしまった敵を眺めると、心なしかスーツに汚れと痛みが見える白っぽい金髪が大声を上げた。
「私は第六皇子、ハッシュだ!!私の船を撃墜できるはずなどない!!」
「あはは。あなたの船を撃墜したのでは無くて、その手前にあった小舟を撃墜しようとしたのかもしれませんね。浮かぶはずはないラフレシアが浮かんでいたのならば、十数年前の毒ガステロを想起しちゃった、かも」
答えたハーニバルの周りで風がぐるっと舞った。
私は離れているべきだと思いながら、ちょこっと宗近に寄っていた。
脅えたからじゃない。
ラフレシアが何の隠語なのかと聞きたかっただけである。
「ラフレシアって、何?」
「たぶん、ガッコの隣にある宮傘市立植物園のラフレシアだと思う」
「まんまラフレシアか」
「最悪だよ?自然保護かなんか知らんけど、くっさいの。開花してから毎日毎日くっさくてたまんなかったんだけど、そっかあ、ハーニバル先輩が処分してくれたんだね!!」
「目にハートマークが見えるぞ、宗近」
「ふん。お前こそ堂上先輩に頬を赤らめていたじゃんか」
「ふん。初めて出会った騎士に感動するのは当たり前だろ」
「光栄ですよ」
「わあ!」
笑い声を含んだ声を出した堂上は、ほんの少しだけ私に振り返った。
優しい笑顔で、なんて格好いい兄貴だ。
しかしすぐに左隣りの狛犬から右ひじを受け、堂上は再び前に向かい直した。
「集中しろ。敵が動くぞ」
「敵が動く前には俺達の風が動いている。そうだろ?冬弦」
ええ?
狛犬と堂上の言葉にハーニバルがいた所を見返せば、いない。