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僕がここにいる理由

 狸山の神社で私を待っていたのは、恋人どころか、人を下僕扱いするだけの風の妖精だった。


「わざわざ来てやったのに、何だその普段着は」


「あなたを出迎えに来たわけじゃあないし。大体、ハーニバルさんこそ適当な恰好じゃ無いですか?」


 Tシャツにハーフパンツを合わせてスリッポンという私は、ポロシャツにチェックのパンツとアーガイルの靴下、という、適当というか趣味悪いハーニバルのいで立ちに少々引きながら言い返していた。


「全く、物知らずは!!君と違って僕はTPOをわきまえている。これは伝統あるトラッドスタイルだ!!ゴルフの!!」


「ねえよ!!神社に何しに来たんだよ!!」


「ご訪問だ!!僕は父関係のゴルフコンペを蹴ってまで君の家に来てやったんだぞ。君は僕に感謝して僕をおもてなしをするように」


「するか、帰れ!!」


「僕を追い払って大丈夫なのかな、君は。僕がなぜここにいると思うんだ?」


 私は、はっ、とした。

 ハーニバルを怒らせたまま追い払ったら、あのサッカー部みたいな不幸に見舞われる事になる?

 それに、神出鬼没ができる風の妖精ならば、緊急事態を教えに来た、とか?


「どうした?急にぽやっとして。君は僕に動いて貰えたことにまず感謝せよ」


「あの。アダムに何かあったの?」


「ようやくか!!」


「嘘!!本気でアダムに何かがあったの?」


「君はトーゲンはどうでも良いのか?可哀想に」


「い、いえ。冬弦さんは、なんだかんだ言っても劣勢を撥ね退けてしまえるところがあるような気が、気がして。うそ、二人とも大変なの?」


「つまらんな。及第点もやれん」


「はい?」


「君の返答だ。僕がアダムよりも冬弦に肩入れしていると君は考え、それによる返答だろう。だが甘いな。君の返事で僕がどちらを人質にしても君には有効だと僕に理解させただけだった」


「あなたには人の心が無いのか!!」


 ハーニバルはにやっと笑うと、行くぞ、と偉そうに私に命令してきた。

 それだけじゃなく、私の左の二の腕を掴んだ。


「も、もしかして、病院?あなたが私を呼ばなきゃいけないぐらいに、アダムと冬弦さんは酷い状態なの?」


「あいつらが酷いは正解だな」


「い、急ぎましょう」


「ああ。あいつらめ。自分達だけで動くなんて最低だ」


 私はあの日に一瞬で敵を倒していたハーニバルを思い出していた。

 あの時、冬弦とアダムは、俺達の風、なんて言ってハーニバルを讃えていた。


「二人だけで動いてのこの事態なのね」


「そうだ。タヌキ山のかくれんぼな能渡井の家は面白そうなのに、僕を置いてくなんて!!」


 私の足は止まっていた。

 そして私は、自分が飛び出して来た家の方角を見つめ、自分が一体何をしてしまったのだろうかとぼんやりと考える。


「だが海宇。君はよくやった。アダムを振り払って僕を迎えに来た。僕の機嫌を直した君には褒美をあげようと約束しよう」


「やっぱり。うちに今あの二人がいるのか~。あ~もう!!そうだよ。舳宇と義兄弟の契りをしたんだったら、冬弦さんは迷うわけ無いんだ」


「アダムは君の婚約者だと思ってる。彼も迷う事は無いだろう。完全にこんな仔狸に惑わされているというのにな」


 ハーニバルは私の腕をさらに引いた。

 その引っ張り方は私がバランスを崩すほどである。

 だけど私は転ぶどころか、ハーニバルに背中を支えられて抱き留められている。

 私がハーニバルを見上げるどころか、ハーニバルの顔こそ私の顔の真ん前だ。


「近いよ」


「キスをするからね」


「意味わかんないし!放せよ!」


 ハーニバルに向けた右手の拳は、ハーニバルの手に拒まれた。

 だが、それはフェイクだ。

 私はハーニバルの大事な所へと左足を蹴り出していた。

 しかし私は手ごたえを感じるどころか、両足とも大地を失って宙に浮いている。


「こういう所は好きだな」


 私の背中は地面に打ち付けられる。

 しかし背中のどこにも痛みが無かったのは、私を押さえつけるハーニバルが、私の体が地面に打ち付けられる寸前で私を少々浮かべて支えて横たえる、なんて騎士的行為をしてみせたからだ。


 だがその行為のせいか、私はハーニバルに本気で脅えてはいなかった。

 女の子の右手を左手で掴み、女の子の胸を右手で押さえつけ、それだけでなく、女の子の胴を跨いで圧し掛かっている、という体勢であるというに。


 ハーニバルの私を見下す表情は笑顔だ。

 やっぱり脅えるべき?

 だけど私は、ハーニバルに怒りしか湧かない。


 それは、私に向けられているハーニバルの笑顔が、聞き分けのない飼い犬を調教しようとする飼い主のものみたいで、馬鹿にされているとしか感じないからだ。


「何を考えている?」


「脅えが無いこの目はいいね。それでいい。君は僕に心を絶対に許さない。僕を絶対に望まない。君はそのままでいるんだよ。でないと僕も君も不幸になる」


 私を動けないようにしていたハーニバルの右手は、私の胸の上から外された。

 だがしかし、彼の手は私の顎を掴んできたのである。

 まるで、眠り姫にキスを与える王子様が姫に添える手みたいにして?


「おい」


「こら。ここは目を閉じる。僕は君にキスをする。すると君からファーストキスという縛りが消え、アダムとやりたい放題となる。良い案だろ」

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