冬弦が私達を止めたのは
私とアダムのここぞという所に乱入した邪魔者は、舳宇の告白を受けたことを私に語り始めた。
我が兄舳宇は、春桃を自宅に送り届けた後、自分こそ着換えに自宅に戻り、本来の自分に戻った姿で冬弦に頭を下げたというのである。
「女装した彼がプリュンゲルの付添いをしたのは、プリュンゲルの父親が女の子としか二人きりを許さないからと聞いていたが、普通に男性服姿の舳宇を受け入れているあたり、舳宇は信用があるのだな」
「すいません。私がいつもこんな格好なだけですので、多分私だと向こうは思い込んだままなだけです。で、そこはどうでもいい事なので巻きで。兄が謝罪というか、あなたになんて説明したのかだけお願いします」
冬弦は不満そうに目を細めた。
端正な口元が心なしか不貞腐れた子供みたいに歪んでいる?
「――君は私には意地悪だな。雑談も許さないのか?」
「冬弦さんは馬に蹴られても仕方ない事を私とアダムにしたんです。アダムを電撃で気絶させるなんて、酷すぎます」
「君達を最悪から救ったと私に感謝すべきだがな」
最悪?
私達は覚悟し合っての上でのキスだったのに!!
私は冬弦への反発の気持のまま、仰向けとなったアダムの腕を掴んで彼を自分に引き寄せようとしたが、……びくりともしない。
このシックスパックめ、重すぎる。
「冬弦さん。私達に酷い事をした詫びとして、アダムを起こしてくれませんか?」
「目が覚めたら煩そうだ」
「では、彼の体を起こして、私の膝の上に彼の頭を乗せてくれませんか?電撃を受けて失神している人の状態って初めてで、とっても心配なんです」
「あ、ああ。スタンガンを当てた感じだよ。適当に起きるからそこは心配ない」
冬弦は本当にアダムの親友なのだろうか?
平気でスタンガンを親友に当てられる人なのか?
私はこれ以上冬弦を刺激することは止め、けれどせめてと、アダムの右手を引っ張り上げて自分の膝に乗せ上げた。
同時に私の右側が軋んだ。
ベッドに座る私の右横に、当り前のようにして冬弦が腰を下ろしたのである。
物凄く近い。
近すぎない?
何か言ってやりたい気持ちが湧いたが、止めた。
刺激したくないという先程の考えからではなく、冬弦がなんだか辛そうなのだ。
冬弦は自分の額に右手を当てて俯いている。
なんだか疲れ切った老人のようだ、と私は思った。
そうだ、彼は私達兄妹に心を弄ばれた人でもあった。
それなのに冬弦は兄を許しただけでなく、私達兄妹のガーディアンとなったとか、言っていなかったか?
すごく人が良すぎる人。
ここはちゃんと感謝して、私は彼にもっと優しくするべきでは?
「あ、あの、具合が悪そうなんですけど。あなたは大丈夫ですか?」
「心配してくれるのか?ふふ、そうだな。君は私に感謝すべきだぞ?私と舳宇の契約解除のキスは、寸でで彼が気付いたことで私は命拾いしたのだ。君達こそマウストウマウスでキスをしていたら、取り返しのつかないことになったはずだ」
「どんな取り返しがつかない事、が起きたと?」
「完全なる無力化、だそうだ。ぞっとしないだろ?」
私は大きく息を吐いていた。
冬弦の言う通りに、助かった、という安堵だ。
今でさえ契約による二人の気持ってことが気になって仕方がないのに、アダムを完全なる無力化?つまり奴隷みたいにしてしまったらと考えたら、私はブルブル震えるばかりである。
「それでな、契約解除は血を舐めた場所へのキスでいいらしいぞ。本当に良かったよ。私の場合は額だし、君に舐めさせようとしたのは、私の手だった。舳宇が私の額に能渡井家の印があると気が付いて、口にキスする必要はあるのかと疑問を抱いてくれて本当に良かった」
私は、ハハハと乾いた笑い声をあげながら、傷が無いアダムのシックスパックな裸体を思い出していた。
私には舳宇みたいな眼を持っていないから、アダムと怪我の位置を確認しながら、アダムの脇腹にキスするのか?
口にキスするよりもハードルが高っかくなってる!!
「衆目の中でのキスだしな。小恥ずかしいで済んで良かったよ」
衆目?
「それで、あの、どこでキスされたので?」
「待ち合わせはフードコートでは無かったか?」
「取り返し以前の問題だよ!!そんな人目のある所で、何てことしてんだよ!!」
男服を着て春桃と一緒の舳宇。
絶対に絶対、知り合いに見咎められたら、それは私だと勘違いされているはず。




