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その乱入は許すまじ

 私は心を決めたというのに、ここぞという場所でアダムこそ尻込みをした。

 私にキスするどころか、出来ないと頭を抱えてしゃがみこんでしまったのだ。


 それは、彼こそ常識人だったからだろうか。

 私と最後までしそうだからできない、と彼はのたまうのだ。


「もう!!台無しだよ!!」


 あなたとキスしようと待ち構えていたのに?

 違う違う、せっかくいい雰囲気だったのに?


 違う。


 アダムとキスすると決めた時点で、私は腹をくくったんだ。


 好きな人とハッピーエンドになれないどころか別の相手と結婚しなければいけない未来があるとしたら、この私が認めるはずない。

 一生拒んで拒んで、一生独身でも構わない。

 だからこそ、初恋の人とキスぐらいしたいって。


 そうよ、その先に行っても、結婚したいぐらい好きな相手なのだから、私には問題ないって話じゃ無いの。

 そんな私の気持をアダムに台無しにされたのだ。


「あなたには私の責任を取る気概は無いのか!!私は全部ひっくるめて腹を決めたんだ。さあ!キスをするぞ!!」


「いやだ!!」


「どうして!!」


「君のファーストキスなんだろ?こんな状況とこんな流れは嫌だ。好きな相手が一生ものの思い出になるようなキスじゃないと、俺だけを一生見ろなんて言えないだろ?」


「じゃあ、外に出ましょう。経験豊かなあなたが思う、一番記憶に残る素敵なキスをしてちょうだい」


 アダムはハッとした風に顔を上げ、考え付かない、なんて呟いた。

 この経験豊からしい人は、一体どんな恋愛を今までしてきたのだろうか。

 私はなんだか脱力した感じでベッドへと向かうと、そのままゴロっとベッドに仰向けに転がった。


「何やってんの!!」


 アダムが私にあげた声は、情けないほどに裏返った声だ。

 試着室でのアダムは、私を圧倒するばかりだったのに。

 泣きそうになっていた私は、そんな情けない顔を隠すために腕を顔の前で重ねて顔を隠した。


「場所を移動してなんて言わなきゃ良かった」


 私の左横でベッドが大きく沈み込んだ。

 アダムが私の左横に横たわったのだろう。


「ごめんね。俺は本当の恋なんかしたこと無かったみたいだ。だから、俺が君を傷つけたらと思うと怖くて怖くて堪らない。それに、俺の母みたいに、一緒に歩く時間が違うと言って死を選ばれたら堪らない。いいや。君を失う事こそ怖くて怖くて堪らないんだ」


 お母さん?


 私は自分の顔の上から両腕を解いて取り除き、自分の隣にいるだろう人を見た。

 アダムは私に背中を向けて横たわっている。

 私を襲いたくない、だけど私の隣には居たい、という彼のジレンマそのものか。

 そして、私よりも人間と妖精のその後の悲劇を知っている人。


 私はベッドから身を起こす。

 それからアダムの肩へと左手を伸ばす。

 しかし、彼に触れることが出来ずに、宙で私の手は止まる。


「俺は何をやって来たんだろうね。親父に反発して、派手に遊んで。それでそんな生き方が親父そっくりなろくでもないだけだったと、好きな子を前にして初めて気付くんだ。空っぽだったせいで何にもしてやれない。情けないな。親父が母を幸せに出来なかったように、俺は君が望むことを何もしてあげられない」


 私はアダムの体の上で止めていた手を、やはり彼に下ろした。

 思いっ切りガサツな動きで、アダムの頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。


「海宇?」


「――思い出したんだ。私が今日したかったこと。今日の目的。まず、あなたと再会する事。それから、あなたと契約について相談する事。思いがけずに両想いになっちゃったから私達は混乱しちゃったけど、私は今日の目的は果たせてるよね。あなたが私に会ってくれたから。そうじゃない?」


 アダムは自分の頭の上にある私の左手を右手で掴んだ。

 彼は私の左手を引きながら、彼こそ私へと体を転がす。

 私を見つめながら仰向けになったアダム。

 左手をアダムに引かれる事で、身を捩る格好でアダムを見つめる私。


 私達の視線は互いの瞳から離せなくなっている。

 いいえ、どんどんと近づいている。

 アダムはゆっくりと身を起こし、終には彼はベッドに座る私と横並びとなった。


 見つめ合ったままの私達は、同時に瞼を閉じた。


 その後は、私の唇の上にアダムの吐息を感じ、次には温かいが硬いものが私の唇に触れた。


 ごつっとした硬い物?

 私はパッと両目を見開く。


 冬弦がアダムの口に自分の左手を当てていた。

 私の唇が触れたのは、冬弦の手の甲、だった。


「むぐ」

「アダム。これは駄目だ。私は認められない」


「と、冬弦さん」


 冬弦は私に顔を向けると、危なかったな、と言った。

 危なかった?


「私は本日から能渡井兄妹のガーディアンとなった。私の目が黒いうちは、大事な妹分の海宇をどんな禍からも守ってみせるよ」


「海宇って、え?」


 冬弦は不敵な笑みを私に見せた。

 いえ、苦難を乗り越えた様な疲れが見える人の笑み?


「私は舳宇から謝罪を受けている。今日からよろしくだな、海宇」


 冬弦がアダムから左手を引くと、アダムはそのまま仰向けに倒れた。

 親友に電撃攻撃をしてしまえるなんて!!


「よろしくしてたまるか!!」

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