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能渡井家が純粋な人間だけの家として続いていた、というのならば!!

 私はアダムを買いかぶり過ぎていた。

 きっとこれも契約というものをしてしまった弊害だ。


「どうして睨むの?」


「ホテルの部屋に連れ込まれて睨まない女の子はいないと思う」


「君は今までの俺の女と同じって言ってなかったかな?それでそう言うってことは、いざという場面では高く見せるという、今までの女達と同じ手管を君も披露してくれてるのかな?」


 私はベッドの枕を掴むと、アダムに投げ付けた。

 そしてそのまま部屋を出ようとしたが、当たり前だが私は戸口に辿り着く前にアダムに腕を掴まれて引き戻される。


 どうして高校生に一番広い部屋を簡単に貸しちゃうの!!

 逃げ切れなかったじゃ無いの!!


「ほら、逃げる気も無い」


「言うべきことも言ってないからね」


「何かな?」


 アダムは私の打撃攻撃を警戒しているが、能渡井家の物理的な技の実際は、相手の力を利用して流すという、他人の褌で相撲しよう系の業である。

 つまり、人間でしかない能渡井家が生き延びてこれた秘密、力では絶対に敵わない妖精に対抗すべく編み出されたという、能渡井家相伝の古武術があるのだ。


「うわっと!」


 私は自分を捕まえるアダムの手を捩じり撥ね退け、そして、アダムが次の動きを取る前には彼を後ろ手に拘束していた。


「は、はは。すごいな。君はこんなに凄いのに、どうして舳宇は」


「舳宇はもっとすごいよ。結局男の力があるからね。大昔に手足を捨てて逃げる妖精ティプリウスに出会ってから技が出せなくなったんだ。トラウマだね」


「わかる。あれはびっくりするね」


 アダムが動いた瞬間、私も彼から手を離していた。

 私を捕まえようと彼は手を伸ばしたが、私は既に彼を避けるように後ろへと飛び退っていた。

 私達は一瞬だけ睨み合い、しかし、相好を崩したのはアダムの方が早かった。


「すごいな。男子校に潜入する度胸はその身のこなしがあってこそか?」


「あの日は全くの足手まといにしかなりませんでしたけどね」


「そうでもないよ。君の異界流しがあの日を終わらせたんだ」


「今日も終わらせなきゃ、だね」


「だな」


 構えていた私達はそれぞれ構えを解いた。

 そして向かい合ったまま見つめ合った。

 やはり先に言葉を発したのは、アダムである。


「君は俺の外見があってこそ俺を騎士と呼んだんだね」


「外見だけなら戦士じゃない?」


 意図しないアダムの言葉だったからか、考えなしに私の口が勝手に動いていた。

 しかしアダムには私の返事こそだったのだろうか。

 かなりの反応を見せている。

 子供みたいに不機嫌そうに顔を歪めたのだ。


「俺の外見はピカピカとか君は言わなかったっけ?」


「あの日も今も、一番目立つ美青年は、ハーニバルじゃない?私はあなたの立ち居振る舞いが紳士的だったから、騎士みたいだって思ったんだよ?ってきゃあ!」


 やっぱりアダムに抱きしめられていた。

 さすが妖精と言うべきか、本気で動く時は本気で早い。


「君は君じゃないか!!今までの女達と違う!!」


「何を言ってるんだか。最初にあなたの外見に惹かれた人も、結局はあなたの気性や振る舞いであなたをいっそう好きになっていたはずだと思う。それにさ、このチャンスしかない、とか思ったら、あなたとしちゃうんじゃない?」


「でも君は、そのチャンスを利用しようと思わない?」


「私はお互いが本当に好きで、それで、結婚とか考えられる相手とじゃ無きゃ嫌だからね。そういう風に教えられてきたし。それが能渡井家がここまで生き延びてこれた理由であるならば、私は生き残る為に守るよ」


「――人間だけの家系か。それは、妖精と交わることが無かったということで。――そうか、君の結婚相手は人間じゃないといけないのか」


 私こそ、たった今その真実に気が付いたと、ハッとした。

 キスで契約解除どころか、このままアダムの事を好きなままだと、私は一生独り身でいなきゃいけないという事になる。


 そうじゃない。

 天然記念物みたいに保護されている家系ならば、結婚こそを強要される?


 好きでもない相手と?


 お父さんとお母さんはいとこ同士だったけど、私と舳宇には結婚できるいとこやはとこがもう存在しない。

 どっちかがどこかの純粋な人間家の人間と、結婚しなきゃいけなくなる?


 そんなの嫌だ。


 私はアダムを抱き返した。

 彼はさらに私を抱く腕に力を込める。


「海宇、君が本当に望んでいるのは俺との別れか?」


 アダムと会えなくなる?

 その可能性を考えた途端に、どうしてこんなに胸がずしんと重く感じたのか。

 まだ会ったのは二回目でしかないというのに。

 たった二週間前に出会っただけの人でしかないのに。


「海宇?」


「私、やっぱりアダムを好きになった女の子達と一緒だと思う。私が契約解除の方法を言えなかったのは、あなたの言う通りにあなたの気持が無くなるのが怖かったからだし、今は、契約解除を今すぐにするべきだって思ってる」


「別れるしかない未来なら、さっさと解除してしまおうってことか」


 私はアダムの胸から顔をあげた。

 アダムは私を見つめている。

 彼の瞳はファイヤーオパールにしか見えなかったはずなのに、今は白目が赤くなっていて、それに涙を含んでいて、単なるアースカラーの瞳でしかなかった。

 人間の瞳でしかない、それでもなかなかいない素晴らしいものだけど。


 そしてその瞳が、アダムを初めてただの人間の風に見せていた。


「あなたと契約解除を今すぐしたいのは、思い出を手に入れるって奴だよ。契約解除はキスをし合う事だって宗近が。ファーストキスぐらい初恋の相手としたい」


 アダムの瞳孔がぱっと開いた。

 彼は幸せいっぱいだという風に笑い、けれど、私が両目を瞑った途端に私から彼の手が離れてしまった。


 私はどうした事かと瞼を開ける。

 アダムは頭を抱えてしゃがんでいた。


「どうしたの?」


「だめだ。場所を変えよう。ここじゃきっと俺が止まらない。きっと最後までやってしまうに違いない」


 なんてこったい!!

 常識人本領発揮か!!

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