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ピンクフラミンゴな広場での、対決

 冬弦は第六王子と戦ったあの日と違い舳宇がそっけないと嘆き、アダムは冬弦のボヤきに対して適当なセリフを返していた。


 小中といじめられ続けた舳宇は、人気者の冬弦と仲が良いことを知られることで周りから妬みや嫉みを受ける事が怖いんだよ、と。


 親友に申し訳ないと思いながらも、アダムはあの日の舳宇が海宇であった真実を誰にも譲りたくは無いのである。


 アダムに群がる女性達は、彼の家の金と外見、そして遊び慣れた彼との行為を体験したいというそれだけだ。

 アダムが海宇に好意を抱いたのは、単に転びかけた海宇をアダムが支えただけであるのに、海宇が彼を騎士みたいと褒めたからである。


 子供みたいに目を煌かせて自分を見上げ、自分を清廉潔白な人だと信じてしまった彼女に、彼は心がぐらついたのである。

 彼女が望む騎士になってしまいたいくらいに。


「君の言う通りだ。あの日は私達以外は誰もいなかった。いいや。今まで怖いと思っていた私や君が怖くは無いと知って、舳宇はようやく自分を出せたのかな。それならば、今日は本当の舳宇に会えるんだな」


 冬弦の笑顔は期待に溢れる幸せそうなものである。

 アダムは親友の笑顔によって、胸の奥がキリッと痛んだ。

 これから彼らは能渡井兄妹と再会するが、冬弦は本物の海宇に出会うのだ。

 それから冬弦と再会した彼らは、残酷な真実を冬弦に伝えるだろう。

 そこで冬弦は失恋をすることになるとアダムは考えたが、親友に対して全く同情心など湧かなかった。


 アダムこそ実はあの日に失恋を経験している。

 海宇には兵庫宗近という、恋人がいたのだ。

 それでも海宇への気持を捨て去るどころか、彼女が例えた騎士として彼女に縋っていたいと思うばかりとは、と、アダムは自分をあざ笑った。


 考えてみろ。

 幼く清純だと思い込もうとしているが、海宇は男と下着のパンツを貸し借りできるほどに経験がある女であるのだぞ、と。


 しかしアダムは自分が考えたその言葉によって、海宇が制服シャツを脱ぎ棄てて肌を晒したあの日の記憶を頭の中でフラッシュバックさせてしまった。


 実際はチィアートが化けた海宇であったが、はにかみながら海宇が男物の制服を脱ぎ棄てたシーンは、あの日からアダムの頭の中で何度も反復されている。

 勿論海宇自身が告白した胸が小さいという情報で、彼の頭の中で上映される映像は書き換えられてもいたが。


 そしてその映像の海宇に、今初めて下着が加わったのである。

 上半身はアダムの脳みそが作り上げた裸のままだが、下にはフリルがついた白い小さなショーツを履いている、という海宇の姿に。


「兵庫が履くか?そんなのをあいつは履いているのか?」


「どうした?アダム?顔が赤いぞ?兵庫が何を履くんだ?」


「いや、あの、うわっと、ぐふ」


 アダムは冬弦に自分の妄想など説明できないと、咽た振りをした。

 それからどう冬弦を誤魔化すべきかと焦り、視線は勝手に周囲を泳いた。

 すると、彼は目を逸らせなくなる存在を見つけた。

 ピンク色の長い髪をツインテールに結った美少女が、まさにアダムと冬弦がターゲットであるかのようにして真っ直ぐと彼らに向かって来るのだ。


「まるで戦闘服だな」


 少女が着ているカーキ色のジャンパースカートは、真っ白のレースを幾重にも重ねパニエによって膨らんでいるという膝丈の可愛いものだ。

 それでもアダムが戦闘服だと思ってしまったのは、ジャンパースカートに合わせた大きな襟のシャツがミリタリー仕様であるだけでなく、彼女の格好自体がゴシックロリータ仕立てであるからであろう。


 さらに追記すれば、その人形のような美少女にはあからさまな闘志が見え、いきり立った様子でアダム達に向かって歩いてくるのである。


「プリュンゲル、とは」


 アダムは忌々しいという風に、彼女の種族名を吐き出していた。

 美しく誰をも魅了できる妖精は、男に栄光を与える事も出来るが、男から栄光を奪うどころか人生そのものを台無しにできる死神の側面も持っているのだ。


「面倒ごとは嫌だな。冬弦、逃げるぞ」


「どうした?」


「冬弦、プリュンゲルが俺達に向かって来ている。一先ず建物に入ってやり過ごそう。あれは今の俺達には不幸の手紙以上の存在だ」


「プリュンゲルなら丁度良いでは無いか。今日の幸運を祈って貰おう」


「その幸運は性行為の上で貰えるものだよ」


「知らなかった。逃げよう、アダム」


 けれど、プリュンゲルこそ彼らを逃す気は無かった。

 彼らが動き出したと知るや、両手を広げて彼等の目の前に駆けこんで来たのだ。


「逃がさないわよ。どっちがトーゲンで、どっちがアダム?」


 アダムと冬弦は名前を呼ばれた事で逃げ時を失った。

 二人同時にプリュンゲルを見返してしまったのだ。


 プリュンゲルの水色の大きな瞳は、魅惑どころか怒りの色しか見えなかった。

 アダムはプリュンゲルに魅惑される事は無いとホッとしたが、冬弦がアダムの一歩前に進んでしまったことには慌てた。

 白昼の憩いの広場で、冬弦は殺気を身に纏っている。


「おい、冬弦」


 冬弦はアダムを押しとどめるように右手の手のひらを見せる。

 それから、冬弦は目の前のプリュンゲルに傲慢そうに話しかけた。


「君こそ何者かな?私の兄弟の手のものか?」


「あなたの兄妹じゃないわよお!!ミウもトモもはるものものなのお!!」


「あの兄妹は私のものだ」


「ちがあああう。はるものものよ!!」


「プリュンゲルは残念な生き物なのかな?アダム?」


「冬弦、空気を読んでくれ」


「もう、もう!バカにして!!あなた方には、大いなる暗黒で不幸な超ド級をお見舞いしまああああす!!」


「ほら、ばかやろう」


 アダムはがっかりした気持ちのまま、両手で顔を覆っていた。

 これから海宇に会うというのに、彼と冬弦はプリュンゲルの呪いを受けたのだ。

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