妖精と人間の契約による弊害、とは?
私の目の前で妖精の魔法が行われた。
そしてそれを私は認識していない。
なぜならば、私が気が付かない間に行われたことどころか、私が生きて動いた数秒が変更された、という魔法だからである。
そんな運命を弄るような魔法を使えるのは宗近であり、昨日に彼の妖精の出自がトリックスターだと聞いて納得したものだと思い出す。
「気持悪く無いの?数秒前の出来事が修正されているんだよ?」
私がテーブルにソーダ水を零した未来が修正されたのだ。
気味が悪いと思うはずなど無いだろう。
「ソーダでテーブルがびしゃびしゃっていう未来から救って貰ったんだもの。感謝しか無いよ?」
「君は本当に楽天家で考え無し。俺が修正できるのは二分間。だけどね、その二分で最悪の結果に変更する事だってできるんだよ?」
私は冷蔵庫の前へと行くと、冷凍室の扉を引き出した。
中には業務用アイスクリームのプラ箱が入っているはずだが、そこはそれがあったという空間だけしか無かった。
私は扉を閉めてテーブルへと振り返った。
すでに宗近がソーダ入りのグラスにアイスを入れている。
そう言えば私は記憶がある?
ソーダをグラスに注ぐ前に、誰がグラスに氷とシロップを入れていたの?
「二分だ。たった二分でこれだけできる。君が気が付かないうちに、俺が君を殺してしまうなんてことも出来ると理解してほしいな」
私は冷蔵庫から羊羹を出すことは止めた。
なぜならば、すでに切られて皿に盛られているはずなのだ。
私は宗近の所に歩いて行くと、宗近を後ろから抱き締めた。
「お疲れ。昨日は散々に頑張ってくれたんだね」
「良いよ、楽しかったから。隙あれば親友を悩ます男を葬るつもりだったけどね、あいつはあいつで、うん、可哀想だったから止めた」
「で、舳宇の相談事は聞いてたんだな、貴様は!!」
私は宗近に回していた腕に力を込めた。
万力みたいに締め付けてきた私を振り払うどころか、宗近は嬉しそうな声を上げて笑う。
「痛い痛い。女の子の癖に腕力あるんだから止めて。俺を痛めつけても舳宇から受けた相談は言わないよ。舳宇は俺の親友だからね」
「わかったよ」
力を抜き始めた私の両腕を宗近は掴む。
そして私に自分を抱かせたまま、彼は不穏当なセリフを口にした。
「人間と妖精の契約を破棄するには、どちらかが死ぬか、契約完了の口づけをし合うしかない」
「えっと?」
「君とアダム、舳宇と冬弦は、単に契約を結んだってだけ。ただし、妖精の血を使った絆の深いものだ」
「だから、私が呪を使うたびにアダムが影響されるの?」
「逆じゃなくて良かったね。アダムが君を思って一人エッチするたびに、君がビクビクする事になったら目が当てられない。わかった?アダモっちゃんの為に君も禁欲生活をしてあげようね?」
「そ、そんなことするか!」
私は宗近から離れようとしたが、宗近は笑い声をあげながら私の腕をさらに強くつかみ、なんと、自分の体に巻きつける。
「ちょ、ちょっと、宗近」
「いいじゃん。男子トイレで君が俺に抱きついたからさ、アダモっちゃんは俺達が付き合っているって誤解したんだよ。なのに、それでも、海宇に尽くしちゃうなんて、信じられないよ。あの遊び人な人が」
「え?彼はそんな人じゃないでしょう」
「そんな人だよ。あの外見で種族はエンキアメル神族だ。人間だろうが妖精だろうが、彼は狙いどころの良い男だと思うよ?」
「嘘、だって。えっと、アダムが純粋で奥手に見えたのは、私と契約してしまった後遺症?冬弦も舳宇が忘れられないって言ってた。それは全部、私が、舳宇が、彼らの血を舐めてしまったから?」
「だね」
「どうしよう。解放してあげなきゃ」
「では、何のために契約を結んだのか考えて。そんなに難しい事じゃないよ。舳宇は第一王子を異界流しにした事で契約完了をしている。だから、口づけし合ったそこで関係は切れる。君だっても第六王子を異界流しにした事で、多分、契約完了となっているんじゃないかな?」
私は何も言えなかった。
あの時の私は、アダムの怪我に怒りばかり、だった。
それで力を得て、チィアートを破壊した、という流れなだけだ。
だけど、発端はシルフィダテ族の襲撃だから、シルフィダテ族を異界流ししたのならば、宗近が言う通りに私とアダムは契約完了となるのだろうか?
「契約違いでキスしたらどうなるの?」
「さあ?」
「さあって、ちょっと!!」
「いいじゃない。キスの一つや二つ。キスに抵抗があるんなら俺と練習しとく?」
宗近は掴んでいる私の右手を持ち上げて、なんと、ちゅっと私の手の甲にキスなんかしてきたじゃないか。
私は左手で宗近の脇腹をくすぐり、宗近の力が弱まったそこで両手を彼から引き抜いた。
もちろん、悪戯な男の背中をキスされた右手て叩く。
「痛!」
「キスはそんな軽々しくするもんじゃないの!!」
だけど、しなきゃならない?
アダムと?
私のファーストキスだよ?




