幼馴染の春桃ちゃんと昨日の話
「ああああ!はるもも海宇とガッコに行きたかった!!」
我が家の畳敷きの和室である居間で春桃は叫んで丸まり、ツインテールにした長いピンクの髪は彼女の動きに合わせて宙をぶんぶんと飛んだ。
一本の先が私の頭をぽんと叩く。
私はその仕返しのようにして、座布団を抱き締めて丸まっている幼馴染で親友の頭をポンと撫でた。
「休み明けにはまた一緒の登校だろ?」
「ちがあああう。はるもも、エトマネキねきに行けば良かったって言ってるの」
「君は男性恐怖症じゃ無かった?あそこは男子校だろ?あ、もしかして、舳宇と過ごした一日で克服した?」
びゅんと、座布団が飛んできた。
クッションと違い座布団は重くて攻撃力がある。
なのによけずに私は重たい衝撃を受け止めた。
クッションと違って座布団には攻撃力があるので、ぶつかれば襖が外れる。
「座布団投げんな。危ないだろ?」
「海宇ははるもに冷たくなった。女の友情はどうなったの」
ぷくっと頬を膨らませて怒る春桃は可愛いの一言で、私が彼女の我儘にどこまでも付き合ってしまうのは、この可愛さのせいだと改めて認識した。
水色の大きな瞳は猫みたいだし、お人形のような顔は美しい事この上ないが、お人形に例えられるぐらいに無垢そうな幼さがある。
「春桃は本気で可愛いよなあ。アイス食べる?クリームソーダにしちゃう?」
「ん~もおおおう。海宇の返しが話を聞かない彼氏みたいでいやあ」
「彼氏いたことないじゃない」
「ひっどおおおい、みう~!!」
「ちな、俺は食べたいから作って、海宇」
私は春桃がここまで騒ぐ理由となった男に振り向いた。
宗近は昨日の事件の事は詳しく語っていないが、私が生徒会の面々と、特にアダムと仲良くなったアレコレを詳しく話して春桃を煽ったのである。
人に諍いの種を撒くロキそのものか、貴様は。
ちなみに、なぜ春桃を私の部屋に招いて私から昨日の話を彼女にしていないのか、は、宗近を私の部屋に絶対に入れたくなかったからである。
兄の親友である宗近が兄から離れないのであれば、昨日の話を兄から聞くために私と春桃の会合に兄一人だけを招くなんて不可能だ。
「海宇はアダモっちゃんを知ってから、アダモっちゃん一筋だよね。俺を部屋に入れてくれなくなった。酷いと思うでしょ、モモちゃん」
「しった?しったって、やっちゃったってこと?」
「違うし、春桃」
「え、アダモっちゃんの体液舐めたじゃない」
「きゃあああ。みうはふけつ~!!」
「違うって、春桃!宗近は黙れよ。君こそ先輩達と繁華街に消えたくせに!!」
宗近はあの後、私と一緒に帰らなかった。
遅い時間に一人で我が家に帰って来たのである。
遅い時間ならば自分の部屋にこそ帰れと言いたいが、我が両親が宗近の帰還を迷子になった猫が帰って来たかのように持て囃したので受け入れるしかない。
それだけならばいつものことだが、宗近はお土産と称して、私の大事なパンツボックスに、本物の勝負下着を入れてくれたのである。
白いフリフリの生地にトリコロールカラーのリボンと白いレースがついてるという、可愛らしいことこの上ないブラとショーツのセットだ。
「なんじゃ、これは!!」
「マイフェアレディをイメージしました。マイフェアレディの原作ってピグマリオンだって知ってる?自分で作った女神像に恋をする男の話をモチーフにした悲恋物語だねえ。でも映画やミュージカルでは原作と違うハッピーエンドになったし、君の頑張りによるんじゃない?」
「意味わかんないし、ふざけんなよ」
もちろん私はそれを宗近に叩き返し、私の部屋への立ち入りを一切禁止にしたとそういうわけである。
ああ、思い出したら宗近にイライラしてきた。
そんな私の気も知らないで、宗近は昨夜に私から受けた罵倒など忘れ去った顔で、我が両親を誑し込んでいる甘ったるい笑みを私に向けている。
「ぶはっ!座布団投げるなんて!!」
「うっさい。君はまず反省して。そんでもって、私は、今、大事な自分の親友とお話しているの。邪魔しないでくれるかな?」
「ひどい!俺とお前は公然に認められたツレだろう!!」
「いやあ!親友なんて言わないで!」
「いや、春桃こそ話聞いてた?私の親友は、君。あんなトリックスターは友達なんかじゃない」
「だよな、俺達は親友じゃない。ツレだもんな」
「まぜっかえすなよ、宗近!!」
「はるもだって親友じゃないもの。それよか深い、愛人なんだもん~」
「ま~た訳の分かんないことを言い出して来たな」
「訳わかんなくなんか無いよ!!はるもも混乱中なの。海宇じゃ無いと駄目なのに、舳宇にとっても馴染んじゃってた。海宇じゃなくても平気だったなんて、はるもがプリュンゲルそのものだったってことじゃない!!」
プリュンゲル族は女のみの種族だ。
そこが冬弦の母のパスマトデア族と同じだが、支配どころか勝利の女神として人間に栄光を与えてきた種族であるところが違う。
なお、その部分だけならば素晴らしき一族と言えようが、言い換えれば、良いなと思った相手と簡単に寝てしまう性であるという事だ。
つまり美しい姿のプリュンゲル族の血を引いた人は、気が付いたら毎朝違う天井を目にすることになる、という日常に悩むことも多いらしい。
そこで妻に栄光を与えられて大金持ちとなった春桃の父は、妻の奔放さを受けいれながらも大事な娘がそのような生き方をしないように箱入りにしている。
春桃の親友となった私を泣き落とし、学費から卒業後の進路だって欲しいものは何でも与えると我が親を抱き込み、私を春桃と一緒の女子校に押し込んでしまうぐらいに、徹底して、だ。
舳宇が高校受験時に一人になると落ち込んだのは、これが理由である。
舳宇だって自分が春桃の親友だって思っていた、から。




