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十三番目の王子と六番目の王子

 無二の親友と言うが、実際にもそういうものなのか?

 音楽室の戸口に現われたアダムはアダムにしか私には見えなかった。

 しかし冬弦にはそれが虫型自動殺戮兵器(チィアート)がアダムに擬態しただけだとわかっていたのか、誰何する事も無く剣を振るった。


「雷光爆裂」


 敵に突進するわけでもなく冬弦は呟き、その場で剣で真一文字に宙を斬っただけである。

 けれど剣が纏っていた輝が、そもそもレーザー砲のようなものだったのか。

 冬弦が剣を振るうや、その輝きが戸口に立つアダムに向かって行ったのである。


 剣の筋である青白い電光は、アダムの胴体に当たったそこで、冬弦の呟きの意味を知らしめようとする勢いで、弾けた。


 あとは、そう、あとはそれがチィアートだった結果をそこに印しただけだ。


 床に転がっているのはアダムの標本、精巧な3Dメタリックナノパズルで組み立てられていたとしか見えないものがある。

 それが壊れたナノパズルにしか見えないのは、胸から上と腰から下のアダムのままの大きい塊であるが、それ以外の壊れた部分がナノパズルピース状態に崩れてちらばっているからだ。


 虫の死骸はナノピースに例えるには大きすぎるサイズだが、崩れかけているオブジェの姿がナノパズルにしか例えられない。

 いや、虫だという事こそ忘れたい!!


「アダムを作るには、チィアートはどれだけ必要だったの?」


「さあ。あいつに化けてくれたから、一気に大量を片付けられてラッキーだったのは確かだな」


「ははは」


 アダムを形作っていたチィアートは、今や煤けて煙を上げて散らばっている。

 まだアダムのままの部分でさえ、ぷすぷすと音を立てて爆ぜているので、それが二度と動き出すことは無いと思うが、私はかなり脅えていた。


 見つけたゴキブリを退治しても再び動き出してきそうな恐怖をどうしても拭いきれない時の恐怖と、そして、そんな日常の恐怖を持ち出せねば自分を保てない程に感じている恐怖を振り払えないという脅えだ。


 冬弦、触れてもいないのに敵を倒した。

 彼を怒らした場合に私が逃げ切れる可能性が果てしなく、無い?


「ひどいな。親友の俺に剣を向けるとはな」


 音楽室の戸口には、アダムが腕を組んで立っていた。

 もう一体?

 私は冬弦の肩越しからアダムを見つめたが、アダムとは目が合わなかった。


 当たり前だ、アダムは笑顔のままだが冬弦から目を離せないのである。

 冬弦は剣を構えたままである。


 やはり、目の前のアダムもチィアートなの?


「私の命が聞けないのであれば、親友だろうが切り殺すが?」


「聞くわけ無いだろ?俺はお前の親友であって家来じゃ無いからな」


 しゅん。


 冬弦の握る剣は輝きを失い、単なる白木の杖に戻った。

 では、目の前のアダムは本物か。


「ハッシュ。そうか、君は生きていて、君こそ君に擬態していたのか」


「意味が解らないな。冬弦」


「君が勉強家だと言っているんだ。だが、親友だからこそアダムと私には君には分からない合図を持っているんだよ?」


「合図?そんなものは無いとアダムの意識は言っているぞ」


 私はハッシュの台詞に衝撃を受けたまま、戸口のそれを見つめ直した。

 アダムの姿をしたそれは、しゅんと音を立てて崩れた。

 そして、一瞬で崩壊したそれは、そのまま弾丸となって私達に!!


「ひふみ よいむなや こともちろらね!!」


 冬弦が声を上げた。

 彼が言葉にしたのはひふみ祝詞の文言だが、彼は祝詞の読み方をせず、ただ単にその文言を大声で一気に発しただけだ。


「最強の祝詞を唱える妖精か。冗談がすぎる」


 それだけじゃない。

 冬弦は剣を一振りしたあとに床に打ち付けていた。

 まるで神事の演舞のようにして。


 彼の一振りによって私達に襲い掛かった脅威は、目の前で悪夢が消えるようにして消え去っていた。

 悪夢の代りに残るのは現実。


 床には冬弦の兄弟、ハッシュが真の姿となって転がっていた。


 ハッシュを形作っていたのは、チィアートそのものだったのか。

 冬弦の一振りでチィアートを祓われたハッシュは、今や幼稚園児ぐらいの姿形となって床に転がっているのである。


 白い髪に白すぎる肌は生き物にしては光沢があり、ひと目で人とは違う生命体だと嫌悪感を抱くものであるが、今や失いそうな命を抱えて苦悶しているだけだ。

 死にかけた生き物は、それも幼子の姿形をしているのならば、思わず抱きしめたくなる哀れを誘うものである。


 あどけない顔をしたそれは、冬弦に向かって手を伸ばす。

 しかし私達に向けた顔には、大人の皮肉そうな表情が宿っていた。


「シルフィダテ族は私が死んでも死んだとは認めない。何しろ、私は五歳の頃に死んでいる。死んだ私をこうして使っているだけなのだ」


「ハッシュよ、私にシルフィダテ族の殲滅を願うか?」


「いいや。シルフィダテ族は止まらないと言っているだけだ。奴らは一匹残らず私の血肉を植え込んでいるからな。私の死を隠すために。だからシルフィダテ族は私であり、私は私がある限り生き続ける」


「それは」


「お前の大事な親友の血肉は旨かった」


 冬弦から、いいえ、私からも、息を飲んでしまった音が出た。

 だってハッシュが口にしたその台詞は、アダムがすでにハッシュに汚染されているって意味でもあるのだから。

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