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そして彼は私に全てを委ねた

 私は必死だった。

 冬弦は私に彼の真実を全て知って欲しいと思っている。

 彼の真実を知ったら、私は彼を受け入れねばならなくなる。


「人は心に闇を抱えていようが、相手に誠実であればいいと僕は思います。馬鹿正直に隠したい心のうちをつま開きにして、わざわざ心から血を吹き出す必要なんか無いんです!!」


 頼むからカミングアウトは諦めて!!

 私と舳宇はあなたに対して思いっ切り不誠実だよ?


 そんな私の心の中の叫びなど冬弦に伝わるわけ無かった。

 本音を声に出してはいないのだから、伝わる方がおかしいだろう。

 そのため、王子らしく高潔な冬弦は、私こそ自分が薄汚れていると認めるしかない方向にしか進もうとしてくれなかった。


 すわ、カミングアウトの開始だ。


「敢えて黙ってる行為こそ不誠実だと思わないかな?いいや。私は君に全部曝け出した上で自分を君に判断して欲しいと望んでいるのだ」


 それって、全部知っても裏切るなよ、ということじゃないの!!

 私が知りたくも無い暴露をしようとする冬弦を、どうやって止めようか。

 しかし全く言葉が浮かばない。

 私は追い詰められた気持ちとなりながら、取りあえず冬弦を真っ直ぐに見つめ返した。


 そこで私は見てしまった。

 口元をきゅっと閉じた彼をだ。

 冬弦は一見無表情に見えるが、自分の不安を隠して無表情を演出しているだけにしか見えないのである。


 彼の不安を知った私は、自分の敗北を知った。

 きっとどころか確実に、私は彼に言うであろう。

 あなたが不安に思っている事など気にしませんよ、なんて偽善者的な台詞を。

 私も口元をきゅっと閉じあた後、唾を大きく飲み込んだ。


 ままよ!


 私はゆっくりと口を開いた。


「いいでしょう。聞きましょう。あなたが語りたい真実を」


 しかし、私はそこですぐに気が付いた。

 彼を押しとどめる言葉がまだ残っていたことに。


「ただし、僕は能渡井家の人間です。あなたが傷ついてまで語りたいそれこそ知っているかもしれませんよ?」


「ああ、そうだったな。妖精を異界流しできる能渡井家の者ならば知っているはずだったな。パスマトデア族の本当の姿を」


 私はここでは素直に頷いた。

 異形の者への知識を物心ついた時からしっかりと脳みそに叩きこまれているのは、能渡井家の者だけでなく、能渡井家のように純粋な人間のまま家が続いている者達全員であるのは公然の事実だからだ。

 でなければ妖精に狩られて生き残ってはいまい。


「ですから」


「いいや。いや、気が付かせてくれてありがとう。気が楽になった」


「では」


「ああ。これで君には安心して隠していた自分をさらけ出せる」


 ちくしょう!!

 また選択失敗だったとは!!


「では、見てくれ。はっきりと。これが私の真実の姿だ」


 私は完全敗北な気持ちのまま、冬弦を見つめるしかなくなった。

 冬弦は私に微笑むと、自分の胸に右腕を押しつけた。


 右手には彼の愛用刀であろう、白木の杖が握られている。

 これから死んでいく兵士みたいな表情をした男の顔の中で生気を持って輝くのは、私よりも黒々とした冬弦の双眸。

 闇そのものの色のその瞳が、雷と同じ輝きを発した。

 それは彼が握る杖から出た光かもしれないが、彼自身から放たれてもいるはずの青い稲妻の輝きである。


「まさか」


 私はその輝きの中に見える真実のせいで、自分の顎の骨が外れたと思った。

 そのぐらい、みっともなく口をアポンと開けていた。

 光を浴びている冬弦の頭部は、まさしく昆虫のものと変化していた。


 いいや、それでは彼への侮辱となるだろう。

 そもそも彼の地色は虫色の茶でも緑でも無かった。


 白だ。


 丸みを帯びている大きな三角の黒い眼が顔の殆どを占め、目を際立たせるためにあるかのように青銀色の触覚が生えている。

 口元や輪郭はもともとの冬弦のものよりも昆虫的ともいえる流線形だが、そのために作り物めいたマスクであるように演出している。


 つまり、彼の妖精の顔はもとの妖精トゲナナフシ族とは程遠い、昆虫系だとわかるけれど子供が見る特撮物であるようにして、誰が見ても格好が良いと言えるデザインマスクなのである。


 しゅっと光が突如として消えた。

 私の目の前の男性は、特撮ヒーローから単なる美男子に戻っていた。

 単なるでは無い。

 人生全てを賭けている人間の必至さで私を見つめているのである。


 私は右手を彼に向けて差し出していた。

 自分の姿が嫌われるものだと思いながらも、私の信頼を得るために己の真実の姿を露わにしたのだ。

 そんな誠実な彼を否定する事など、一体誰が出来るというの?

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