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能渡井家だからこそ

 冬弦を生んだお母さんが国民的美人女優さんであり、その女優がパスマトデア族というトゲナナフシそっくりな昆虫型妖精だったとは。


「うそお!かえでさんがパスマトデア族の女王だったのですか?」


 年齢不詳の大女優、胡ノ葉かえでの美しい顔が私の脳裏に浮かんでいる。

 冬弦のお父さんは節操ないどころか普通の人だった。

 あんな美女に誘われたならば、どんなお堅い男でも乗っかってしまうだろう。


「わかったかな。母は女優としてこの国の老若男女の心を掴み、ついでにめぼしい族の血を引く男達を喰っては子を成している。生んでも育てはせずに男任せ。そんな私の兄弟姉妹は今や十五人。いや、私が倒したせいで十四人か」


「それで王位継承権の殺し合いが始まりましたけど、その殺し合いの号令をかけたのは女王様ですよね?母親なのに?」


「もともとパスマトデア族にはオスがいない。それなのに他種族との混血で生まれた十六人の子供のうち十人もオスだった。良い機会だと増えすぎたオスを粛清することにしただけかもな。いや、十二番目の子供だったコゼットは一昨年流感で呆気なく死んだからね、弱いメスもいらない、ということかな」


 子供への愛情よりも種族の存続と発展だけしか考えていないのか。

 自分が産んだ子供同士に殺し合いをさせるパスマトデアの女王の残酷さを知った衝撃に、私はぞっとしたと背中を震わせていた。

 それだけではない。

 勝手に声が出ていた。


「やばい。パスマトデア族」


「そうだな。ヤバイ。昆虫のナナフシは擬態して生きるだけの生き物でしかないのに、妖精のナナフシは擬態しながら他種族の王の芽を摘んだ上で、その種族のせん滅を計るような恐ろしい性質だ」


「芽を摘む?」


「何のために母は族長の息子を誑かして、その男と子を成していると思っている?母が産んだ子をその族の族長に添えるためだ。拒否したくとも力関係でパスマトデア族に立ち向かえる種族などほとんどいないだろ?」


 虫型自動殺戮兵器(チィアート)に悩まされている真っ最中の私は、どうしてパスマトデア族がこの世界で君臨できているのか考えるまでも無い。


「そ、そうですね。あ、もしかして、女王は自分の子でこの日本を掌握しようともしているのですか?それで、えっと冬弦さんが東北として、ええと、関東甲信越どころか、関西地方とかで、わざと地域を変えてピックアップした有力な種族と作られた子供、とか?」


「その通りだが、どうして君は私が東北の者だと?」


 実は無能力者に近い能渡井家であるからして、家や己の命を守るためにはひたすらにみみっちく小細工を重ねている。

 自分が能力者であるように相手に思い込ませる方法として一番手っ取り早いのは、その世界に通じているかのように語れる知識を大量に備えることである。

 タギツヒメと聞いたところで、私はまずタギツヒメを主祭神とする神社のある場所について記憶を探った。

 それから冬弦が色白で彫りの深い顔立ちが東北の人みたいだからと、二社あるうちの青森の方だろうと当たりを付けただけである。


 そうして答えらしきものを得たとしても、能渡井家の者が正直に語る事は無い。

 能渡井家の真実を気取られないようにと、必ず嘘を吐くのだ。


「勘、ですか?とりあえず能渡井家の者ですので」


「やっぱりか。能力者は違うな。父は母に血筋について教えられるまで知らなかったそうだ。妖精はもちろん、君達のような能力者はひと目で相手のルーツについて見抜くのだな。それで君は海宇から私を遠ざけたいのか。では聞こう。私は君にはどう見えた?」


 冬弦の最後の一言は、物凄く不穏に聞こえる低い声であった。


 しまった。

 冬弦と海宇の仲を許さないのは、冬弦の真実の姿を見たからだと誤解された?


 ここは心眼がある能力者のふりをするべきではなく、もとは陰陽寮に籍を置いていた一族だから単に神社に詳しいだけ、と振舞うべきだった。

 恋の邪魔者として冬弦に粛清されたらことである。


「え、ええと。あなたを海宇から遠ざけたいのは、ま、まだ、あいつが子供だからで、あの、僕はそれしか考えていなかったというか、あの、し、しっかりとあなたを見たわけでは無いので」


 ああ、私の馬鹿!

 能渡井家真実を隠すためのいつもの癖での物言いだけど、私の言葉のせいで冬弦が真実を見せようになったら、私は冬弦の願いを受け入れるしか無くなっちゃうじゃないの!!


「君は優しく公正だな。そうだ、そんな所がアダムに似ているからこそアダムは君を守ろうとするんだろうな。あいつはエンキアメル族だけあって真っ当だ」


「い、いいえ。アダムさんほど真っ当ではありません、僕は」


 こうして男装してあなたを騙していますからね?

 嘘ばかりな私は罪悪感で胸が痛い。

 しかし、何も知らない冬弦は私に対してさらに好感を抱いたのか、私に対して言ってはならないことを言った。


 私が一番言って欲しくないセリフだ。


「君のように誠実な人間に信じて貰いたいならば、矮小なプライドなどにしがみ付かず、自分の全てを曝け出すべきだと思う」


「いいえ!カミングアウトはしなくても不誠実にはならないんです!!」


 もうアワアワだよ、私は。

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