秘密のお話をしていいかな?
妖精から力を拝借する能渡井家秘術、他人のふんどしで相撲しよう、は、力を共有させてもらった妖精に性的快感を与える効果があったらしい。
と、いうことはと、私はアダムとの色々のことを思い出して赤面ばかりだ。
あの誠実で純情そうな男が、何度も意味不明に真っ赤になって動揺していた理由がそうだったのかと気が付いた私は、いたたまれなくなったどころでは無い。
自分の黒歴史を思い出して叫び出してしまう人みたいに、私は全てを振り払う勢いで叫びながら駆け出していた。
そして気が付けば、私は目的地だった音楽室にいる。
「舳宇、大丈夫か?」
さすが、妖精の血を引く男。
体を動かした形跡もない涼しい顔で、私に手をさし伸ばしてきた。
息を吸うのに肩を上下させ、さらに、喉には貼り付くような熱感だってある私は、肉体差に悔しく思うどころかありがたく思いながら冬弦の手を取った。
「だ、だいジョブです」
「付き合わせてすまないな。私は君とさしで話しがしたかった。いや、聞きたくなければそれでいい。私が語りたいだけだ。君が息を整える間だけ、私が独り言をつぶやくのを許して欲しい」
「み、海宇との、はあっ、ふ、ふざけた未来話じゃ無ければ、い、いいですよ」
「そうだな。きっと私はふざけているのだろう」
私は冬弦の声の調子に驚いた。
傷ついた人が出すような、なんだか疲れている声だったのである。
私は驚いたそのまま冬弦を真っ直ぐに見てしまった。
そこで息を飲んだ。
冬弦は微笑んでいたが、その笑顔は見覚えのあるものだったからだ。
昨年の受験シーズンの真っただ中、高校に進学したくないと言い出した舳宇が浮かべた笑顔に似ていたのだ。
ごめんね、もう僕は疲れちゃったんだ、と。
僕に気兼ねせずに海宇は好きにしなよ?
いや、いつまでも我が家に居座ろうとした宗近に帰れと言った時、宗近が浮かべた笑顔ににも似ている、かも。
私は冬弦の手から自分の手を外すと、その手を胸元に押し当てた。
この表情を浮かべた人達の頼み事を絶対に聞いてしまうことになるからと、私は自分を抑え付けるために胸に手を当てたのだ。
舳宇についてはあの日の記憶があるから、私が今ここにいる。
そして宗近にいたっては、好きなだけ我が家にいて良いよ、と言ってしまったばかりに、大事な勝負パンツを彼に奪われ続けているじゃないか。
「な、何を言っても海宇は渡さないぞ!!」
私は冬弦に対して、最後の抵抗の声を上げていた。
冬弦の要求だけは通すことなど出来ない。
彼が恋した相手が兄が女装した幻であろうが、兄が名乗った海宇は私自身であるからして、私が海宇と冬弦の交際を認めるわけにはいかないのだ。
しかし冬弦は、それでいい、と静かに言った。
「くはっ!そういう佇まいはやめて!」
「そうだな。私の振る舞いは嘘くさく見えるだろうな。純粋な人間には、特に」
「いやっ、あの、そういう意味ではなくて」
「いいのだ。私はよくわかっている。父方はスサノオの血族だと私は便宜上公言しているが、正しくはアマテラスとスサノオが誓約をした際に生まれたタギツヒメの血を受けた一族、だ。そして母の種族は、パスマトデア族だ」
私は冬弦をまじまじと見つめるしか無かった。
日本で権勢を誇っている妖精族は三種となる。
もともとの八百万の神も妖精の一種とカウントした上で、経済や軍事的などの人間の生活に関わる部分にまで影響を及ぼしている種族が三種、という事だ。
ちなみに、妖精族の族名こそ、生物に学名をつけて分類してきた人間こそが名付けたものである。
さらに言うならば、妖精は族名を人間に付けられる事で人間界に紐づけられるからと、積極的に人間に名付けさせたという経緯がある。
話は戻るが、日本に影響を及ぼす三種のうちのその一つが、冬弦が母だと語ったパスマトデア族である。
冬弦が寂し気に自嘲している意味が瞬時に理解できた。
パスマトデア族と言えば、外見が枯れ枝そっくりなトゲナナフシに酷似しているという、出会ったら逃げ出したくなるバリバリの昆虫型なのである。
人間の感覚が強いのであれば、自分の本当の姿があれだと考えるのは嫌だろう。
あれと繁殖できるとは、冬弦さんのお父さんは見境が無い人だったんだね。
「パスマトデア族は擬態の天才だ。女王でもある我が母パーシパエは、胡ノ葉かえでと名乗ってる。名前だけならば君は知っているのではないかな?」
「うそお!かえでさんがパスマトデア族の女王だったのですか?」
多くの伝説的化け物を生んだとされるギリシャ神話の女神の名前を持つ妖精女王が、日本で大人気の美人女優だっただけでなく、単体生殖が可能でメスだけで増える枯れ枝そっくりなトゲナナフシだったとは!!




