最後の群体を求めて
厨房で自動殺戮兵器の二群体目を倒した。
あと一群体残すだけとなったが、その最後の一群体がどこに潜んでいるのかわからない。
「行くぞ」
「はい?」
冬弦は私の左の二の腕を掴むと、厨房の外へと私を連れて行こうとする。
私とアダムが仲が良いのがそんなにも苛立つのか?
「当初の計画通り音楽室に行くぞ、舳宇。アダムは特別室にて待機だ」
アダムは冬弦に言い返したそうな顔をしたが、私達を黙って見送った。
ただし、アダムの腕を組んだ仕草は、私達を引き留めたい自分こそを押さえつけた様にも見えた。
冬弦は食堂を出ても私から手を離さず、音楽室があるらしい方角へと廊下をずんずんと歩いて行く。
「どうしてそんなに音楽室に行きたいのですか?」
「隠れたチィアートを呼ぶためだよ、もちろん」
「僕達は囮になる、と?」
「その通り。敵が殺したかったのは私だ。私が仲間から離れる事でチィアートは私一人に狙いを定めるはずだ」
そんなものにただ一人人間の私を巻き込むのですか?
私が冬弦の恋の障壁となると考えて、冬弦は本気で私を亡き者にするつもりであるのだろうか。
「常に一緒に行動しているならば、君が確実に本物だと間違えようもない。チィアートが私を襲うために君に化けることも出来ない。私は君だけには刃を向けたくはないんだ」
この人は!!
私の口元は綻んでいた。
冬弦の純粋さや真摯な所が、とても好ましく嬉しく感じていたのだ。
「急ぎましょう!!さっさと音楽室に行って、チィアートをやっつけてしまいましょう!!」
冬弦は私に顔を向けた。
珍しく驚いた表情をしていたが、それは私が珍しく好意的なセリフを彼に返したからだろう。
それを証明するみたいにして、冬弦はくしゃっと端正な顔を笑い顔にした。
その顔はクリスマスプレゼントを貰った子供顔だ。
「舳宇がいれば百人力だな」
「その通りですよ。僕はステゴロで負けたことはありません」
「何?ステゴロ?能渡井家の秘術の一つか?」
「いえ。普通の喧嘩です。あ、そうだ。どうして僕が術をすることを禁止したのですか?」
もともと仕掛があった事を知っているから冬弦が私を止めたのは分かるが、冬弦は私に「それはするな」と言ったのだ。
私が始動しようとしていた術を異界流しと知っていてのそれだろうか?
異界流しについてはチィアートに有効かわからないという一か八かでしか無いものだったので、失敗した場合を考えると止めて貰えて私というか能渡井家は助かったが。
「危険な呪だという事は聞いている。海宇が言ったのだ。能渡井家に代々伝わる命懸けの術であると。君を死なせるわけにはいかん」
「あ、あざすです。それで、あの、どうして海宇がそんな我が家の秘密をあなたに語ったのでしょうか?」
「海宇に罰を与える気か?」
「いいえ。実際にその日に何があったのか僕は妹から聞いていないので、教えていただけたらと」
「あとで海宇に」
「何もしないから言えよ!!」
「簡単な事だ。海宇に懸想した第一王子はそれはもうしつこくてな。海宇を守る私は多勢に無勢もあって、奴と差し違えるぐらいまで追い詰められた」
「……もしかして、第一王子を妖精界に返したのは、……海宇?」
「ああ。彼女は呪を放つために力を下さいと私に願った。私の力さえあれば命を失わずに能渡井家秘術を解放できると彼女は言ったのだ。私は我が力を全て与えると彼女に伝え、彼女は満身創痍の私の額にキスをした。海宇は私の額に滲んだ血を舐め、そして、能渡井家秘術を使ったのだ。私達の未来のために」
「そ、そうか」
「あれは凄かった。術の発動で私はイクとは思わなかった」
私の足はぴたっと動きを止めていた。
私の腕を引く冬弦は、私の急な立ち止まりなど影響しなかった。
彼こそ思い出した記憶にうっとりと立ち止まっているのだから。
「冬弦さん。僕は今まで知りませんでしたが、僕達が妖精の力を借りる呪は、借りた妖精自身に影響を及ぼしてしまうものだったのですか?」
「他は知らんが、私にはかなりの性的解放があったな。言い伝えで妖精が人間と契約をしたがる理由がわかったと、あの日の私は思ったものだ」
「うわあああああ!!」
「わあ!!どうした、舳宇!!」
「アダムが~!アダムも~!もしかしたら~」
「ああ。あいつが君に執着するのはそのせいかな。私はあの夜から海宇の事が忘れられない。彼女を抱き締め一つになりたいとそればかりだ」
「わあああああ!」
私はとにかく駆け出していた。
考えるよりも逃げ出したい、そればかりだった。
だから、校舎三階にある音楽室へ行くための階段を昇り切ることも苦にならなかったし、息が切れても長い渡り廊下を最後まで駆け抜けていた。
「意外と体力があるじゃないか。音楽室にようこそ」
「うぎゃ、いつのまに!!」
「ずっと君に並走してたぞ。私達は一蓮托生なのだろう?」
冬弦は音楽室の扉を引いて開けた。
そして私に手を差し伸べる。
荒い息を吐きながらしゃがみこんでいた私は、冬弦の差し出した手を掴んだ。
「さあ、ラストダンスを踊ろうか、舳宇」




