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皆殺しが終わるまで解放無し

 堂上、もうアダムと呼ぼう。

 狛犬についても冬弦と呼ばねばならない。

 思わず苗字で呼んでしまうと、アダムだ冬弦だと一々訂正が入って面倒なので、今後は思考の時点からあの二人を名前呼びにしてやろう。


 それも呼び捨てだ、ハハハ。


 さて食事が終われば、昼寝どころか活動開始となる。

 私を含めて五人の戦士は学校に泊まることは我慢できない人達であるからして、積極的に化け物を退治して帰宅しようという方針を選択した。

 そこでの作戦会議、である。


「兵庫に擬態した奴がいたということは、あと二群体も入り込んでいるな」


「トーゲン。君の仕掛は全く役に立たなかった、ということだね」


 冬弦はハーニバルの当て擦りめいたセリフに対して気分を害した顔を見せるどころか、傲慢そうに鼻を鳴らした。


「私の術が甘かったからではない。せっかく完ぺきに閉じたそこに、わざわざ招き入れた奴がいたということだ」


 私は自分とアダムが校舎内に逃げ込んだ時のことを思い出し、急に問いたださねばと思い立ったまま右手を上げていた。


「どうした、舳宇?」


「冬弦さん。結界を完璧に閉じられたのは、僕が校庭に残されているのに皆さん四人が校舎に逃げ込んだ時ですか?」


 冬弦はあからさまに私から目線を逸らした。

 冬弦の横のハーニバルは、そうだ、という風に両手の親指を立てた。


「見殺しか!!」


「違うって。能渡井がいなかったことに気が付かなかっただけだよ。気が付いた後の僕達は早かったでしょ?アダモっちゃんは飛んで助けに行ったし、トーゲン先輩達はすぐに迎撃タイプの結界術に組み立て直したんだしさ」


「そうだよ。ムネ君の言う通り。俺達は純粋な人間と行動を取ることに慣れていなかった。よもや校庭のど真ん中をまだ走っている子がいるなんて思ってもいなかった。あの状況だしね。点呼を取る余裕もなかった」


「そうですか~」


 私の命の恩人は、まじアダムだけだったということか。

 アダムにケーキを焼き直させようとした私が、彼らに人非人扱いされるわけだ。


「次は君を取りこぼさない。そこは約束しよう」


「冬弦さん。本気で僕を取り残してくれたんですね」


「誰だって失敗はある。そうだろ?」


「そうですね。僕も失敗だらけです。それで、僕の知らないことを教えていただけますか?第六王子の弱点とか」


「どうして?」


「どうしてって、あと二群体も第六王子の分身が残っているんです。そもそもそれを倒そう会の話合いでしょう?」


 冬弦とハーニバルは互いに顔を見合わせ、それからすぐに二人は同じタイミングで私に顔を向けた。

 確実に私を間抜けだと思っている顔だ。


「何か変な事を言いましたか?」


「いや。そっか、人間て鈍感で残酷、その通りの生き物だったんだね」


「ハーニバルさん。しみじみした口調でしっかりディスらないでください」


「ディスってなんか無いよ。新鮮だなって思った。俺は人間の血が入っているといっても四分の一だ。時々感覚がわからなくなるのさ」


「ハーさん。俺のツレはもともと規格外ですからわからなくて当たり前ですよ。俺もずっと呆れさせられてますもん。恩人恩人言いながら、アダモっちゃんをつかいっぱにして。酷すぎますよ」


 一瞬で人を窒息させて落とした人に残酷と言われ、親友の妹をあっさり見捨てた人に規格外に酷い奴と言われるとは!!


「アダムさんが何でも言え言ったもん。だったらシュークリームの皮を焼いてって頼んでどこが悪いよ」


 フォンダンショコラが私には苦手なケーキだった。

 それを知った時のアダムの表情が、なんというか、雨の中に捨てられた犬の痛々しさがあって、胸が痛くなったそのまま私は言ってしまったのだ。


 シュークリームの皮を焼けますか?と。


 私こそ今すぐ焼けという意味でも無かったが、焼ける、と言って厨房に走って行ってしまった人を引き留める事は出来なかった。


「今度お願い。そんな台詞を私は期待したな」


「次はそうします。それで満足ですか?では、さっさと第六王子の分身について教えてください」


「虫は分身ではない。そして第六王子(ハッシュ)はとっくに戦力外だ」


「え?」


「君も見ただろ?レイに倒されたあの二人が、ハッシュと彼の側近だ」


「すでに第六王子が敗退しているならば、僕達は解放されてしかるべきでは?」


「俺に倒された事で学習機能付き自動殺戮兵器、チィアートが稼働しちゃったんだな。ついでに、王子お付きの面々は、俺達が第六王子の玩具に殺されれば、王子まぬけの失態が全部チャラになると考えている」


 私がハーニバルに視線を動かすと、視線を受けた彼はニカッと笑った。

 彼の笑顔に校庭で敵の骸の上に乗っかって喜んでいた時の姿を思い出し、気安く感じるどころか背筋が凍った。

 笑顔になる程に怖く感じるのはこの人だけだろう。


「俺達は、虫型自動殺戮兵器チィアートを完全処理できるまでここから出られないって考えた方が良いね」


「そうだ。レイの言う通り。彼らの目的は私の暗殺だ」


 冬弦は言い切り、そして私と目が合うや、なぜかハッと何かに気が付いたような表情に変わった。


「何か?」


「口封じもあると君に伝えねばと気が付いたのだ」


「ああ、僕達こそ気を付けろと」


 私の左隣に座っている宗近が身を寄せてきた。

 彼はクスクス笑いながら、私の耳にろくでもないことを囁いた。


「違う違う。トーゲン先輩は君に売られそうだって気が付いたの」


「あ、そか、その手があった」


「舳宇!!私はアダムの大事な親友だからな!!」


 本気で冬弦は私に売られると考えてるらしい。

 私は余計なことを言った宗近を肘鉄した。

 冬弦に危険人物と見られた私が、この機会に闇に葬られたらどうする。

 今のところ冬弦の中の舳宇は、冬弦と海宇の恋路を邪魔する障害物なんだよ?

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