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気が利き過ぎる男とパンツ

 保健室を出た後、堂上がとてつもなく面倒くさくなった。

 人の上に立つだけあって気配りができる良い男であるが、それが行き過ぎるとただただ迷惑なだけとなるものなのだ。


「今のうちにトイレに。俺が見張っているから安心して行っておいで」


 私は男子トイレの扉を見返し、それから堂上に振り返って見上げた。

 何の照れも無いどころか、真っ直ぐすぎる瞳で私を見ている。


「学食に行く話だったよね」


「気が付いたんだ」


「遠足の前にトイレを済ませましょうって話?」


「多分あいつらは学食に陣取ってるはずだろうって奴。あいつらと合流した後、君は一人でトイレに行けるか?あるいは、トイレに入ったそこで、用足し中の奴らに出会ったらどうする?」


「今どきの男の子は便座に座ってしないの?まだ立ち、ええと」

「いいから、行け。俺が見張っているから安心しろ」


 堂上は私の肩をぐいぐいと押し始める。

 女の子だと知っていながら知らない振りをしていた時の方が遠慮があった。

 そんな気がする。


「分かった、入るよ。だけどね、見張るのはせめて戸口にして。中の個室の扉じゃないからね」


 うわ、堂上の顔が真っ赤に染まった。

 そして彼は私からぷいっと顔を逸らした。


「あ、当たり前じゃないか。お、俺を何だと!!」

「王子の右腕さんでしょ。手当が終わったなら学食という作戦会議室に急いでください。王子様がいらいらしながら待ってます」


 宗近だ。

 堂上は宗近に顔を向けたが、その動きは大きくてよく首の骨が折れないな、なんて思ってしまう程だった。


「君は、いつの間に!!」


「堂上先輩ったら注意散漫。そんなんでは見張りなんて任せられませんね」


 宗近は気安そうに堂上の体を押し、反対の手で私の背中を押す。

 その動作をしながら宗近は私と堂上の間に体を入れており、終には私は宗近の背中によってトイレの中へと押し込められる有様だ。


「宗近」


「俺が見張るからゆっくりと、大きいのだってしていいよ」


「しないし、できない!」


「いいから、すまして。この先は簡単にトイレいけそうもないかもだからさ。出来る時にやった方が良いよ。先輩もそんな気持ちで君をトイレに押し込もうとしたんでしょう?ねえ、先輩」


「兵庫」


「こいつは俺の大事なツレだ。助けてもらって感謝してる。だからあんたに時間もやった。だが、これ以上は俺の領分なんだよ」


「領分て、ああ!!」


 堂上は私をぎっと睨んだ。

 今までの気安さなど完全にどこぞへと捨てた、そんな睨み方だ。

 だが彼は私を罵倒するどころか、きゅっと口元を結ぶ。

 それからは、とてもあっさりした様にして身を翻し、私とここまで歩いてきた歩みが嘘みたいにして、ものすごい勢いで廊下の先へと去って行った。


「ほら、とっとと済ませて」


 宗近が私を押した。

 宗近がこんなにも強く出るのも珍しいので、私は逆らうよりもとトイレの奥へと入った。


「どうして付いてくるの?見張りは?」


「校内に結界は張ったと言っても相手はゴキブリサイズでしょう?いくらでも入り込める。それに数が揃えば人型が作れる恐ろしい奴だ。近くにいて互いを見張り合った方が安全、だろ?」


 私は宗近を眇め見た。

 ほとんど我が家に居候している彼であるが、ドアを開けた状態で用を足すことなど出来やしない。

 いいや、実の兄や父親だろうが、そんな羞恥プレイが出来るわけはない。


「便座のボタンに音消しあるから気兼ねなく入ってやっちゃって。それで、俺が話かけるから君はそれに答える、それで行こうか」


「ああ!そういうことね」


 私はやはり宗近は機転が利くと思いながらトイレに入る。

 それから制服パンツをずり下げ始めたところで、下着となる自分のパンツがかなり派手な色合いだったと気が付いた。

 ボーイレッグのそれは、水色とピンクで組み合わされた迷彩色である。

 前開きのない男性用ボクサーパンツと同じデザインの女性用のショーツであるが、男性用と一線を画するために出来る限り派手なものを買っているのだ。


 それがどうした、という事でもあるが、私は何気なく宗近に尋ねていた。

 いえ、ずっと気になっていた大事な事でもある。


「カモメと魚と猫模様のパンツ。無いんだけど。君が履いちゃってるって事は無いよね?」


 手ぶらで我が家に来たまま泊って行く宗近は、兄の下着を勝手に使うが、私のショーツを間違えて履いた事だってあるのだ。


 間違えたんじゃない。

 新品だから丁度良いと宗近にパクられたのである。


「お前のパンツチョイス、実に俺好みなんだよね。俺が今日履いてきた奴やるよ」


「いらないし!!」


 私は過去の出来事に再び苛立った。

 我が家の洗濯ものの中で私をあざ笑うようにハタハタとはためく宗近のボクサーショーツの柄が、確かに私好みの派手なものだったと思い出したからだった。

 薄ピンクに紺の水玉だが、水玉の中に亀のシルエットが紛れ込んでいるという、実に可愛らしい馬鹿柄だったのである。


「宗近?君のパンツは今日は何色?」

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