君がどうしてここにいる?
堂上先輩の行動が読めない。
騎士様のように私の危機に単身駆け付け、そして大怪我までしてくれた人が、私を抱えながら保健室に入った途端に豹変したのだ。
獣と化したのではない。
その反対で、私をベッドに放り込んだそこで、ベッド周りのカーテンを閉め切り、そこから出るなと私に命令したのだ。
自分の手当てが終わるまで?
私を助けた時の堂上の真実の顔、エンキアメル神族の真赤な獅子顔を思い出し、私は少々納得したが首も傾げた。
破れたシャツから見える肌は、健康的な小麦色なつるんとした肌だったから。
「実は胸毛がすごいんですか?」
「の、わけあるか!!胸毛なぞない!!」
すぐさま言い返して来た声だけで、堂上が顔を真っ赤にしているだろうと言う事は簡単に想像がついた。
ちょっとすっとしたが、私はさらに思考を動かしてしまった。
物凄い力持ちでも太って見えない体躯という事は、物凄い筋肉美の持ち主であるという事だろうか、と。
私はそろそろとベッドを降りると、カーテンを少しだけ開けて覗いた。
「ひゃあ!」
こっちを見つめるファイヤーオパールの瞳。
堂上も隙間から覗いていた。
深淵を覗く奴は覗かれるって奴を体験だ。
「な、ななな、なにを!!」
カーテンは堂上によってしっかりと閉められ、それどころか保健室にあったらしい洗濯ばさみで二度と開け無いように挟んでいくとは!!
「先輩って、そこらの乙女よりも恥じらいがあるのですね」
「乙女に対しては男は配慮しなければ、だろ」
私はぐぐぐと喉を詰まらせていた。
堂上が私を守るのは、私が女の子だったから?
いいえ、いつから気が付いていたの?
「君はどうしてここにいる事になったんだ?」
堂上は初対面の時と同じ質問を、カーテンの向こうから私に投げかけた。
私はこの質問が初対面の時と同じだと思い出し、どうして私が女だと知っているのかと反射的に聞き返さなくて良かったと思った。
乙女って揶揄だった。
戦えない弱っちい私と思っているから、乙女と言っただけなのだ。
だよね。
本来の女子校でも私は王子様認定だ。
宗近だって女の子として私を最初から見なかったし、何よりも、舳宇のクラスメイト誰一人として私を舳宇と違うと言ってきた奴がいなかった。
それどころか、今日のドッチボールは一勝できそう、って喜ぶとは何事だ。
確かに魔法無しの素手の喧嘩ならば、私は勝って来たけれど。
ああ確かに、堂上ランクの相手とは一戦も交えて無いな。
やはり、乙女か。
「能渡井?聞いているんだけどな」
「本当になんででしょうね。手当をさせてもらえるどころか、こうしてカーテンの奥に閉じ込められるなんて!!どうして僕はここにいるのかな?」
笑い声がした?
私はカーテンの打ち合わせではなくカーテンの端へそっと動いて、そこからカーテンを動かして覗いてみた。
「ひゃっ」
上半身裸の大男が、振り返った状態で私を睨んでいる。
動いていたのも丸わかりか。
ただし、私にも大分かりな事がある。
堂上は包帯を上手く巻けていない。
ぶつんと頭のどこかで何かが切れた私は、無理矢理にカーテンの端から抜け出すと、堂上の前へと進んで行った。
「カーテンの奥に帰りなさい」
「いつまで経っても包帯が巻けない人は黙って」
「じゃあ、ハーニバルを呼んでくれ。良い機会かと思ったが、君がどうしてここにいるのか尋ねるのは後にする」
「僕に尋問をしたかった?スパイだと思ってたの?」
「そうじゃない。どうして女の子の君がここにいるんだ」
「ええ!気付いていたの!」
「君は俺を馬鹿にしてるのか?」
「いいえ。だって初めてだから。私が女の子だって初めから見てくれた人は。あなたが初めてだよ。女子校で私は人気あるけど、夢の彼氏とか言われてんの。すごい。王子だって私が女の子だと気が付いていなかったのに。あなただけはどうして?」
あれ?
堂上は私から顔を背けた?
心なしかどころか、耳が髪の毛よりも真っ赤になった?