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生贄聖女とお人好し魔技師  作者: 綴螺
一章 捜索
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じっとする


 ラムは格子状のサイコロの中に白い石が入っているアンティーク調のネックレスの脇にうさぎのストラップをつけると、やることがなくなってしまった。

 ネックレスは首から下げているが、何か手伝おうとすると皆に寝てなさいと言われてしまった。

 なので、今はムスの隣に座り、レース糸で薔薇の花が作られているのを見ている。

 あっさり、作業場にいれてくれたのも驚きだが、ムスが別に構わないらしい。

 魔工品は造らないのかなと思ったが、プラチナに細かい模様を彫り続けていたら集中力が切れたようで、今はレースに手を出しているようだ。

 すごく珍しい七色光沢絹糸で編んでいるので、綺麗だ。


「うーん」


「編みミスした?」


「いや。してないけど、、、見てて面白い?魔技師になりたいわけじゃないだろうし、ただ糸が模様になるだけだしさ」


「私もマフラーぐらいは編むよ。刺繍も趣味で少しならできるから、見てても飽きない。寝てなさいと言われても眠くないから無理だよ」 


 椅子に腰掛けて身体を伸ばす。


「編み物できるの!?」


 目を丸くしながら、ラムの肩を掴む。


「え。う、うん」


 躊躇いながら頷く。


「うさぎ用アクセサリーのマフラーと手袋編んで欲しい。冬用アイテム。帽子、花、とりあえず編めるなら何でも!かぎ針使える?」


「マフラー、手袋ぐらいなら簡単なやつはできる。かぎ針は使えるよ」


「戦力きた!やった!説明書と本を持ってくるから待ってて!糸とかぎ針も!」


 嬉しそうに慌てた様子で部屋から出ていく。


「いっちゃった」


「ラムさんが編み物できるとは思わなかったのだろう。手先が綺麗だから家事や刺繍をしているようにはみえないから」


 奥で作業をしているペディロが手を止めずにラムに声をかける。


「それは、しようとすると手先が傷つきますから、あまりしないでくださいって。野営の時は気にしないから、好きにするけど」


「刺繍や編み物はあまり傷つかないはずだが、やり過ぎはよくないからね。傷がつかない程度なら、好きにしなさい。特にユリアは喜ぶだろう」

  

「ユリアさんが?」


「ムスの他に子供が欲しかったから。娘のようで可愛いと顔にかいてある。本当にわかりやすい。迷惑ならはっきり言うといい。嬉しすぎてはしゃぎすぎだ」


「そうなのですか。さっぱり気づきませんでした。母親はその、心配して一緒にいてくれるのかと」


(母親の記憶は優しく頭を撫でられたぐらいしかない。一緒に食事をした記憶はない)


 ラムは幼い頃に母親をなくしたので、その辺はよく覚えていなかった。


「親は皆そうだろう。よく、私達の家は過保護過ぎると言われるが」


「持って来た!何編む?糸も好きなの使っていいから!」


 本一冊とかぎ針、腕にいっぱいのレース糸玉を持って来たムスが会話に割り込む。


「え」


 レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルーの他にも山程糸玉を抱えてきたムスに目を丸くする。


「あ、あれ?父さんと重要な話してた?後からの方がいい?」


「ラムさんと世間話をしていただけだ。彼女は糸を山盛り持って来たから驚いているだけだよ。一気にもってきすぎだ」


「あ。あはははは。やり過ぎたかぁ。下ろすよ」


 笑いながら糸玉を下ろす。すると、作業机を半分は糸玉で占める結果になった。後から本が2冊、かぎ針が1セット出てきた。


「かぎ針はこれで、お願い」


 2号のサイズをラムは受け取る。


「糸は何でも良いよ!ラメ入ってるのもあるし、普通の絹糸や綿、後はベビー用品の柔らかいコットンもあるから!」


「す、すごい」


 可愛いレモン色の糸玉を触るともきゅもきゅとする。肌触りがとてもよい。


「それにする?あ、本はね、これとか、これ。こんなのもいいよ!」


 ムスが見せた本は簡単な小物が作れるレース糸の本。中身はマフラーや、手袋、花、コースター、帽子等の小さな小物が見本で作られていて、後に編み図が載っている。


「わぁ、」 


(可愛らしい)


 小物を編む本は見たことがなかったので、感嘆の声をあげる。


「気に入ったやつ編んでくれていいから!時間はかかってもぜんぜん構わないから、丁寧に歪にならないように注意してくれればいいよ」


「これがいい」


 花が好きなため、小さなワッペンのようなやつをさす。


「これね!これは、たくさん編むと花束になるよ!」 


 本を開いたままクリップで固定する。台は音楽の譜面台のような物だった。


「これで花束に?」


「枝は針金使ってくっつけた。一つでも口に加えさせたら可愛いしねー」


「へー。なるほど」


「で、やり続けると集中力切れるから、休憩してもいいし、気分転換に持って来た」

 

 引き出しの中から出てきたのは複雑な模様が描かれた一枚の布。済に刺繍されていて、どうやら蔦のようだ。


「これはバンダナ。全面刺繍で終わってなくて。後はハンカチ」


 さらに引き出しの中から数枚の薔薇の花が描かれたハンカチ、まだ刺繍はされていない。


「薔薇は色違いで作製しようとしたけど、時間がなくて。ワンポイント刺繍だけど、飽きたらこれでもしてて」


 薔薇の刺繍の仕方が書いてある記号図と見本、バンダナの方は手に負えないレベルの細かいやつだった。


「薔薇にするね、、、。バンダナはわかんない」


「ぐふっ。やっぱりこれ、難しくし過ぎたかぁ。父さんからも否定されて」


 ムスは本と一緒に薔薇の刺繍の仕方が書いてある記号図と見本をクリップで挟めた。


「色糸使いすぎだ。王室の装飾品飾るレベルの図面など、したくない」


「うぅ、ひどい。楽しいのに」


「売れるのか?かなり高いだろう」


「店前に飾る!刺繍レベルをアピールして客寄せするだけ!欲しい人がいたら売るけどね」


「はぁー」


「ため息!?なんで!?」


「いや、周りからお宅の息子さんは変わってますねぇって言われるのもわかる」


「えー!?」


「何で難解なやつを店前に飾りとして出す。普通はもっと簡単なやつをだな」


「惹かれないじゃん。客寄せにならない」


 ペディロは頭を抱える。


「ーーまぁ、綺麗だとは思うけど店に入るかは微妙」


「え。ラムまで!?」


「敷居が高いと入らないよ。むしろ気軽で可愛い方が売り上げはよい。何をターゲットにするかだけど、、、。私ならチョークで看板を描いて、本日のおすすめで実物と一緒に面に置くかな。その方がいい」


「かなり、商法的なアドバイスがきた」


 おおっとムスが声をだす。


「だって、城下町でしょ。美しいのもいいけど、庶民向けならそうかな。盗難防止に魔法をかけとけば宣伝になるし。でも、生計をこれでたててる訳ではないでしょう?そこまでガツガツしなくてもいいのかな、とは思います」  


「ーーラムさん、これでもムスはアクセサリー製作で生計をたててる。魔工品も顧客はいるが、そこまでではない。売れはするが」


「なら、今の生計が成り立つなら大丈夫だと思いますけど。わりと裕福だと思いますが」


「ムス、自分の趣味に費用をかけ過ぎだ!全く、、。売り物に金をかけろ」


「うっ、、。バレた。返せない」


「売れないのわかってたの、、。じゃあ、なぜ私に勧めたの?」


「偶に燃えるようなやばい奴をやりたくなる、、。仕方ないじゃないか!売れるのは小さいのだし、可愛いのも好きだけど、たまに大作を作りたくなるのは、止められない、、!ラムさんに勧めたのは実は熟練者かなと思って」


「これが、職人」


(当に、挑戦し続けるタイプ)


「まぁ、金勘定だけはしっかりしろ。もう、何も言わん」


「大丈夫、できたらティーダルさんに飾ってもらえる交渉はしてるから。大作は必ず見せるように約束してるから。少しは取り戻せる」


「そうか」


 諦めたように返事をするペディロ。


「私、編む。ムス、ここってどこになるの?」


「それはね、下の部分。ここが花弁だよ」


 図面を指しながら説明する。


「えっと、立ち上がりは丸くするから、引き抜き編みで」


「うん、こうして、こう?」


「そうそう。後は目印にマーカー使うならこれ使って」


 作り目用のクリップケースを渡す。中には可愛らしい鳥型のクリップが収められていた。


「ありがとう」 


(そんなに難しくない)


 ラムはマーカーをつけながら、黙々と編み続ける。

 ムスはラムの様子をチラチラと見ていたが、大丈夫そうだとわかるとプラチナリングにまた月光草の模様を掘り出す。

 そうして、時間は過ぎていくのだった。





 



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