悪夢
ーーーラムはダーラス家の一家に親切にしてもらい、眠りについたーーー
ラムは不意に目が醒めた。
だが、周囲を見回すとムスの部屋ではなく、真っ暗だ。そして、すごく寒い。
ラムは腕を擦る。
しばらく、何かと頭を考えていると、
不意に視線を感じる。
続いて魔力の塊、自分以外のものを感じる。
じっとりと肌に汗をかくような嫌な感じがまとわりつく。
明確な敵意。
ーーー見られているーーー
ラムはそう感じた。
(嫌な気配。精神的な攻撃だろうか。敵はどこだろう)
ラムが魔法を使おうとした瞬間
「あっ、が」
急に気配なく首を締められる感覚。
ラムは息を吸えなくなって、苦しくなりもがく。
(気配を感じなかった。振り払わないと)
ラムは必死に腕を引っ掻く。
腕は太く何も気にしないようにさらに力を込める。
「は、、な、、」
(死ぬわけにはいかない!)
じたばたと腕を叩くが、段々と意識が朦朧としていく。
「い、、、や、、」
力が抜けていく直前
「大丈夫か!?これはーー!こんなの、どっかいけ!!」
声が聞こえた。
最近聞いたテノールの穏やかな声が焦っている。
「余計なことを。まあ、破られてもいずれ迎えにくるだけだ」
恐ろしい声が響く。
それは、何度も聴いた声。
悪夢の声。
いつもみる、自分が殺されそうになる悪夢。
幼少期から闘い続けた夢。
私は負けない。こんな夢なんかに。怖くても、生贄になるつもりはない。
私は護るのだ。絶対にこれを倒してみせる。
だけど、今まで、誰かが夢に割り込むことなどなかった。
ふと、ラムは急に息が吸えるようになっていくのに気づく。
ーーーバチッーーー
大きな音がした。
視界が急に白一色になり、目を瞑る。
ーーーーガバッーーーー
ラムは急に起き上がる。
「ラムちゃん!!よかった。よかったわぁ」
ユリアがラムを抱きしめる。
「ーー意識はっきりしてるか?」
ムスは険しい顔をしてラムの右上をみている。
まるで、そこに何かがあるように。
「私、生きてる、よね?」
ラムは震える身体を抑えながら、冷静に呟く。
「ええ。もう、大丈夫だから。ラムちゃん、少し寝ましょう。私、側にいるから」
ユリアはラムの背中を擦りながら落ち着かせようとしている。
「ーーーー母さん、震えてるから寝れないよ。ホットミルク持ってくるから、とりあえず固まってよう」
素早く扉を開いてムスは出ていった。
「あの大きな音は、何?」
(そうか。テノールの穏やかな声はムスの声だ。割り込みしたのはムスということ)
ラムは荒く息を吸いながら呟く。
「音?私は、聞こえなかったけど、、」
「そうですかーー。ムスが夢の中に割り込んで来た気がしたのですが、気の所為でしょうか、、?」
(ユリアさんが聞こえなかったなら、現実で起きたのではない。けど、音も気の所為ではない気がする)
「ーーどうかしら。私は魔法はさっぱり使えないから。聞いてみる?でも、ラムちゃん、震えてるから少し休みましょう」
ずっと、ラムの背中を擦っているユリア。
温かいぬくもりがラムに伝わって少しずつ緊張が解れていく。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます」
「いえ!もっと、甘えていいのよ!」
「?ユリアさん、、?」
ラムの震えはおさまったのだが、ユリアはまだ離さないで抱きしめている。
「怖い思いをした子を放っておけないもの!今日は一緒に寝るの!手を繋いで!今度、何かしたら殴り飛ばしてやるわ!」
ユリアはラムをむぎゅーっと抱きしめて離す気はないよう。
「ユリアさん、、あの」
(世の中の母親はこんな感じなのかな。ずっと側にいてくれるつもりみたい。あったかい)
戸惑いつつもラムは嬉しかった。
ユリアを振り払わずに、そのまま身を寄せる。
「入るよ」
扉が開いて、器用に2つのホットミルクを持ってきたムスがラムとユリアにホットミルクを差し出す。
ラムは受け取ってホットミルクに口をつける。
美味しい。
「ムス、飲まないの?」
ユリアはホットミルクを受け取ると聞き返した。
「ーー気分悪いからいらない」
ラムがホットミルクを普通に飲んでいるので、ムスは少しだけ安心しつつも周囲を警戒している。
「何か攻撃でも受けた?」
「違う。胸糞悪い虫がいたから潰しただけ」
今にも舌打ちしそうなムスにユリアが会話をやめた。
ユリアはムスが怒っているのに気づいたのだ。
「何かいるの?ーーー何も感じないけど。そういえば、目が覚める前に静電気みたいな大きな音がしたの。それが関係してたりするの?魔法使って追跡する?」
「魔法はいらない。父さんが使ってる。大きな音、、か。俺は聞いてないけど。いつから、おかしかった?」
「なら、気のせいなのかな。おかしいって?」
「えーと、悪夢いつからみてた?」
「うーん。10年ぐらい前だから8歳ぐらいからかな。2週間に一回程度みるけど、すぎれば大丈夫だから。前からだから、慣れてるよ」
(多分、それくらいかな。最初は泣いていたけど、撃退方法は魔法を使えばいいから怖い以外は大したことはない)
冷静にラムが返す。
ムスはその返事を聞いて、ため息を吐き出す。
「ーーー返した時に燃やせばよかった」
不機嫌そうにつぶやかれた言葉は物騒だった。
「??燃やす?」
(何を燃やすつもりだったのだろう)
「あ、気にしないで。落ち着いてきたなら、コップ、下に持ってくよ。置いててもいいし。母さんは?」
左右に首をふって、明るい声でムスはラムとユリアに声をかける。
不機嫌そうな表情は消えていた。
「私はもう少し飲んでもいいかな?美味しいし、飲み干したい。あったまる」
ラムはちまちまとホットミルクを飲んでいる。
「私はもう、離れないからね!朝までいるの!ラムちゃん、すごく冷たいのよ!冷えきってるわ。温めるの」
ラムの頭をユリアは撫でながらくっついている。
ムスはそれをみて呆れつつも諦めた様子で頷く。
「あ、はい。えーー、ベッドを運ばないといけなかったり?」
「ええ!」
「うわぁーー。はいはい。えーと、うー、こうして、、、こうかな」
ポケットから紙を取り出して、移動する家の家具の座標をかき、丸い円の中に収まるように移動の→マークを描く。そして、移動する家具の絵を描き、《空間魔法》(テレポート)の魔法の陣を完成させる。
ーーーーポンッーーーー
「わっ!ムス、いきなり発動させなくても。びっくりしたわ」
ユリアの真下にユリアのベッドが現れた。それは、本当に紙が光ると同時に突然のこと。
ユリアの身体はベッドの上に乗っている形になり、魔法はしっかり成功している。
「母さんが移動してと頼んだのに。扉からベッドは通らないから魔法使わないといけないし。だと、こうなるよね」
「陣書くの速いね」
(あのスピードは日頃から使ってる速度。絵や決まり事があり、正確に描かないと発動しないのに速筆に近い速陣といってもよいレベル)
「日頃から使用してるから。慣れ。後は大丈夫?本当にどこも痛くないか?」
「うん、大丈夫。起こしてごめんなさい」
「いや、それは謝る必要ないから。今のところ何ともないならいいよ。じゃあ、下にいるから何かあれば呼んで」
「ええ」
「え。寝ないの?」
(もう深夜なのに)
ラムは目を丸くする。
「んー、今日はもう少し起きてる。少しだけ作業したら寝るよ。一時間ほど作業したら眠くなるだろうし。今は集中できそうだから、この機会逃すわけにはいかない」
「あら。夢中になって徹夜は駄目よ。ラムちゃんは寝ましょう」
「そうなの。おやすみなさい」
「はーい、母さん。おやすみ」
ムスが扉から出ていく。
「ラムちゃん、ホットミルクゆっくり飲んで、眠くなったら寝ていいからね」
ユリアはラムの背を優しく擦りながら、優しい顔で引き寄せる。
ラムはホットミルクを飲みほすとユリアのぬくもりに安心したのか徐々にまぶたが落ちていく。
そのまま幸せそうに眠りについた。




