ティータイムの準備
ーーーラムとペディロは一階の客間にいるーーー
中央の赤茶色のテーブルを囲む、椅子が4つ。対面の形で2人は座っている。
ユリアはこの場にはいない。ユリアは茶菓子とティーポットとカップを温めるため、席を外している。
長い沈黙が、むしろ、ペディロがラムを気にしてチラチラみているが、ラムは気づいてないフリをして沈黙している。
やがて、言わないと駄目だと判断したのだろう、ペディロが口を開く。
「ラムさん」
「はい、なんですか?」
「その、怪我だが」
「はい」
「跡が残ると思う。ユリアは楽観視しているが、経験上なんとなくわかる。嫁入り前の女性がショックだとは思うが」
「いえ。私は気にしません。お相手もいませんし、結婚予定もありません。妹の方が大事です。怪我が開いたのは誤算ですが、残るならそれで気にしません」
(男性は心配性かなにかなのだろうか。兄さん達も傷が残ったら大変だといっていた)
「ーーいいのか?」
「はい。戦闘すれば傷ぐらい負うでしょう。些細なことです」
「ああ。だが、本当にいいのか?」
「はい」
ペディロは深い息を吐く。
「もう一つ」
「はい」
「異性が触れると吹っ飛ぶ魔法だったか。それが、かけられているときいたが、解けるか試してみる気はあるか?」
「!」
(この人に解けるのだろうか。私が小さい時に無意識に暴走させて発動させた魔法。私でさえ、未だに抑えて一時的に触れさせることができるだけしかできない)
ラムは注意深くペディロをみる。
するとーー、強い魔力を感じる。さらに、魔力に色がついている。魔力の多さはムス程ではないが、制御できている。魔力の色は黒が一番多いので、闇魔法が得意なのだろう。魔法師レベルの闇魔法を扱うことができそうだ。いい腕だと思う。だけど
「有り難い申し出ですが、小さい頃に暴走した魔力で創られた魔法です。王室の魔法師に診てもらいましたが、解けないと言われました。創った私でさえ解けませんし、よくわからないのです。無理だと思うので、お気持ちだけで」
ラムは首を左右にふる。
「王室なら、専門家でいい魔法師だっただろう。診てもらったのか?」
「はい。父が心配して。高熱もでたので、伝手で」
「そうか。流石に王室より腕は上ではない。ムスも気づかなかったときいたし、無理そうか。すまない、余計なことをきいた」
「いいえ。大丈夫です。でもーー、ムスの方が上なんですか?魔力は制御できてないみたいですが」
ラムは疑問を投げかける。今の口ぶりだとムスの方が魔法がうまいという印象を受けたから。
ラムは魔力を制御できてないムスがペディロより上だとは信じられなかったのだ。一般的に魔力を制御できないと魔法は使えないから。
「疑問に感じるということは、ラムさんは勉強家で腕が良い魔法師ということだね。ムスが特別な例だ。ムスは魔力が多く、あれは魔法が使えないとおかしいレベルなくらいでな。ムスの場合、教えた魔法は使えるが場所が定まらない。つまり、魔法の発動指定の制御が壊滅的に駄目で、そこに魔力が多いから低級魔法で火事になったり、嵐になったり、なぜか自分の魔法に攻撃されボロボロになったり。最早、練習すら練習にならないぐらいセンスがない」
「それは、危険ですね」
(攻撃魔法が自分に来るのはセンスがないレベルじゃない。普通は前に進むかその場に留まるはず。魔力が多いと制御は難しいけど、流石に自分に攻撃魔法が来ることは普通はない)
ラムはムスが壊滅的な制御の下手さなのは理解した。
「ーーあれ?もしかして、陣なら正確ですか?」
(魔法が発動できるなら、場所指定できる陣は最高の相性の良さだろう。ただし、即時発動は不可能だから、戦闘に魔法は使えないと)
「ほう。ラムさんは本当に勉強している。その通りだ。魔力を陣に流して時間差や条件付きで発動させるのは得意で、威力は絶大。ラムさんはムスが使った武器を見ただろう?あれは、弾に魔法の陣を刻印して撃ってるから、動きを止められる魔法弾なんだ。陣のように細工されている魔法に関してーー呪いや悪意ーーに私以上に敏感だ。ムスが疑問に思うなら、余程いい腕で見抜けなかったか、無意識に害はないと判断しているか。後はそのようなものではないということだろう。もしくは、魔力の暴走なら自然消滅する確率もある。まあ、要は偽装された魔法を識別することは、ムスの方が上だ。息子が首をひねるぐらい変だと思うなら、おそらく危険なものではないのだろう」
ラムはペディロがムスの技能に対して絶大な信頼を寄せていることを感じ取っていた。そこには親子の絆を感じる。
「納得しました。陣に触れさせて発動させる、遠隔の魔法剣みたいなものなのですね。それで、自然消滅なんてありえるのですか?」
(始めてきいた。そんなことは一言も言われたことがない)
ラムは驚きながら言葉を発する。
「ある。魔力の暴走は一時の感情や異常な魔力の膨れによるもの。魔力が多い人に起こりやすい。ラムさんを見る限り、制御は完璧のようだから、感情で暴走したのだろう。魔力が制御できるようになったら、腕の痛みが消えたり、頭痛が収まったときく。心の傷が癒えれば、治る可能性はある。あまり、気にしすぎるのもよくないから、時間が解決すると思いながら過ごしなさい。きっと、大丈夫だと信じて」
「ーー急に言われても」
(信じるという言葉は一番難しい。裏切られた痛みが辛い)
ラムは目を伏せる。
嫌な過去を思い出してしまったのだ。
「ーー難しいなら、治ったらいいなと思うぐらいでいい。希望が辛いなら、治らないと思いながら過ごせばいい。誰も何も責めたりしない。ラムさんの自由に決めていい。君の人生だから。ただ、無理だけはいけない。わかったかい?」
「ーーはい」
(優しい。戸惑っていると感じ取って、励ましてくれたよう)
こくりと頷く。
「今後のことだが、ユリアが言う通り傷が治るまで家にいてもらっていい。傷が治っても、家にいたいなら働いてもらえれば、いつまでもいてくれて構わない。ただ、妹さんを探しているときいた。探すのは構わないが、決して一人では外に出歩かないでほしい。最近、人攫いが多くてな。ご近所の娘さんもいなくなっている。若い女性ばかり狙われているから、一人で歩くのは危険すぎる。私は外に出歩けないから、ユリアかムスに同行してもらいなさい」
「わかりました。でも、そんなに酷いのですか?」
ラムはバース領からきたので、流石に王都の情報は詳しくない。王都からバース領まで普通なら馬車で一週間近く、強行するなら、3日かかるぐらいに離れているからだ。
「ああ。一週間に一度、誰かいなくなるぐらいに。ギルドで見つけて無事に戻ってきた者もいるが、死体になってしまった者もいる」
「ーー王都は警備が強いはず。力のある者が指示しているとしか考えられません。後、ユリアさんと一緒に出るのはいいのですか?」
(女性2人は襲われないのだろうか)
疑問に思ったので、ラムはすぐに疑問をペディロにぶつけた。
「ああ、ユリアは民家の壁ぐらい吹っ飛ばせるから心配いらない。捕まってもロープぐらいなら、喚いて外させるだろうし。そもそも今は警戒しているから、知らない人の足音が近づいたら吹っ飛ばすだろう。仮にもギルドに入っているから大丈夫。ラムさんも魔法師だろうから、全く戦闘ができないわけじゃない。戦闘が始まったら加勢するだろう。2人なら大丈夫」
「そう、、なの、ですね、、」
(ユリアさん、やっぱり強かったよ、、)
壁を吹っ飛ばすユリアを想像してしまい、言葉を詰まらせる。
何となく、強者オーラが出ていたのは気の所為ではなかったとラムは納得した。
「一応、戦闘になるかも知れないから、情報は言っておこう。
ユリアは拳闘士だ。足業もいける、前衛近接職。武器は素手。魔法は全く効かない体質だ。傾向は好戦的。
ムスは魔技師。武器は銃。弓のようなものだと思ってくれていい。射程が弧を描かず直線に跳ぶ。まあ、他にも刻印した陣を大量に所持しているから、大丈夫だろう。傾向は消極的。荒事は嫌い。
私は魔法師。専門は闇魔法。拘束、目眩まし、攻撃とバランスよく使える。大魔法も使える。武器はない。杖をもたない主義だ。傾向は中立だ」
ペディロはサラッと重要なことを言った。
「あの、ムスが魔技師って言っていいのですか?危ないかもしれませんよ」
(秘密にしてないと危険では)
ラムが問いかける。
魔技師は狙われるかもしれないのだ。軽々と言っていい職業ではない。
「ラムさん、あなたほどの魔力があるなら、予測もついているだろうし、見破られるだろう。それに、あなたも訳ありなのは私からみてわかる。話し方が上品すぎる。言わないだろう?」
(ーー!公爵令嬢だってバレただろうか。でも、公爵令嬢が髪を切るとは思わないはず。訳ありだとバレるのはわかる。女性が一人で王都に来る時点で察するだろう)
ラムがどう答えるか悩んでいると言葉はさらに続く。
「それに」
「それに?」
「魔技師ときいてムスの心配をするような、優しい賢い子が言いふらすはずないだろう。妹のために怪我を無視して王都に来たのだから。戦闘なれしているなら、怪我したまま戦闘するのが危険なのは理解できるはず。職業も理解できるなら、尚の事。訳ありなら何も言わなくていい。必要なことだけでいい」
ペディロは優しい目でラムをみている。
「ーー職業は魔法師。陣と詠唱、両方で使えます。大魔法は全属性全て使用可能。一番相性がいい属性は光と火。得意魔法は治癒と防御系です。連続詠唱魔法は三種類まで。武器は細剣を持ってきています。魔法剣も使えますが、力はないので護身用程度です。戦闘歴は8年近く」
ラムは悩んだ末に自分の戦闘力だけを述べる。
ペディロが息を呑み、頭を抑えていた。
頭痛がするのか、収まってからペディロはラムをみる。
「ラムさん、もしかしてバース領出身かい?」
「はい。どうしてそうだと?」
「戦闘歴を必ず言うのはバース領だけでね。しかも、そんなに速く戦闘に出るのはバース領ぐらいだよ。あそこはモンスターが多い。力量があり、素行に問題なしなら、誰でも戦闘に出る。遠い場所から来たのだろうと予想はしていたが、、後でムスにギルドマスターに釘をさしておくよ」
「??どうしてですか?」
きょとんとして、首をかしげる。
可愛らしい年相応の反応に、ペディロは少しだけ微笑む。
「その若さで、魔法師で全魔法が使えて戦闘歴8年は、間違いなく駆り出される。釘をさして、うちの子が拾ってきたのだから、勝手に誘うなと言わないと。変な連中に連れて行かれても困る。ユリアに防御してもらう。他の連中には魔法師だと言っておこう。使える魔法は言わなくていい」
ペディロは真剣に説明するが
「はい、わかりました。全魔法は珍しいですが、バース領にいなくはないですよ?そんなに、頼られますか?10年目ぐらいからですよ、駆り出されたり、特別要請がくるのは」
ラムは理解できなかった。
「ーー○○○○は○○○○強者○○○か○○○○○」
「え?」
ラムはペディロの小さな呟きは所々ききとれなかった。
「なんでもない。バース領出身なら、モンスター討伐は日常生活に欠かせないだろう。変に巻き込まれないようにするから、安心していい。それにしても、、ユリアが遅すぎる。少し様子をみてくる。このまま、待っていてくれ」
確かに、ユリさん遅い。どうしたのだろう。
ラムが頷くとペディロが席を立つ。




