状況確認
「んーー?」
ラムが目を覚ますと目の前に飛び込んできたのは紫と黒のカンテラの形をした光源。オレンジの光が部屋を照らしている。
周囲を見回すと、レンガ積みの壁。左側の隅に作業台のようなテーブルと椅子があり、テーブルの上には細かいアクセサリーが並んでいる。
頭の方と右手側には窓があるのだが、小鳥の絵が描いてある黄緑色のカーテンが閉められており、光は入ってこない。
クローゼットの他に黒いソファーもあり、生活感がある。
足の方には木の扉。ここが部屋の入口だろう。
「ーー見覚えない」
ラムはこの光景に心当りがない。
自分の状況を確認しようと身体を起こすと、脇腹に痛みがはしる。
「傷口が開いたんだった。ということは、ここはアステラティーア王都?」
眠ってしまう前に助けてくれたムスという男性は王都に避難した方がいいと言っていた。王都にいる確率は高い。
そして、傷口をしっかり手当していなかった事を思い出したため、服をめくると
「ーーやっちゃったかな、これは」
しっかりと手当がしてあった。彼が手当をしてくれたのだろう。
その手当具合をみると、完全に傷口が開いていて、悪化しているように感じる。失敗したとラムは反省するが、王都にいるならアルマの情報収集をしたい。
起き上がろうとゆっくりと身体を起こし、ベッドから立ち上がろうとするとーー
カチャと音を立てて扉が開いた。
「ーーあ!起きた?気分は?って、ベッドから出ちゃ駄目だ!だめったら、だめ!!」
慌ててラムに駆け寄って、ベッドに寝かせられる。姿を現したのは金髪を後ろに軽く結わえた男性、目はよく見ると珍しい黒い色をしている。
服装も記憶にある茶色と白っぽい半袖のシャツに長いズボン。ショルダーバッグはないが、おいてきたのだろう。彼がムスで間違いないと思う。ということは、彼がここまで自分を運んでくれたという予想は大いについた。
「ひどい怪我だし、貧血だし、寝てろって。どこか具合い悪いとこある?」
「大丈夫。手当、してくれたのでしょう?ありがとう。迷惑かけたから、一日休んだらすぐでていく。急いでるし」
「ーーいや、一日で治る怪我じゃない!仮に回復魔法使えても、開いた傷には効果が薄いだろう!迷惑とか、そういう問題じゃなくて。ーーあ。 いや、えっと、あ、う」
やってしまったと、顔を手で覆い隠す。
「?ムスさん、どうしたの?」
急に言葉を詰まらせてしまった彼を覗き込む。
「あ、名前、覚えててくれたのかーー。じゃなくてーー。 うん、ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げられた。
「?」
首をかしげるラム。
「あーー、その、傷が酷かったから、落ち着いたからしっかり薬草使って手当した方がいいと思って。で、俺、てっきり、男性だと思ったから遠慮なく服を脱がせてーー、その、身体、見ちゃって。ーー本当にごめんなさい。触る前に母さん呼んだから、母さんに手当してもらった。でも、見たことにはかわりないからーー、本当にごめんなさい。殴って気が済むなら殴っていいし、責任取れっていうなら、責任取る。最初によく確認しとくべきだったーー」
後悔しているようで、申し訳ないという声のトーン、さらに表情も暗い。本心からの言葉だろうとラムは判断した。そもそも言わなければよかったのに、会話の前後で判断できる発言まで言ってしまったと思ったのだろう。それで、後で問い詰められるのを嫌ったと察する。随分、誠実な人らしい。
「ああ、そういうこと。最初に応急処置してくれたから、その時に気づいたと思ったのに。今の会話なら黙ってれば気づかなかったよ?」
「ーーえ?あ。ーーうわぁ、やったか、俺」
「ふふ、嘘ヘタだね。ーー大丈夫。手当してくれた人に責任取れとか言わないよ。わかりにくい服装にした私も悪いし。しかも、見ようとして見たわけしゃなくて、手当しようとしてくれたのでしょう?戦闘に出れば、そういうのは普通だもの。気にしないよ。まあ、故意的にした人なら燃やして縛るぐらいはするけど」
「ーーよかったぁ。話がわかる女性で」
「うん。とりあえず、いかないと」
「いや、まてって。何か事情があるのは察するけど、今動くのは治りが遅くなるからだめだって。何したいの?代わりに行ってくるから。とりあえず、寝て」
起き上がろうとしたラムを再び制する。
「ーー妹を探しに来たの。妹が攫われて。兄さん達は大丈夫だって言うけど、心配で。婚前だし、なんとかしたい。魔法で探したのだけど、馬車が多すぎて絞りきれなかった」
「ーー深刻なのはわかった。人攫い、か。最近、王都でもおおいし、物騒だ。情報収集したいってことか?」
「うん」
「ギルドに頼むのが速いと思うが。特徴は」
「名前はアルマ。年齢16。身長165cm。職業、拳闘士。金髪のショートカットに空色の瞳。私より活発で、軽装を好むかな。その辺の剣なら叩き折れる、魔法は回復魔法が使える」
「ーー探す前に人攫いぶっ飛ばしてそうな気がするのは俺のきのせい?」
「婚前の女性だよ!もし、何があったらと思うと心配なの。お相手も待ってくれるかわからないし。何年も見つからなかったらーー、私が探知魔法かける前に剣士に邪魔されて。あの人は強い。私の魔法二種合せ技を回避されたし、あの人がいるなら危険なの!アルマに怪我してほしくない」
兄さん達となぜ同じ意見なの。アルマなら大丈夫って言うの。アルマだって、女性だし、可愛い妹。失敗するときだってあるし、心配なのに。
ラムは必死に訴える。
「ーー腕利きの奴がいるのか。もしかして、その傷は」
「その時に切られた」
「ーーー、依頼してくる。母さんがギルドに加入してるから、何か入ったら連絡してくれるように頼んどくよ。だから、大人しくして待ってて」
何かを考えるように一瞬だけ黙り、頷いてから発言する。
「いいの?」
全部任せてしまった。
申し訳なさそうに聞く。
「また、倒れられる方が迷惑。それに」
「それに?」
「ラムも女性なんだから、後衛職が一人で歩かない。人攫いも多い。魔法を無効化する道具は山程ある。危険だ」
「心配してくれるの?」
さっき会ったばっかりなのに、という言葉をラムは飲み込んだ。
見ず知らずの人にここまで親切にされるのは、初めてだ。
驚きながら聞くと
「当たり前だろ。俺も後衛職だけど、一応、近接も護身程度には使える。後衛職といっても、俺は阻害系を使えるから一人でも平気だし、いざとなったら拘束してる間に逃げれる。魔法は威力は申し分ないが、どうしても詠唱時間か陣を描く必要がある。詠唱時間はある程度は短縮できるけど、場所指定は集中しないと精度も落ちる。速い人は速いが時間はかかる。前衛職がいない場合、一人で旅するには最も向かない職業だ」
「ーー詳しいね。陣なんか普通は使わないよ。陣を描いた場所に範囲指定されちゃうから」
思ったより、彼は魔法に詳しいみたい。陣を描いて遠隔発動させる仕組みは、利便性が悪いのと咄嗟に間に合わないからあまり使われない。魔法を勉強していても、何人が実用しているか。そもそも、一つ一つの魔法に陣はあるのだが、覚えている魔法使いが何人いるか。教科書はあるが、読んでいる人は少ないだろう。
博識な彼に驚くラム。
「普通は、な。でも、王宮は陣で魔法を張ってあるだろ。陣は護りには便利だ。発動条件はおそらく、邪な心をもつ者が入ったら、魔法内容は自動排除する系。強力だからここからでも見える。綺麗な陣だし、認識阻害魔法、隠す魔法が何重にもかけられてる。見ようとしないと魔法があることさえ気付かない。正直、気づく奴が何人いるかだけど、ラムは見えてるよな?陣を知ってるなら」
「ーー!!」
(嘘。あれ、私が張った陣なのに。彼には筒抜けなの?簡単には見えないよ?)
ラムは魔法師だ。全属性魔法が使え制御も上手く、威力も高く、王都でも五本の指に入るぐらいの魔法師だ。守護魔法や回復魔法は一番の自信があるし、普通の魔法使いなら気づかない。でも、目の前の男性は陣が見え種類まで当てている。これは、私の腕ではなくて、目の前にいる男性の見抜く能力が規格外なことを指している。
(私、とんでもない人に助けられた気がする。私の家族以外の異性が触れると吹っ飛ぶも無効だし)
驚きのあまりに固まっていると
「ーーやっぱり見える、か。その魔力の多さなら。まぁ、俺は一人でも何とかなるから。土地勘もあるし、心配しなくていい。ギルドに頼んでくるよ。あ、忘れてた!食欲ある?」
一人でムスは納得して、はっとしてラムに聞く。
「う、うん」
「食べれないのとかある?」
「ないよ。辛いのは苦手だけど」
「よかった。母さんに食欲あるって、言っとくよ。食べれるなら食べた方が治りも速いし。早速、出かけてくる。あ、そうだ。父さんにも言ってあるから、治るまでうちにいていいから。ただ、父さんは日光に浴びると火傷するぐらい皮膚が弱くて。だから、窓を開けるときは事前にいっといてくれ。じゃ、後でまたくる」
ラムが元気そうなのを確認すると、彼は扉から出ていった。
「ーー運がよかったみたい」
ラムは驚きから平常に戻り、ベッドに横になった。
何から何まで任せてしまったのだが、彼は相当、強いらしい。大丈夫だろう。
「彼の職業。後衛職で、魔法じゃなく武器だから弓使いみたいだけど、陣を見抜けるならーー。魔技師しか思いつかない、、、」
後衛職で魔法を使わない職業で魔力を使うのは魔技師か錬金術士しかないはず。
錬金術士は薬草や、毒草を使うので薬の匂いがする。そもそも、戦闘の技能はいらない。お店で薬を売るか、故意にしているお店に並べて貰えば生活できる。材料はギルドに頼むのが普通だ。
一方、魔技師は王室お抱えでなければ、ある程度の戦闘能力がいる。なぜなら、貴重な魔工品を狙う者達が後をたたず、命を狙われるから。一般向けに店を構えている者達は表立って魔技師だとは公表せず、ひっそりと限られた人のみに魔工品を売っているらしい。さらに、魔技師は魔工品に魔法を込めるため、魔法や陣に詳しくても納得できる。腕のいい魔技師なら、相当、詳しいだろう。ただ、本人に魔技師かと問いただしても魔技師だとは言ってくれないだろう。
「困ったけど、いい人だから甘えてしまおう。そういえば、検問どうやって通してくれたのかな、、」
ラムは改めてお礼を言おうと思い、大人しくベッドに横になる。




