大魔法
「は?いや、ま、止血をー」
「紅に染まる焔。紅く、赤く、朱く。火の精霊が舞う空。時が満ち、蒼い空が染まる夕暮れ。地平線から覗く太陽が世界を照らす」
男性は言葉を止めた。
ラムの身体から淡い白い光が溢れて、地面に落ちる血から炎があがる。
ゴブリンも異様な気配に気づいたのか、ラムに向かって走り出すが、男性が足止めしていて届かない。
「全て、総て、統べて。焔に抱かれ微睡を。障害を消し去れ《焔の大魔法》(フレイムクレイドル)」
落ちている血から火があがり、視認したゴブリン全ての足元から火が立ち昇る。
「ギャァァァァ!」
空に続く火の柱。燃える火の柱が何本もあがる光景は、空が緋色に染まり、まるで夕焼けのように綺麗だった。
ただ、奇麗な光景にありえない絶叫の悲鳴と、生臭い肉の焼ける腐臭がしなければ、だ。
魔法に気づいたゴブリンが逃げようとするが、逃げ道等無く。
行く手を囲うように、次々と火の柱があがり閉じ込められる。
視認されているゴブリンは残らず炭になって、地面に崩れていく。
全てのゴブリンが炭になると火の柱は煙のように消えていき、炭は風に攫われて何処かに流れていく。
地面には草木の先が少しだけ焼け焦げた痕が残るのみ。
いつも通りの平原に辺は戻った。
「《焔の大魔法》(ヘレイムクレイドル)か。一面焼け野原にならないなんて、、、信じられない。制御うますぎ」
ゴブリンが全滅し、草木が無事なことに男性は呆然としていた。
そして隣に視線を向けると、ラムは膝をついて座り込んでいた。
「おい!大丈夫か?まってろ。止血するから、動くなよ」
「だ、大丈夫。疲れただけだから、自分でする」
「いやいや。大魔法ぶっ放して、疲れたで済むはずないだろ!魔力も残ってないだろうし、怪我もしてたらなおさら体力使うだろ!現に座り込んでるじゃないか。じっとしてろよ、手当ならできるし」
男性がハンカチを奪って、血が染み出している場所の上から、止血しようとするが、服が破れてないことに気づく。
「本当に大丈夫だから」
ラムは首を左右に振る。
「ん?これ、傷口でも開いたのか?ずいぶん、酷いな」
血が流れている量が多いことに、男性は傷口を抑えている腕を掴み、慌てて上げさせた瞬間
「危ない!は、離れて、すぐ!」
悲鳴をあげるように、叫び声をあげるラム。
掴まれた腕を離そうと振り回すが、力がうまく入らず、振り払えない。
顔は真っ青、だ。
「え?守護魔法でもかかってたりするのか?
ーーーなんにも感じないけど。うーん、魔法かかってる、かかってないぐらいは俺はわかるはずだけど。敵意みたいなやつも感じないし」
キョトンとした顔で止血が先と言わんばかりに、服を傷口までたくし上げて素早くハンカチで止血。
それから、ラムをみて疑問符をなげかける。
「な、なんとも、ないの、、?」
「?なんともないが」
「え、、。信じられない。家族以外の男性が触ると吹っ飛ぶのに」
「え!?なに、その物騒な魔法。こわっ」
慌てて男性は腕を離す。
「いたい、、」
手が地面に叩きつけられた。
「あ。 ごめん。 えーっと、歩ける?門まで送ってくけど。そうだ、名前は?俺はムス」
「名前、、ラム。歩けるーー」
足に力を入れて立ち上がろうとしたが、目が回って倒れてしまう。
(あ。ぶつかる)
「あ、危ない!」
危険だと理解するのと、ムスが手を出すのは同時だった。
ムスは崩れ落ちるラムを受け止める。
「あ、ありがとう。ごめん」
「ーー顔、真っ青。抱えてくから、もたれかかってていい」
「え?」
「貧血だろ、それ」
「くらくらはするけど、まだ大丈夫だと思う」
「くらくらする時点でだめ。あまり長くいると他のモンスターが寄ってくるかもしれないから移動する。意識だけ持ってくれたらいいから」
ムスは盛大にため息をはく。
傷口に触れないように足に右腕を回して、横抱きにする。
(あったかい。少し血を流しすぎて体温が下がりすぎたのかな。脇腹の痛みより眠い)
「ーーねむい」
ぽかぽかと身体が温まってきたことと、さっきまでの緊張が解れて、瞼が落ちてくる。
「眠いって、、寝るなよ。門前で質問に答えないと王都に入れないから」
「ーーうん」
(職務質問や滞在理由を聞かれるのはわかっているし、ムスに迷惑をかけたくないけど、とても眠い。デネブラは相変わらず転がってて、可愛い。漏れてる魔力が心地よい)
もう、瞼が完全に落ちて寝そうだった。
「あのなぁ、、。もう少し危機感もたないと、危険だぞ?人攫いだったらどうする」
呆れながら、あまり揺らさないように気を使って足早に王都に向かう。
「ーー?そんな人じゃない。精霊がついてるもの。邪な心を持つものには寄り付かない」
「!?
いま、何を言ってーー」
ムスがその後に何か言っていたが、ラムは眠気に耐えられずに寝てしまった。




