34 ≪楓と紅葉が旅行先を決める話≫
焦る気持ちよりも、二人の中にあったのは将来への確かな期待だった。
テーブルの上に乱雑に置かれた、パンフレットやガイドブックの数々。
それらを照らす太陽の光、時刻は午前十時を過ぎた頃。
パンフレットの中身は、海外の有名リゾートを紹介していたり。
ガイドブックの中身は、有名な観光スポットに加えて美味しい料理やホテルの情報まで様々だった。
「楓は、やっぱり海外に行きたいですか?」
「んー国内でもいいなぁと、思ったりもするけどね?」
「まだハッキリしません?」
「しないねぇー」
「ふふ、わたしもう『ここは!』という所を、数ヶ所見つけていますよ」
「え? どこどこ」
「まずはですね……」
と、付箋がたくさん貼ってあって賑やかなパンフレットを紅葉は広げる。
そして最初に見せてくれたのは。
「ここです。たまには山も好きになりましょう」
そこに書かれていたのは大きなログハウス。
周りに特別有名な観光地がある訳ではないが、そのログハウスについている庭でバーベキューができたり、天井についた窓、そこから綺麗な星々を見上げながらふかふかのベッドで寝る事ができたり、と特別な休日、別荘体験、ができるそんな宿泊施設が紹介されていた。
「どうです? 有名な観光地に行くのもいいですが、こういうところで二人でゆっくりお休みするのも、きっと楽しいと思います……あとは……」
紅葉は別のページを開き、嬉しそうに楓に見せる。
それは、とある離島にあるホテル。
まるで自宅の様な木製の木のぬくもりを感じる海辺の貸し切りホテル。
ダブルベッドや海を見ながら入れるお風呂にプールまでついてくる。
「一棟貸し切りですよ! さらに海も見えますし。浴室のガラス窓からも海が見えますし、この広さのお風呂なら二人でも入れます!」
紅葉は子供の様に目を輝かせ、楓にパンフレットを見せる。
その姿がとても可愛らしくて、最近ライブばかりをしていて、舞台の上で輝く紅葉ばかりを見ていた楓はなんだか微笑ましくなって。
「んっ、楓さん?」
楓は紅葉の頭を撫でて笑う。
「なんか紅葉が年相応の子供で私は嬉しいよ」
「えぇ、どういう事です?」
「なんか最近遠い所にいったみたいで、寂しかったの。それだけ」
頭を撫でていたその勢いで楓は紅葉を抱きしめる。
優しく、優しく、と頭の中で思っても楓の心はそれを許さず、ついつい強い力で抱きしめてしまう。
紅葉の仕事は順調で、地方でのライブが少しと舞台の仕事が一つ、ドラマや映画の仕事がたくさんと、日に日に紅葉は忙しくなっていく。
歌やダンスも勿論評価されているが、それが表に出る事はあまりなく、あるとしても有名な作曲家の作った曲を歌う依頼が来たりする程度、それよりも今の紅葉は演技力が評価されている。
「楓もお仕事順調そうでよかったです」
「怒られる事も減ったしね……」
「お仕事覚えるのが早くなったねって、苗木さん言ってましたよ」
「あの人オフだと優しいのに仕事だと厳しいんだよ……」
仕事の疲れもあってか、楓は紅葉の膝の上に寝転がる。
紅葉は楓の頭を撫でながら、楓の顔をまじまじと優しい顔で見つめる。
「舞台のお仕事が一つ入れば、それだけ二人でいる時間も減ってしまいますもんね……舞台やドラマなんて練習時間も多いですし」
「悪い事じゃないよ? すごくいい事なんだよ。だから余計にさ、もっと一緒にいれる時間作りたいなぁって」
「楓、意外と可愛い事を考えるんですね」
「だって紅葉といられる時間は有限だもん」
「永遠だって言ったのに」
「永遠でも有限なの。だから大切にしたいの」
「欲張りですね」
「いいじゃん。それくらい独占させてよ、紅葉の事」
「もうされます」
本題に戻る。
楓は起き上がり、紅葉が付箋をたくさん貼っっている賑やかなパンフレットたちを見ながら考える。
二人でゆっくりと過ごせる旅行先は……。
「これって、ハネムーンって事になるのかな?」
「なっ、何を急に恥ずかしい事を言い出すんですか!」
落ち着いてコーヒーを飲もうとしていた紅葉は「ハネムーン」というその言葉のせいで咽てしまう。
どうしてもその言葉が紅葉にとっては恥ずかしいものだった。
「だって、行くのは結婚式の後になる訳じゃない?」
「そうですけど」
「で、結構長い時間行こうとしてる訳じゃん」
「はい」
「ハネムーンだよね?」
「……そう……いうことになりますね」
そう考えた瞬間、二人の頭が一度フリーズする。
そうか、今二人で決めているのはハネムーン先の事だったのか、とすぐに脳が理解しても中々二人はついていけない。
「てなると……あの、海が見えるところがいいかな、私は」
「いいですよね、海を眺められる休日なんて……何泊くらいしたいです? 楓は」
「一週間? なんなら一か月」
「そんなに休んじゃ怒られます」
「えーじゃあ、五日!」
「そんなにお休みもらっていいんですか?」
「ダメでも説得する。紅葉のマネージャーである徒花楓の腕の見せ所よ」
「苗木さんに怒られる気がしますけど」
「それでもこればっかりは譲れないなー紅葉のとの大切なお休みなんだもん」
「ふふ、まぁそんなに大切に思ってくれるならわたしも嬉しいです。説得、お願いしますね」
あまり深く話し合う事もないまま、二人は二人で作り出した雰囲気に流され、任せ、紅葉が付箋を入っていたあの海の近くにある貸し切り一棟ホテルに旅行先を決めた。
具体的な日程は分からないけど、夏休みの期間をそこで過ごせたらいいな、なんて話を二人はする。
「こういうところに、いつか住みたいね」
「海が見える、別荘みたいな所?」
「そういうところに家が欲しいなーって」
「それはもう、老後の話……に、なりません?」
「ならないならない」
二人はその別荘風の宿について詳しく調べながら、色々な妄想を膨らませる。
それは今だけの事じゃない、未来の事含めて全部、妄想ばかりの話をする。
いつかその妄想が叶えばいいな、なんてことを思いながら楓は結婚式の予定日とハネムーンの予定日を、まずは二人の手帳に消せるペンで薄く記入した。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651698612302




