29 ≪祝福のBouquet・前編≫
たった一人の少女から、わたしは勇気をもらった。
その一人の少女は、逆にわたしから勇気をもらったらしい。
初めて知った恋の味を、ただ噛みしめ続け。
まだ甘いそれに、浸り続ける日々。
そんな日々に花は咲き、夢は芽生え、世界は少し明るくなった様な、そんな気がする。
「そろそろかな」
幕が、上がる。
わたしの目に映る全てのペンライトの色はオレンジ色。
あの日見た夕焼けと、同じ色。
「わたしには、笑顔になってほしい人がいます。ずっと、勇気をもって、元気を抱きしめて、未来を生き続けてほしい人がいます」
復帰した後、色々言われたけれどでもそれでもいいんだって、今のわたしは思ってる。
わたしはただ、君に届けばいい。
君がわたしを見て、笑顔になって、また家に帰ったら頭を撫でてほしい。
そんな些細な幸せを、全部全部わたしに分けてくれたらそれでいい。
「その人の為にもわたしは……今日も歌います」
ただわたしが、君の側にいられるのならなんだっていい。
君が、わたしの歌で笑顔になるのなら、わたしのダンスを見て頑張ろうって思えるのなら、わたしはそんな君の為に、もう一度アイドルをする。
「それでは聞いてください。徒花紅葉で……『また会える日』」
たった一人、わたしだけのステージの上から。
ただ一人、わたしにとってはかけがえのない君を探し出す。
会場が大きくなって、簡単に君の笑顔を見られなくなったのは寂しいけれど。
それでも、君はちゃんとわたしに言ってくれる。
昔よりも、素直になってくれたおかげで、今はもっと色々な事が分かる様になった。
単純な事も、ちょっと難しい君やわたしの事も、分け合って分かりあって、そうしてお互いに人生の一分一秒全てを支え合えるようになった。
あっ、いた。
君が、いた。
相変わらず、ペンライト振ってくれないんだね。
恥ずかしいって言ってたけど、そんな事ないのに。
相変わらず、なんだから。
■
立派な駅舎と駅ビル、目の前にある大きな噴水と時計。
そこが二人にとっての定番の待ち合わせスポット。
「あぁ、うん。今度帰るよ……その、次に帰る時は彼女も連れていくね……うん、お母さんも退院できてよかった……うん、じゃあまた……うん」
空はすっかり暗くなり、夜の冷たい空気を纏う。
ネオンの明かりと、あちこちで光るイルミネーション、夜の街すらクリスマスの装いに変わっていた。
「もうすぐ、雨降るんだって」
俯いて、腕時計を見ながらそわそわしている女の子に私はビニール傘を差して声を掛ける。
「五分の遅刻です……それに、誰との電話ですか?」
不貞腐れたその顔に、思わず笑いそうになってしまう。
「ごめんごめん。電話しながら歩いてたから……あぁ、電話の相手は心配しないで、母親だから」
「そういう時はちゃんと連絡してって言ってるのに……というか、お母さん退院できたんですね、おめでとうございます」
「ありがとう」
彼女は立って、ビニール傘の中に入る。
「ねぇ、楓。今日のライブどうでした:?」
「その話はあーと。ほら、早く行こ? お腹空いたでしょ」
「はい、お腹が空きました」
そう言って笑う紅葉が、ここにはいた。
紅葉と楓は立ち上がり、歩き出す。
雨は降っていないので、せっかく差していた傘は閉じて歩き出す。
「そういえば楓、覚えてる?」
「ん? なに?」
「えぇー忘れましたか?」
「うそうそ。三周年だよね」
「もぅ……覚えてるならちゃんと言ってくださいよ。そう、今年で三周年です」
「元気だなぁ、ライブで疲れるだろうに」
「楓さんとの三周年、と考えると空元気が空元気じゃなくなるんですよ? ですから楓さん。今日は夜まで付き合ってもらいますからね」
「いいよー別に、そのつもりだったし」
「楓、さては最初からそっちが目的なんじゃ」
「違います。誤解を招くような事言わないでください……だいたい私はそういうのはイヤだって言ってるでしょう」
「あっ、敬語になりました。ますます怪しいです」
「はは」
「乾いた笑いはもっと怪しいですよ?」
「まぁ、紅葉とするならいいかな。って思わなくはないけど……」
「ちょっと、いきなりそんな事言わないでくださいよ! こっちまで恥ずかしくなります……」
「言わせたのは誰だ」
あれから三周年。
やっと紅葉は、ワンマンライブという大舞台に立てた。
早いようで、まだ三周年。
あんまり大きな声では言わないけど、私も結構嬉しいし、この関係がずっと続けばいいなぁなんて、思ってる。
「ほら、行こ。三周年祝いでお店予約してるから」
「わーい! 行きましょう!」
「あぁ、ちょっと。お店の場所知らないのに私より前歩いてどうするの!」
相変わらず紅葉の母親には反対されているけれど、いつか、どう頑張ってもできない結婚はしないとしても、でも式くらいは挙げられたらいいな、なんて勝手な妄想を抱いて。
でもまだ、紅葉に話せないままで。
「楓」
「ん?」
「ありがとう、ライブ来てくれて。忙しいのに」
「私が見に来たかったから来たの、だから紅葉は『今日のライブは楽しかった』って、思ってればいいの」
「そう……ですね。でも、嬉しかったです、ステージの上から、楓の顔が見れて」
堂々と自分自身の事を公言し、母親の反対を押し切り私と同棲し、もっと先へという願いすら叶った。
クリスマスワンマンライブも今日で終わり、これから先の未来はどうしようか。
「ねぇ、やっぱり式だけでも挙げない?」
「こんな道端で言われても嬉しくないです。もっとドキドキしたいです」
最近ちょっと紅葉の甘え方癖が酷くなってきた気がする。
ドキドキしたいとかイチャイチャしたいとか、すぐに言ってくるようになって。
「でも……そう、ですね。式は挙げたいですよね。思い出としてでも」
二人が歩みを止めることはない。
こんなに冷たい世界でも、二人はこうして結ばれた。
なら、たったそれだけの幸運を二人は掴み続けよう。
そして、昔の自分に言ってやるんだ。
未来はこんなに幸せなんだぞ、って。
「わたし、楓の事好きですから」
「なに? 急に」
「いえ……なんとなく」
「私も紅葉の事好きだよ?」
そんな言葉で愛を確かめ合う。
「ん……やっぱり慣れないです。楓に言われる『好き』は」
「それはなによりで」
次の二人の愛の目標は。
「次に目指す夢は『結婚式をする事』と『ハネムーン』に行く事……ですかね?」
「お望みとあれば今すぐにでもできますけど?」
「女の子同士の式をしてくれる会場少ないんですから、そんなすぐにはできませんよ」
「えぇ……現実的だなぁ」
「でも……いつか式をするために、その為にもわたし、もっと楓の側にいたいです。だから、ほら」
「はいはい。全くもう」
指輪が輝くその手を繋いで、歩き出そう。
ここにあるとびっきりの幸せを抱きしめて、ぎゅっと掴んで離さない様にして。
明日を生きる、私達に届けよう。
まだ夜は明けないから。
まだ、葉が落ちるには、花が枯れるには早すぎるから。
枯れない様に、優しく愛を注ぎ続けよう。
永遠の愛を、確かめ合って、分かち合って、歩き出そう。
また訪れる明日の為に、永遠に見たい君の笑顔の為に、生きていこう。
そしてこの愛でいっぱいになったブーケを、私達の手で掴み、二人の夢の場所で遠くへ届けよう。
「次のライブではペンライト振ってくださいね?」
「えぇ、どうしようかなー」
そうして二人は、歩き出す。
永遠に、永久に、この愛が、この愛で始まる二人の物語が続いていく事を誰よりも、互いに願う。
そして、この花が枯れてしまう事などないと確信して、二人は笑いあう。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152




