28 ≪楓と紅葉がファーストアルバムを買いに行く話≫
ある日の休日、二人は少し大きなショッピングモールへ来ていた。
目的は、オシャレなカフェに入る事でも、新しい家具を買う事でもない。
「わぁ……すごい数だね」
「売れなくなってきたとは言え、やはり需要はありますから」
「現に私みたいな人間もいる訳だしね」
棚一面に並ぶCDの数々、壁に貼られた大きなポスターと、店内にある大きなテレビで流されるミュージックビデオ。
「さて、どこにあるかな。紅葉のCDは」
最近の紅葉は少し変装というものに力を入れている。
メガネをかけてみたり、マスクをしてみたり、紅葉が着る服を全て楓に選んでもらいファンの人たちが想像できない様なものにしてみたり。
外出先では無口になる、というキャラクターも試してみたのだが、紅葉が辛くなったのでそれはやめた。
それもこれも、全ては紅葉が有名になったからできる事。
徒花紅葉、として再出発は意外にも好調だった。
今まではSNSは活動報告のみ、テレビやドラマに出ても、どこかにいるだけ。
そんな存在だった徒花紅葉を変える為に、再デビューと同時にインターネットで歌を歌った動画やダンスを踊っている動画を公開、楓は紅葉の事を信じてSNSで紅葉が日常の事を話す事も許可した。
「あだばな……あだばな……」
「ア行のタはどこかな……」
それと元々の紅葉の可愛さが合わさり、二年ほど前に頓挫してたCDデビューの話がようやく動き出し、そして今、ようやく紅葉はファーストアルバムを発売することができた。
「でも、よかったね。目標の一つが叶えられて」
「はい……これも全部、楓のおかげです」
「紅葉の頑張りあってだよ……ていうか、CDないなぁ、全部売れたかな」
「それならそれで嬉しい話ですけどね」
二人は一度見ていた棚を離れ別の棚を見る。
するとそこには、普段二人が触れる事のない様な音楽ジャンルのCDがずらりと並んでいた。
カッコいいジャケットから、可愛いジャケット、風景のジャケットに人が大勢載ったジャケットまで、様々なものがある。
「楓は、あまり音楽を聴きませんよね」
「言われてみれば……けど、紅葉の歌はよく聞いてるし、今はそれで十分っていうか」
「強いて言うならどんな曲が好きですか?」
「んージャズとか? あんまり聞かないけど」
「ジャズですか……確かに似合いますね」
「そう?」
「でも、楓にはアイドルのライブでペンライトを振っていてほしい様な。そんな気もします」
「ペンライト振るのは恥ずかしいから、できればナシの方向で……お願いします」
「わたしがライブをするときは楓がペンライトを振る為だけのスペースと時間を設けてあげますからね?」
「いらないいらない。そんな時間と場所は」
二人が店の中を歩いていると「新作コーナー」という場所がレジ近くにある事に気づく。
そこには今月発売されたCDが、基本的には全て並んでいるコーナーで、サインの入った色紙なんかや、アニメキャラクターの等身大パネルなんかも、設置されていた。
「ありました。ありましたよ、楓!」
紅葉に誘われ、楓は側による。
するとそこには、確かに徒花紅葉のファーストアルバムがあった。
「特典付きは売れちゃってるみたいですけど」
「ファンの子達に特典がちゃんと届いてるならよかった」
「特典でつけたサイン、未だに自信がないんですよね……徒花紅葉のサインを書くのは初めてでしたから」
「紅葉らしくていいサインだった思うけど?」
「その言葉を信じましょう……エゴサをするのが今は怖いです」
二人はそのCDを持って、レジに並ぶ。
紅葉は少しそわそわしながら、楓の手をいつも以上に強く握る。
その姿が可愛くて、抱きしめたくなるのを必死に我慢し、なんとか二人はCDを買う事ができた。
「これで、二枚目ですね。楓が持っているわたしのCDは」
「私だけじゃない? 地方時代のCDを持ってるファンなんて」
「ええ、きっと楓だけです……不思議ですね、その人の側にわたしがいる。なんて」
「私も不思議な気分だよ。あの時の一回だけで、次に会うのは難しいかなって思ってたから」
「でも、ありましたね。次が」
買ったばかりのCDが入った袋は、紅葉が持ちたいと言うので楓は手渡す。
「さ、お昼でも食べに行きましょう? わたし、お腹が空きました」
「あぁ、そうしようか」
二人はそのまま人混みの中を歩きエスカレーターを上り、別の階にレストラン街へと歩いて行った。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651548170137




