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【百合】やがて愛あるBouquetを知る二人。≪時系列整理版≫  作者: 夜乃月 ≪ヨルノツキ≫
≪ chapter7 二人が選んだ人生・エピローグ≫
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24 ≪楓と紅葉が同じベッドで寝る話≫


 買ったばかりのカーテンを少し開け、月明りを誘う。

まだ二人の匂いではなく、木の匂いしかしない寂しいベッドでは、二人が並んで目を瞑っていた。


「簡単には眠れませんね」


 心臓の音がどうしても早く、止まる事を知らず、ただわたしの隣でわたしの事を見て、手を握ってくれる楓の事を、この瞳は映し続け、その事をこの心臓は強く強く覚えている。


「静かな夜。ですね」


「思ったよりも、ね」


「ですね……でも、時々聞こえてくる電車の音が良い子守歌です」


 紅葉は何の抵抗も、何の不安もなく、楓の布団に入り楓に抱きつき、楓に頭を撫でてもらう。

苦しくなるくらい、大好きをもらう。


「楓さん」


「ん?」


「今日はもう少し、起きていたいです」


「いいよ。付き合う」


「楓さんは……起きていたくないですか?」


「……ううん、私ももう少し一緒に居たい」


 夜がこんなに静かで、安心できて落ち着けるものだったろうかと楓は思う。

夜なんて、怖いと死にたいと、殺したいにまみれた、汚らしいものだったような、でもそんな感情はもう今の楓にはないようで。


「紅葉……私、紅葉の事。好きだからね」


「はい……」


「でも、こんな風にできるのは今日くらいだからね」


「嫌です。毎日したいです」


「紅葉も仕事があるし、私だってそうだし……だから、頑張ったご褒美に」


そう言うと、楓は紅葉のおでこに軽くキスをする。


「キス、してあげる。時々ね?」


「されるのは弱い癖に、すぐする」


「ごめんごめん」


「絶対悪いって思ってない……」


 このドキドキが伝わらない様に、このドキドキが知られない様に、隠さないと。

だって、恥ずかしいもん……やっぱり、こんなの。


「わたし、楓さんの事が大好きですから」


「うん。大丈夫だよ、伝わってる」


「え」


「だって、凄いドキドキしてるでしょ? 紅葉」


「しっ、してませんよ……ドキドキなんて……」


「隠さないでよ。可愛いのに」


「可愛いって……またすぐにそういう事言うんですから」


「ダメだった?」


「他の女の子に言うならダメですけど……わたしだけの特別な可愛いなら、嬉しいです」


「他の子になんていわないよ。私には紅葉しかいないし、紅葉しかみてない」


「なら……いいんですけど」


 大好きを、今だけでもいいから独り占めしていたい。

大好きが、永遠に続きます様にと、ただただそう願う。


「眠たくなってきた?」


「えぇ、少しだけ……」


 紅葉は小さなあくびを隠す。

だけど言葉に出たのは素直な感情。


「じゃあ、寝ようか……明日もあるしね」


「いえもう少しだけ……」


 紅葉は楓の服の袖をぎっと握り、先ほどまでよりも強く抱き着いた。


「甘えん坊だなぁ、昔はもっとしっかりしてたのに」


「今だってしっかりしてます……でも、楓さんの前で意地を張ったりする必要なんてないですから……」


「そう言ってもらえるのは嬉しいよ」


 何も明日は休日じゃない。

二人にはしなきゃいけない仕事があって、迎えなければいけない朝がある。

なのにそれがどうでもよくなるくらい。


「可愛い……」


「何がですか……」


「んー? なんだろうね……」


「意地悪です……」


何でもない様な、いつか忘れてしまう様な、そんな些細な言葉だけで紡がれる。

そんな今がどうしても幸せだった。

この夜が、幸せでしかなかった。


「明日の朝ごはん、どうしよっか」


「わたしが作りますよ……スクランブルエッグと卵焼きと……それからオムライス……」


「卵ばっかじゃん。ふふ」


 だんだんと紅葉の言葉に力がなくなっていく。

楓の服の袖を握る力すら、徐々に弱まっていく。


「もう眠たいでしょ?」


何度か楓が頭を撫でた後、そう紅葉に問いかけても返事はない。

代わりに小さな寝息が返ってくるだけ。


「懐かしいな……この感じ」


 楓は一人、自分勝手に昔の事を思いだす。

姉と一緒に布団で寝ていた平和な頃を、そこに兄もいて、三人で一緒に寝ていたまだ平和だったあの頃を。

もう返ってくることのない平穏な家庭の一幕を、思いだす。


「私も、こんな風にしてもらったっけ……」


 よく頭を撫でてくれたのは、姉だった。

小さい頃は「私が絵本を読むの」と、姉がよく私に本を読んでくれた事もあった。

そんな過去ばかりが、遠くなる。


「はぁ……なんで、思いだすかな」


 まだ憧れてるの、あの頃に。

紅葉がいてもまだ、足りないの。


「楓さん……」


 優しい声で名前を呼ばれる、すぐに楓は紅葉の方を見る。


「大好き……ですよ……」


夢の中でも楓の事を思う、紅葉の方を見る。


「私も……」


 あの日々にはない、新しい愛のカタチを。

あの日々によって、忘れてしまっていた誰かに大切にされる事の喜びを。

そんな全てを楓は感じ、思いだし、そしてそれを噛みしめる。

でも、噛みしめたところででてくる言葉は普段と何も変わらない。


「……大好きだよ。紅葉」


 楓は静かに目を瞑る。

この静かな夜と、新しく買った新鮮な匂いのするベッド、そして楓を抱きしめる紅葉の体に自然と溶け合っていく。

そして気づいた頃にはもう、楓は紅葉と同じ夢の中だった。


夜乃月です。

カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。

こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)


【カクヨム版URL↓】

https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651493228959

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