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【百合】やがて愛あるBouquetを知る二人。≪時系列整理版≫  作者: 夜乃月 ≪ヨルノツキ≫
≪ chapter7 二人が選んだ人生・エピローグ≫
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18 ≪楓が独り、紅葉に会いに行く話≫


 活動休止前から決まっていた仕事の為に、紅葉は一度家に帰った。

楓は大学受験が終り、紅葉の仕事の様子を見る為に少し遠出をしていた。


 ビジネスホテルに泊まり、紅葉を見る事ができる一日前から楓はその街にいた。

そこで楓は特にすることもないまま地下街や地上を歩き、様々なものを目に映す。


 そして、紅葉を見る事ができるその日、楓は少し時間に余裕を作って、昨日と同じ様に街を見ていた。


 見慣れない本屋に並ぶ週刊誌、そこに小さく書かれた「姫メ乃猫」の文字。

手に取って中を見ると、もはや誹謗中傷の様な、もしくはただの妄想を書きつられた文が貼り付けてあった。

姫メ乃猫は妊娠した、とか。

姫メ乃猫は同じ事務所に所属している男性アイドルとそういう関係だった、とか。

まだそんな事を言っているのかと、楓が思う様な事が書き連ねてあった。


 つい数日前、姫メ乃猫は手書きの文でファンに対して現状を公開した。

そこには、マネージやーが変わった事、そのマネージャーが女性である事。

これからの仕事は今まで通り行う事、出回っている妊娠やメンズアイドルと関係をもったなどと言うことは全て嘘である。という事。

そして今まで失踪していた事についての謝罪を、姫メ乃猫は行った。


 同時に、姫メ乃猫はもう一つ、大きな発表をファンに向けてした。

それは、今後の活動名は「姫メ乃猫」ではなく「徒花紅葉」になるという事。

この事についても色々な噂が流れており、色恋にしようとするもの、不祥事があったと推測するものまで様々な人がいた。

徒花紅葉の説明を信じている人はほんとうに少なかった。


 山積みになったファッション雑誌の数々を、ファッション雑誌が五冊あれば、その内三冊の表紙のどこかには必ず君がいる。

そんな君の姿を、私は見逃さない。

それにわざわざ探す必要なんてない、だって君はそこにいるのだから。


「紅葉、こんな服も似合うんだ」


普段の紅葉がよく着るフェミニンな服とは違い、少し露出の多い服を紅葉は着て写真を撮っていた。

紅葉からすれば、少し嫌な範囲の服。

だけど、この写真を撮った時期はまだ紅葉のマネージャーが母親だった頃、だったら仕方ないかと、そう思う。


 紅葉がセンターを飾るファッション雑誌を一冊、注目のアイドルとして紅葉がとりあげられている雑誌を一冊、紅葉が出演した映画の原作小説を二冊。

それらを買って、楓は本屋を出た。


 背の高いビルの街を歩いていた、と思いきや、今度は石畳のオシャレを気取った道を歩く、西洋に憧れた街灯や建物を見ながら楓は歩く。

目的の場所は駅や本屋からは少し距離のある大きな劇場、空はだんだんと暗くなり始めていた。


 美味しそうなクレープ屋さんを眺めながら、休日だからと世話しなく楽しむ女子高生たちの声を聞く。

そんな日常にある当たり前を眺めながら、まだそんな当たり前に憧れている自分を馬鹿にする。

と同時に、自分には紅葉がいる。という事を思いだす。


 劇場につくと、楓は隣接しているレストランを見つける。

まだ少し時間が早いからか、それともわざわざここまで来て何かを食べようとする人が少ないのか、店自体は全くと言っていいほど混んでいなかった。


 楓はそのレストランに歩いていき、入り口前にあるメニューを眺める。

少し挑戦的な値段のそれらと、それでも食べたいと思わせる様なご飯の写真。

それらを見て、楓はレストランの中に入る。

空もう真っ暗になり、点々と星が輝く夜に変わっていた。


 楓が案内されたのは、窓側にある二人用の席。

そこに座った楓は、目の前にある空いた席に紅葉を思い浮かべ、窓の外に映るネオンと喧騒を眺める。


 テーブルの上に並ぶペスカトーレとサラダ。

飲み物は、本当はグラスワインが飲みたいけれど、残念ながら楓はまだ未成年。

仕方がないので、ブドウジュースを一つ、ストロー付きで。


 照明の暗い店内を賑わせるのは一面ガラス張りの窓から入るネオンの光と、天井にかけられた控えめなイルミネーション。

そして、レストランから見下ろせる劇場入り口上にある大きなシャンデリアだけ。


「いただきます」


 楓は静かに、食事を始めた。


「んっ……美味しい」


 晩御飯時ではまだないせいか、店内はとても静かで、その空気が少し冷たい。

数人いるお客さんも、この冷たい雰囲気にのまれてか、小さい子供さえも黙って食事をしていた。

そんな中、楓はなんとなくスマートフォンを取りだし、徒花紅葉がインターネットに投稿している言葉を見る。


「緊張する」とか「頑張ります」とか、そんな事は決して言わない。

ただ、徒花紅葉が言うのは「見に来てください!」とそれだけ。

多くを語らないのは、多くを語れないのは、未だにかつてファンだった人から、そして色々な雑誌やインターネットのあちこちでありもしない事を書かれているせいだ。

決して、自分に自信があるとかそういうことの現れなんかじゃない。

むしろ紅葉は傷ついている。


 食事を終えた楓は代金を支払い店を出る。

そして、少しずつ列ができはじめた劇場への入り口に近づき、カバンの中から紅葉にもらったチケットをそっと取り出した。


夜乃月です。

カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。

こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)


【カクヨム版URL↓】

https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651384736474

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