13 ≪花菱猫が楓の事を学校でのろける話≫
姫メ乃猫、本名花菱猫の事は、彼女の通う学校では周知の事実となっていた。
だから、猫から距離を置く者もいれば逆に興味本位で近づいてくる人もいる。
今、こうして花菱猫の前にいるこの二人に関しては、その興味本位で近づいてくるタイプの人だった。
「花菱さん、冬休みが終わってから元気よね」
「猫、何かいいことあったか?」
「え? そんな風に見えますか?」
「今日ずっとニヤニヤしてるぞー猫ちゃん」
「猫ちゃんはやめてください。それにニヤニヤなんてこれっぽっちもしていませんから」
そう言いながらも確かに花菱猫の顔は普段以上にニヤけていた。
三人は机を囲み、昼食を食べる。
花菱猫のお弁当は母親の作った面白みのない、バランスだけが考えられたお弁当だった。
「花菱さん。昔よりもちょっと丸くなったよね」
「え? わたし太りました?」
「あぁ、違う違う。雰囲気が? ね」
「あぁ、確かに……あれか、家出の効果か?」
「家出の件はまぁ……ねぇ?」
「ねぇってなんだよ! ねぇって!」
花菱猫の家出の件は、学校中で知られた話。
同級生からすれば、まるで当事者の様に散々担任から聞かされた話。
夏ごろからいなくなっていた花菱猫が、冬になって突然現れた事に対して疑問に思う人は多くいたが、誰一人その真相を花菱猫には聞けないままだった。
「てか、猫さぁ」
「はい?」
「なんか、服の雰囲気って言うか匂いっていうか……普段と違くない?」
「普段って、それは四月ごろの話でしょう?」
「まぁそうなんだけど……」
四月ごろに数度姿を見て、声を聞いただけの花菱猫にある違和感。
「もしかして、彼氏ができたーだったりして?」
その正体はつかめないまま、一人の少女はちょっとしたからかいのつもりでそう花菱猫に訊いた。
「……」
黙ってしまった。
「あれ?」
花菱猫が顔を赤くして、黙ってしまった。
「花菱さーん? おーい猫ちゃーん?」
顔を赤くした、そんな花菱猫の姿に二人は。
「ごめん、流石にマジだとは思わなかったわ」
「私も……まさか、ねぇ」
「いや! ちが……くは、えと……その、いや? ね?」
混乱してしどろもどろになる花菱猫のその姿、そのせいで言葉の信憑性は増すばかり。
「そっかそっか、花菱猫に彼氏か……」
「ちが!」
「花菱さん。お相手の方は、どんな人なの?」
「だから、ちがくて!」
たじろいで、正確に言葉にできなくて、でもハッキリ否定しておきたいことが花菱猫には一つあった。
「彼氏じゃなくて彼女だから……」
だから花菱猫小さな声で、訂正する。
彼氏じゃなくて、彼女なんだと。
「え? そこ?」
「彼女さん……なんですね」
「あぁ……まぁ、うん」
「どんな人どんな人?」」
「えっ」
「気になりますよね。だって、花菱さんとお付き合いされる方ですから」
「あぁ、えっと……」
花菱猫は一度頭の中で楓の事を思い浮かべる。
そして徒花楓の事を、正確に、正しく、一つの間違いもなく伝えるための言葉を血眼になって探す。
「かっ……こよくて……えぇと、で……かわいい! くて……その」
けれど見つかった言葉を粉々に砕くほど、花菱猫の中に住まう恋心は強大だった。
「はははっ! 猫がたじたじだぁ!」
「可愛い」
「だってその……まだそんなに経ってないし。付き合ってから」
「へぇ……告白はどっちから? 猫? それとも相手の人?」
「どっちも……かな」
「どっちも、ですか?」
「好き、って言ってくれたのはあの人ですけど。でもその、わたしは指輪をプレゼントしましたし……」
「指輪!」
「クリスマスの日に」
「クリスマスの日に指輪……それは……」
花菱猫の言う通り、二人が同時に同じ思いを伝えあった様なものだった。
どこからどうみても、どれだけ捻じ曲がった角度からこの物事を捉えても、そうとしか思えない。
「花菱猫……恐ろしい女」
「うんうん。まさか、そんな事になっているなんて」
「だってぇ……好き、だったんだもん。わたし」
花菱猫は顔を赤くしながら、それを隠すみたいにほうれん草とトマトを食べる。
そんな姿を見ながら、二人は色々な妄想をする。
「ねぇ、キスはしたの?」
「ほっぺだけですけど」
「えっちな事は……まだダメですからね?」
「それくらいわたしも分かっています。だから、我慢しています」
「花菱先生! いったい、その方のどこに惚れたんですか!」
「同情してくれたことと……またね、って言ってくれたこと」
「その方のご両親への、あっ、挨拶は?」
「まだ結婚をしようとは……って、違います違います! もぅ、わたしは見ず知らずのお友達に彼女の事をのろける趣味はないんですから。楓さんんも嫌でしょうし、見ず知らずの人にあれこれ自分の話をされるのは……」
「楓って言うの? その人!」
「あーもう! ダメです、どう頑張っても墓穴を掘ります」
お昼休憩が終わる事を知らせるチャイムが鳴る。
「でもよかった。その楓さん? って人は悪い人じゃなさそうだね」
「当たり前です。わたしが選んだ、わたしを選んでくれた方なんですから」
空になったお弁当箱を片付けると、二人は自分の席へ戻る。
花菱猫はそんな二人に手を振りながら、恋愛小説を読みながら授業がはじまるのを待つ。
その時間、花菱猫の頭の中にはぼんやりと徒花楓の姿があった。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651308231962




