12 ≪楓が紅葉がもう一度観覧車に乗る話≫
あの日乗った観覧車とは違う、別の観覧車。
その中から見える景色はあの日は違い、暗くなった海とだんだんと賑やかになり始めた飲食街や露店街の景色。
「まだあの日から一週間……くらい、ですもんね」
「まだ一週間、なんだね……半年くらい一緒に住んでたから、ぜんぜんそんな感じがしないや」
「そうですよね。それもあってか、ずっとずっと楓さんと一緒にいた気がします」
二人は透明なハコの中、横並びになって座る。
今度はあの時と違って始めから横並びで、手を握って。
「また、お母さんから連絡が来ていました」
「今度はなんて?」
「一度帰ってきてほしい。だそうです、大事な話があると、そう言っていました」
「大事な話か……」
「また適当な理由をつけられているだけ……な、気もしますが」
「私をマネージャーにするかどうかでモメてる。とかない?」
「ありますね……ありえる話です」
同じ景色を見て、違う何かを感じて。
同じものを食べて、奇跡に同じ気持ちになれて。
一つの小説を読んで、正反対の意見で喧嘩して。
同じベッドで寝て、ごめんなさいって抱き合って。
夢、見すぎかな。わたし。
「また、忙しくなりますね。楓さんもそろそろ学校や受験でしょうし」
「そうだね……あんまり忙しくはなりたくないんだけどな」
「受験が終わったら、また会いましょう」
「そんなもう今日が終わる。みたいな言い方しないでよ、夜はまだ長いよ?」
「でも……これが終わったら、ご飯を食べてお休みをして、明日には……もう」
「寂しい?」
「楓さんは……寂しく、ないんですか?」
「また会えるって私は思ってるから、だから寂しくないかな」
「そこは、嘘でもいいから『寂しいよ』って、言ってくださいよ。もぅ……」
ゆっくりと時間は過ぎる。
その一分一秒を全て、大切なものを思えるようになったのは、きっと君のおかげ。
「今は……簡単にそうはいかないけどさ」
楓は言う。
「私は側にいるし……離れていく事はないし」
不安を抱える紅葉に、言う。
「いつかちゃんと、二人で暮らしていけるようにもしたい」
不安を安心に、悲しいを嬉しいに、怖いを大丈夫に、したいとは思う。
してあげたいだなんて偉そうな事は言えない、一緒にそうできたらいいな、とそんな希望だけを、紅葉に手渡す。
「紅葉は何があっても、私の顔だけ思いだせばいい、私の言葉だけ思いだせばいい、お母さんじゃないんでしょ? 紅葉の中で大切なのは」
「はい……わたしにとっての一番は、楓さんです」
「だったらもう、それでいいじゃん。ずっと私の事だけ見ててよ。で、紅葉の思う怖いも辛いもどうしようもないも、全部私に頂戴」
「楓さん……」
「って、昔紅葉が同じような事言ってくれた気もするけどね」
「いえ……ごめんなさい。せっかくの楽しい時間なのに」
「ううん。いいの……そうやって紅葉が言ってくれるおかげで紅葉の事が知れる。紅葉の事を分かった気でいられる。だから、教えてくれてありがとう、紅葉の抱える不安を」
強く紅葉の手を握り、温かさを伝える。
側にいる人間が、君の事をどれほど思っているのかを、伝える。
「楓さん」
「ん?」
「あぁ、ええと……」
紅葉の中から言葉が出てこない。
今、楓に返したい「ありがとう」以上の言葉が何も、見つからない。
「今日の最後の思い出に」
でも、言葉以外の何かなら、確かにあった。
「ほっぺか、手にその……キス、してほしいです」
「え……」
「いや……その。ん……えい!」
楓にねだった事が恥ずかしくなって、その勢いのまま紅葉は楓の頬にキスをする。
軽く口を当て、すぐに離すと、顔を赤くしながら楓から距離を取る。
「びっくりした……急にどうしたの?」
紅葉の口が軽く触れた右頬を優しく撫でながら、楓は言う。
「したくなったからしたんです! それだけです!」
「もう……」
楓は口を押えて笑う。
何がおかしかったわけでもない、ただ恥ずかしかった。
「あれ、楓さん。ちょっと顔赤いです?」
「そんな事ないよ? ないから」
「んー?」
珍しく紅葉から目を逸らす楓を見て、紅葉の中にあった恥ずかしさの様な物は消え、楓の隣に座り直す。
そして。
「ちょっと!」
今度は楓の手の甲にキスをした。
「ねぇ、くすぐったい……から、やめて……ね?」
ありました、楓さんの弱点。
「楓さん。もしかして、キスされるの苦手です?」
「え?」
「苦手ですよね! チュってされるの!」
「ねぇ、やめて? 手とらないで? あのね? 公共の場だからね? 紅葉」
「じゃあ、家に帰ったらしましょう。ええ、そうしましょう。そして確かめましょう、楓さんの弱点がキスかどうか」
「そういう問題じゃない!」
そんな問答の数分後、楓は紅葉に手を握られ、楓は顔を赤くしながら、二人は観覧車を降りる。
「まさか楓さんの弱点がキスだなんて……」
「違います。絶対に違います」
「どおりで自分じゃ気づかない訳です」
「だから違うってば!」
そして二人の初デートの様な、ただのお出かけの様な、そんな何かは二人の笑顔と温かい言葉と共に終わり、二人はまた何気ない日常へ帰っていく。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651306439417




