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【百合】やがて愛あるBouquetを知る二人。≪時系列整理版≫  作者: 夜乃月 ≪ヨルノツキ≫
≪ chapter7 二人が選んだ人生・エピローグ≫
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11 ≪楓が紅葉の出演する映画を見る話≫


二人がショッピングモールに入り、本屋や可愛い服屋、美味しそうなクレープに目がくらみそうになりながら、それでも確固たる意志で向かったのは四階ににある映画館だった。


 エスカレーターを上っている途中、壁にかけられた様々な映画のポスターが二人の目に入る。


「あっ、これ昔流行って結局見なかったやつだ」


「わたしもこれは見ていないです」


「紅葉はそもそも映画をゆっくり見たりする時間ってあるの?」


「ドラマや映画をゆっくりと見る時間はあまりないですね……でも、最近は台本を覚えるのも早くなって来たので、時間の余裕が少しできたら見たいですね」


 エレベーターを上がった先にある映画館は薄暗く、そして思っていたよりも大きな劇場だった。

有人の券売所とデジタル販売所の、二つがあり人が多く並んでいるのはデジタルの方だった。


「これ、だよね。紅葉が出てるのは」


「恥ずかしいですね……楓さんに別のわたしを見られるのは」


 少し並んで券売機でチケットを買い、待ち時間の使い方を考える。

そんな時、ふとエントランスに貼られている様々な映画のフライヤーを楓は見た。


「映画ってこんなにたくさんあるんだね」


「多いですよね。でも、意外と見たいなって思うものは少なかったりしますよ」


「紅葉はどういうのが好き?」


「わたしはそもそも映画をあまり見させてもらえませんでしたから、そんなわたしが好きなジャンルはなぜか恋愛なんです」


「恋愛映画ダメだったの?」


「見ちゃダメって言われていましたけど、友達の家に遊びに行った時に見たり、バスで移動している時にスマホで見ていたりはしました」


 結局楓と紅葉は、エントランスにあるベンチで話をしながら時間を潰していた。

そして上映開始十五分くらい前にお手洗いに行き、キャラメル味のポップコーンとホットコーヒーを二つ買う。


 二人は劇場内に入ると、決めた席に並んで座る。

そこは大型スクリーンがある部屋、両隣にはカップル向けの二人席がある。

二人は、そのカップル向けの席に座っていた。


 劇場内では賑やかしのCMが流れるだけの、少し暗い空間となっていた。

徐々に席も埋まり始め、人の声も騒がしくなってきた。


「今から見るのって、恋愛映画だよね?」


「はい」


「お母さん。良いって言ってくれたの?」


「ネタバレになるのであまりたくさんの事は言いませんけど……その、わたしはメインのキャラではないので」


 席に座って五分程待つと、映画の本編が始まった。


 その映画の中身はよくある恋愛映画の様だった。

余命宣告された男と、死にたいと願う女の恋。

余命宣告されていた男が、奇跡的に海外で手術を受けられる事になり、生き延びた。

そして死にたいと願う少女はその悩みが解決し、生きていく事になる。

ありきたりだけど、確かな幸せがある映画だった、


 ただ私は、映画の本編とは全く関係のない所で驚いてしまった。

それは映画の最後、二人の間に生まれた子供についてのシーンだった。


「あっ」


中学生くらいの女の子の運動会を、主人公とヒロインが見ているシーンがあった。

そこで楽しそうに友達と話をして、一生懸命走って、お弁当を美味しそうに食べている女の子がいた。


「紅葉だ……」


 大きなスクリーンの中に、紅葉がいた。

堂々と、正しく、可愛らしく、紅葉らしく演技をする、そんな紅葉に、楓は何故だか、涙が出そうだった。

この映画に感動できそうなシーンは沢山あった。

だけど、楓が初めて涙を流してしまいそうになったのは、紅葉が出て来た時だった。


 こんな風に、しっかりと紅葉が演技をしているのを見たのは初めてかもしれない。

可愛らしく、確かにいつもの紅葉とは少し違って、だけれど紅葉という事は分かる、だけどしっかりとそのキャラクターにもなっていた。

沢山の矛盾を孕んだ紅葉がそこに居た。

そして真っ暗な背景に流れるエンドロールそこにはしっかりと「姫メ乃猫」の文字があった。


 エンドロールが終わり、静かになった劇場内。

そこから二人は出て来る。


「紅葉、凄いね」


 楽しかったとか、面白かったというよりも先に、大きなスクリーンの中で生きる紅葉を見られた事に対する感動が楓の中から紅葉に対して、飛び出した。

だから楓は、そんな言葉を劇所から出てすぐ、紅葉に向ける。


「やっぱり、凄い。ほんと、プロだね」


 今までは、知れなかった。

紅葉のもう一つの姿。

本来、私はこの紅葉しか見れないはずなのに、この紅葉以外は見てはいけないはずなのに。


「でも、いつもの紅葉を知ってると、変な感じ」


「えぇ、そうです?」


 劇場から出た二人は空になったポップコーンの入れ物やコーヒーが入っていたカップを捨る。

紅葉は頭の中で劇場内にいたお客さんの数と、楓の顔を思い出し、少し微笑んで言う。


「わたしのお母さんがダメと言わなかった理由、分かりましたか?」


「最後に出て来る、子供役だったからでしょ」


「はい! 正解です」


「やった」


「恋愛映画の出演にはあまりいい顔をしませんでしたが、主人公とヒロインの子供役なら……まぁ、という事だったみたいです」


「結局嫌々なんだ」


「ずっと文句を言っていましたよ」


 二時間弱の映画を見終えた頃、空は夕暮れに近い薄紫色に変わっていた。


「次は……ふふ。楓さん、楽しそうですね」


「紅葉は、楽しくない?」


「いえ」


ぎゅっと、楓の手を紅葉は握る。

最近、楓の手を握るととても安心している自分がいる事に紅葉は気づいた。


「わたしもすごく楽しいです」


「そう、よかった」


紅葉の感じている感情全てが溢れ出る笑顔を楓は見る。

楓の感じている感情があまり出ていない、けれど紅葉は分かる特別な楓の笑顔を紅葉は見る。

そして、二人は手を繋ぎ次に行こうと決めていた場所へまた足を進める。



夜乃月です。

カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。

こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)


【カクヨム版URL↓】

https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651304104829

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