10 ≪楓と紅葉が手作りしたお弁当を食べる話≫
水族館から少し歩いた場所にある眺めの良い公園、そこにあるベンチに座って海を眺めながら、二人で協力し合って作ってきたお弁当の蓋を開ける。
「いただきまーす」
「いただきます」
目の前にある海では船が行きかっており、観光用のものからそうでないものまで様々だった。
「んっ、美味しい」
「よかったです。楓さんが作ったサンドイッチも美味しいですよ」
時刻は十二字を少し過ぎた頃。
公園からは子供たちが楽しそうに遊ぶ声が、海の方では船を見てはしゃぐ子供の声が聞こえてくる。
「平和な日常って感じがしていいですね」
「こんなに穏やかな日なんて中々ないからね」
優しい味付け、それが紅葉の味。
それがたくさん詰まったお弁当を、二人で食べる。
「楓さんは最近のお昼はどうしているんですか?」
「私? んー食べてなかったり、おにぎり作るか買ってくるか。まぁ、そんな感じかな」
「やっぱりちゃんと食べてないじゃないですか……よくそれで一日もちますよね」
「紅葉、思い出してみて? 一日三食ポテトフライだった日がある人間だよ? 私」
「あっ、そうでした。ポテトフライで一日生きていける人でした……って、それじゃあダメなんですって!」
「紅葉の作ったものならちゃんと食べるから」
「もぅ……ほんとに楓さんは、わたしがいないとダメなんですから」
「それはお互い様でしょう? 紅葉だって、寝言でよく私の名前呼んだり、寝ながら抱き着いてきたりする癖に」
「なっ! わたし、そんなしてないです! ちょっと名前呼んじゃう事があっても……そんな、無意識のうちに抱き着いたりだなんて」
「まぁ、夢でまで私の事思ってくれているって事だよね?」
「……」
「あっ、黙った」
顔を赤くしながら紅葉は黙る。
そして楓に反撃できそうな言葉を探す。
「楓……さんだって、その……」
「んー?」
「ほんとは……その」
ああもう、いつもわたしばっかり恥ずかしい。
楓さんもちょっとは照れたり、恥ずかしがったりしてくださいよ。
でも、わたし楓さんの弱み全然知らない、どこが弱いのかとか、何をされたら恥ずかしくなっちゃうのかとか、全然知らない。
「……わたし、全然知りません」
「え?」
「楓さんのカッコいい所と、可愛い所と、尊敬できるところと、大好きな所と、そんな所はたくさんたくさん知っているのに……なのにわたし、楓さんの弱い所を全然知りません」
弱い所、なんて人に見せようとしないもの。
特に紅葉やゆかりなんかには、絶対に。
「そんだけ知ってたら十分じゃない?」
「いえ、ダメです。弱い所、楓さんの弱いところを教えてください!」
「えぇ……あぁ、じゃあ料理が苦手とか?」
「それは二人で支えていきたい所ですよね?」
「じゃあ……男の人が無理、とか?」
「申し訳ないですけど、わたしとお付き合いするにはすごくいいことです。最高の浮気防止策です」
「あの事件を浮気防止のキッカケと捉えるか」
「あぁ、ごめんなさい」
「別にいんだけど。案外あいつに会っても平気だったし、私」
「へぇ、そうなんですね……ん?」
疑問が一つ、紅葉の中に芽生えて紅葉は箸を止める。
「えっ、会ったんですか?」
「向こうに帰った時に一度ね? でも、怖がってた私がバカだったなぁって思い知らされただけだったよ」
「なにもなかったなら……いいんですけど。って、話を逸らされました、結構ナチュラルに」
「ダメか」
見せてはいない、といったものの楓自身自分の何が弱いのかあまり分からない。
それこそ男の人や料理ができない事、昔の事をずっと覚えている事、そんなところが弱い様な気もするけど。
「精神が弱いかな。じゃあ」
「精神ですか?」
「だってそうじゃん、昔結構酷い病み方してたし」
「あれだけの事があれば仕方がない気がしますけど」
そんな話をしている間にお弁当箱は空になる。
二人は次の目的地であるショッピングモールについて軽く調べながら、目の前にある綺麗な海を眺める時間を過ごしていた。
「いきましょうか」
そう言って先に立ち上がったのは紅葉だった。
「私の弱みはもういいの?」
「楓さんの弱みは、これからわたしが見つけます。そしてそれは絶対に誰にも教えません」
「私には教えてね?」
「嫌です」
「えぇー」
「わたしがその弱みを上手に使って……楓さんも、恥ずかしい。ってなればいんです!」
「わかったわかった。じゃあ、楽しみにしてるね、紅葉が私の弱みを見つけてくれるのを」
その少し余裕そうな楓の顔を紅葉は見ながら手を差し出す。
楓はその手を取り、二人はショッピングモールの方へと歩き出した。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済の為、タイトルネタバレがあります)
よろしければカクヨムコン8というコンテストにも参加中なので、カクヨムでも感想等いただけると嬉しいです。
【カクヨム版URL↓】
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