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【百合】やがて愛あるBouquetを知る二人。≪時系列整理版≫  作者: 夜乃月 ≪ヨルノツキ≫
≪ chapter7 二人が選んだ人生・エピローグ≫
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06 ≪楓と紅葉が新年を祝う話≫


 深夜零時を過ぎた頃。


「年、明けたねぇ……」


空っぽになった年越しそば、冷たい空気と新しい空気を感じながら、二人はソファーに座って、時計の針を眺める。


「わたし、こんなに静かな年越しは初めてかもしれません」


「テレビもないから、あんまり楽しくないでしょ?」


「いえ、そんな事は……ただいつもなら、年明けにある舞台やオーディションの事ばかりを考えて、こんなにのんびりはできませんでしたから」


 年越しだ、と言っても二人が特別な事を何かした訳じゃない。

ただ二人でお蕎麦を作って、食べて、後はいつものように話をしていただけ。

けれど、そんな当たり前が、日常が、何より大切な人と年を越せるということが、純粋に嬉しかった。


「そういえば、紅葉の復帰の目途って結局たったの?」


「いえ、まだ……そもそも楓さんをマネージャーにしてもらえるのかすら、分かりませんから」


「そっ、か……」


 お正月の定番と言えばなんだろうか、と二人は考える。

小学校ではよく、羽子板だとかカルタだとか、そういう事を教えてもらうけど、実際誰かとそういう事をした記憶は二人にはない。


「楓さん。その……ちょっと今更で申し訳ないんですけど」


「どうかした?」


「明日、初詣に行きませんか? 二人で」


 可愛い事言うなぁ、紅葉はほんとうに。


「いいよ。でもこの辺りに神社あったかな」


「縁結びの神社がありますよね……確か」


「縁結び? 私達も縁結んどいたほうがいいかな?」


「結んでおくべきだと思います。より強く、強固に結んでもらって、ほどけない様にしてもらいましょう」


 これも紅葉にとっては家出の延長線上、本来なら家族と過ごすべきこの時期を、家族を置いて、一人楓の所で過ごす。


「お母さんにあけおめ言わなくていいの? 」


「大丈夫です。楓さんの所に行く、という事は伝えてありますし。仕事へ復帰するまではここにいます……迷惑、ですか?」


「ううん。そんな事ない、嬉しいよ。ただ、やっぱり紅葉のお母さんとも仲良くしてないとだしさ」


「将来の事を考えて、ですか?」


「まぁ、そうだね」


 二人は冷蔵庫の中からケーキと取り出す。

クリスマスにケーキを食べる事ができず、それだけが心残りだった二人はイチゴがたっぷりのったケーキを買っていた。


「お酒は飲めないから、これ代わりね」


ブドウ味のシャンメリーをワイングラスに注ぐ。


「クリスマスのやり直し。というか、あの時できなかった事を、今全力でしていますね」


「色々あって忙しかったからなぁ、クリスマスの日は」


 告白をして、受け入れられたことを喜ぶ前に紅葉の母親が迎えに来て、結局穏やかにクリスマスを過ごす事は二人にはできなかった。

今、その分を取り返していると言われてもあながち間違いではない。


「いただきまーす」


「いただきます」


 今日は少し、遅くまで起きていてもいい日。

二人でケーキを食べ、ジュースを飲んだら後は何をしようか。


「そうだ、紅葉」


 ケーキの上にのったイチゴを最後に食べる為に残す楓と、スポンジやクリームと一緒に最初にイチゴを食べた紅葉。

二人のお皿のお皿の上には、あと少し、ケーキがの残っていた。


「私、大学決めたんだ」


「そうなんですか?」


「うん、でもまだナイショ。決めたよーって事だけは伝えたくて」


「その、ありがとうございます。楓さんとっては本当に忙しい時期なのに、わたしの事も考えてくれて」


「紅葉の事は私が勝手に考えてるだけ。それに大学だって、紅葉の為って言うとあれだけど」


「私の為?」


「まぁ、その。二人でいたいじゃん? ずっと」


 今抱えている感情は案外素直に言葉になって、楓の元を離れていく。


「だからその為に、現実的に頑張らないとなぁって。思ってて」


「現実的に……」


 私は一人で勝手に夢を見ている。

私が幸せになれて、そこに君がいて、そんな未来を一人勝手に夢見てる。

それがいつか、二人の夢になれば、それを二人の夢にするために、できる事は全力でしていたい。


「明日どうする? お正月らしいもの。何も用意してないけど」


「そうですね……お雑煮だけはつくりますよ。後はまた明日、考えましょう?」


 時刻は一時を過ぎた頃、楓の肩に優しい重さが当たる。


「ん……」


その正体は、紅葉だった。


「眠たいか、流石に」


「楓さん……」


「夢でも私の事考えてくれてるの?」


「ん……」


 眠ってしまった紅葉を起こすべきかどうか、楓は少し葛藤する。

とは言え、五分も十分目を瞑って、夢の世界にいればもう起きれないかもしれない。

なにより紅葉が虫歯になるのが怖い。

そう思った楓は優しく紅葉を起こすと、洗面所まで連れていく。


 眠い目をこすりながら歯を磨く紅葉を少しの時間見守り、それからすぐに机の上を片付けにいく。

洗い物は明日にして、ふとんのある部屋へふらふらと歩いていく紅葉を確認したら、楓も歯を磨き、寝る支度を済ませる。


 楓も寝る用意を済ませ、布団の上にちょこんと座る紅葉の所へ。


「お待たせー」


「うん……」


紅葉は可愛く返事をするものの、あくびをしていて、やはり眠たそうだった。


「寝よっか」


楓はそう声を掛けて、紅葉の側による。

そして紅葉を寝かせ、楓も布団の中に入る。


 楓が電気を消すと、閉めたはずのカーテンが少し開いていた様で、そこから夜の明かりが部屋に少しだけ入ってくる。


「ごめん。閉めてくるね」


「ううん。このままでいい」


「そう?」


そう言いながら、紅葉は楓に抱き着いてきた。


「暑くない?」


「このままがいい。落ち着く……」


「そっか」


ぎゅっとして、紅葉は楓を離さない。

そして、紅葉は今にも泣きそうになりながら言う。


「去年は、楓さんに会えて、好きって言ってもらえて、ほんとうに嬉しかった……」


そんな事を涙声で言われたら、楓はもう何も言えない。


「そうだね……私も会えてよかった。って、思ってるよ」


そう言って楓は紅葉を抱きしめて、頭を撫でるしかなかった。


 ずっとこのままでいたい。

ずっと楓さんの側にいたい。

ここじゃなきゃ嫌だって、楓さんじゃなきゃ嫌だって、そう思えるのは、ただ楓さんが優しいからとか、昔の紅葉を見てくれていたからだとか、それだけじゃない。

わたしが、楓さんの事が好きだから。


「楓さん……おやすみなさい」


「お休み。紅葉」


だからわたしは、楓さんの側にいると安心できて。

だからわたしは、楓さんの匂いで安心できて。

だからわたしは、ずっと側にいて、離さないで、って思えるんだ。 


夜乃月です。

カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。

こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)


【カクヨム版URL↓】

https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651215216314

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