01 ≪楓と紅葉の初恋の話≫
勢いのまま家を飛び出し、楓に出会った少女は、その日も勢いで家を出て電車に乗って、楓のいる場所まで来ていた。
だけど、ほんとうに勢いだけでその後の事なんて何一つとして考えてなんていなくて。
「紅葉、今日どうするの? どこか泊まれる?」
「そう……ですね。泊まれるところはない……かもしれません」
「私の所くる? って言いたいけど、未成年だしなぁ」
七色に光りながら回る観覧車を降りた後、二人は近くあったベンチに座ってそんな話をする。
手には自動販売機で買った温かいココアがあった。
「母に相談してみます。それでどうにもならなければ、それまでですから」
「相談って言っても……その、私嫌われてるよね? 許してもらえるかな」
「さぁ、どうでしょう」
「なにそれ不安になる」
「ふふ、大丈夫ですよ。わたしが選んだ楓さん、なんですから。何も心配しないでください」
紅葉は立ち上がり、すぐに電話をかけ始める。
それから数分間、紅葉と母親の問答が続く、楓に内容は聞こえないが、あの母親だ、あまりいい方向に話が進むとは楓も紅葉も思えなかった。
「じゃあ、わたしは今日の野宿をしますね」
事態は、紅葉のそんな言葉で動き出す。
「テントもない、食べるものもない、大したお金もない、でけどわたしは、野宿をします。こんな寒い冬に」
いつも以上に強気な紅葉の発言、そから数分もしないうちに紅葉が楓にスマートフォンを渡す。
「お母さんが、楓と話がしたいらしいので」
楓はそのスマートフォンをもらい、言葉を、声を、発しようとした次の瞬間。
「あんた何焚きつけたのよ!」
そんな怒号が聞こえてくる。
「お母さん落ち着いてください……これに関してはほんとうに深刻な問題なんです」
「貴方が変な事をしなければ、あの日猫を拾わなければ、こんな事にはならなかったのにね!」
「はいごめんなさい。で、お母さん? どうしましょうか、紅葉が今日泊まるところ」
紅葉の母親と喧嘩すべき時は、少なくとも今じゃない。
楓は若干心に芽生えたイライラを、押さえつけて紅葉の事をひたすらに優先し続ける。
「私と同じホテルの別室とかどうです? 場所は私が案内できます」
「うちの娘に変な事しないでしょうね」
「部屋は別ですから、安心してください」
「一緒にはなれるじゃない」
「じゃあ、別室、別階。これでどうですか? こんな寒い冬の夜に何の準備もなくの野宿をされるよりはマシだと思いますけど」
数分間の沈黙の後、母親は案外まともな答えをだす。
「……分かったわ。猫に野宿される方が困るもの」
「はい。私もそう思います」
そう言って電話は母親の一方的な意思によって断ち切られる。
「よかったね。ホテル決まったよ」
「ほんとですか! ありがとうございます」
「私はなにも。でも、やっぱりお母さんには反対されてるね、私達」
「仕方ないですよ。女の子同士だってのも勿論ありますけど。何より楓さんがわたしのマネージャーになった事が許せないみたいで」
「事務所の決定なのに?」
「だからこそ、です。事務所がなんと言おうが、誰が何と言おうが、娘の事が一番分かるのは、理解して許せるのはわたしだけだ。それが母親の考えですから」
半ば諦めている紅葉の手を、楓はそっと握る。
「認めてもらうのは、もう一度会って私が話をした後でも、その後でもいい、一生認められないのならそれでもいい。認めてもらえるまで、一生紅葉といるだけだから」
楓の、そんな優しい言葉に紅葉は思わず頬が緩む。
自然と笑みがこぼれて、顔が赤くなる。
「楓さん。そういうのを卑怯、って言うんですよ?」
「えぇ、なんで?」
「だって、両親に認められてもないのにそれを口実にわたしと一生いる。なんて、卑怯な話です」
「嬉しくない?」
「そんな野暮な事、聞かないでくだいよ」
紅葉はそっと、握られていた楓の手を握り返す。
人生で初めて、その手に指を絡める。
「嬉しいに、決まってるじゃないですか」
そんな言葉を笑いながら、楓の目を見て吐くことですら、苦しいほどに心臓は早く、呼吸はままならず。
それでも紅葉は握り返した手を離さない。
「楓さん。その指輪、似合っていますよ」
楓の手にある指輪を見て、紅葉は言う。
その、アイビーの指輪を見て、紅葉はもう一度思う。
「紅葉がくれたものだから、だよ。ありがとう」
やっぱりわたしは、楓さんが好きだ。と、そう思う。
「行きましょう。楓さん、こんな寒い所でずっと話していたら風邪を引いてしまいます」
楓は思う。
私は、紅葉に告白をして、紅葉から返事をもらえた。
否定的ではなく、肯定的な。さらに言うなら未来につながる全ての許しを、紅葉から得た。
それがどれほど幸せな事で、こんな幸せが、ほんとうに私のものだという現実感のないまま、生きていたくないと。
――だから、私は言う。
「ねぇ、紅葉」
「はい?」
楓は立ち上がった紅葉の手を掴み、咄嗟の勢いで言葉を発する。
愛のある、愛のための、愛をあらわす、言葉を発する。
「好きだよ。私、紅葉の事」
慣れる事のない好きを、これから永遠に伝え続ける好きを。
「愛してるよ。私、紅葉の事」
名一杯の愛してるを、永遠を誓った証の愛してるを、君に告げる。
――だた一人、私の側にいてくれると誓ってくれた君の為に、私は告げる。
「なっ、なんですか急に!」
「ごめんごめん。言いたくなったの」
紅葉は顔を赤くし、その顔を楓に見せない様にする。
そんな紅葉の手を楓は掴み、数歩前に、紅葉よりも数歩前に出て言う。
「お腹空いちゃった。何か食べて帰ろ様よ」
それは特別だった一日の終わりを告げる言葉。
二人が当たり前にある日常へ帰っていくための言葉。
「ポテトばかり食べたら、わたし許しませんからね?」
「大丈夫。最近は一日三食、しっかり食べてるから」
「ならいいんですけど」
紅葉は数歩先に出た楓に追いつく為に、少し歩く。
そして、紅葉が楓の隣に立つと、二人は歩き出す。
二人の日常を、二人の生活を、始める為に歩き出す。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330651173090928




