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【百合】やがて愛あるBouquetを知る二人。≪時系列整理版≫  作者: 夜乃月 ≪ヨルノツキ≫
≪ chapter6 Ivy ≫
33/76

32 ≪アダバナカエデ≫


 私は大切な人の気持ちに傷をつけてしまった。

と同時に、自分の抱えるこの感情にもきっと立派な名前があって、きっとそれは自分から自分への感情ではなく、自分からあの子への感情なんだろうな、ってそう考える事はできても、でもそれ以上この気持ちを向ける場所がない。


 これが愛?

これが恋?

ふざけたこと言わないで。

でもまぁ、あの子ならまぁいいやって思える自分もいて、イヤになる。


 嫌いな事は異性との交流、苦手な事は同性との深い交流。

なのに、恋なんて。


 だいたい私は彼女に言った「手は出さない」って、なら恋なんてしちゃいけない。

いや、そもそもこれが「恋」だって前提で話が進んでるのがおかしい。


 そもそも、私の思っている。


「側にいたい」


と、恋は何か違う様な気がするし。


 もしかすると、ゆかりがあんな風に私を思ってくれているから、ただ感化されてしまっただけなのではないだろうか。


 そうだ、きっとそうだ。

私が恋なんてするはずない。

するわけない。


「そう……きっとそう」


 でも、どうしてかな。

君が表紙になっている雑誌や、テレビに映る君の姿。

色々な君を見ると、また会いたいなって思ってしまう。

言葉にならなくても、私の中にある感情はそう訴えている。


 君がいれば、君が側にいてくれれば、なんて。

バカみたい、ほんとうに。


 私、一人で何考えてるんだろう。

別の事、そうだ。

例えば、今泊まっているホテルのベッドがふかふかな事について考えよう。

ベッドメイクがすごいとか、ホテルのディナーのバイキングがすごく美味しかったとか、そんな事を考えよう。

そうすれば、少しはマシになるのかな。


「……」


 恋や、愛を知らない。

知りたいとさえ、思わない。

姉は恋で死んだようなもの、兄だって性で死んだ。

そんな二人を見て、恋や愛をしてみたい、なんて。


「怖いな……」


 それもきっと、私の抱える本音の一つ。

愛し続けられる自信もなければ、傷つけないと胸を張って言える自信もない。

兄と同じ様な事をしたいとは思はない、暴力を以って服従させ、弄ぶなんてそんな事。

でも、してしまうかもしれないとは、思ってしまう。

だって、性も愛も、私は兄しか知らないのだから。


「紅葉を、傷つけたくないな」


 アイドルで、いてほしい。

望む未来を、望む様に、望むままに生きてほしい。

徒花紅葉には、そうしてほしいと私は願っている。

想っている。

そこに、ほんとうに私は必要なの。


「ダメだ……鬱になる」


 考えても考えても、自分が納得できるような答えが出てこない。

考えても考えても、自分が知りたい答えが見つからない。


 ふと楓は真っ暗な部屋の中、そこにあるテレビをつける。

ニュース番組、バラエティー番組、音楽番組、普段楓が態々触れない様な娯楽が、そこにはたくさんあった。


「あっ……」


でも、楓が興味を示すのは一つだけだった。


 テレビの画面には「姫メ乃猫(ヒメノネコ)」が映っていた。

しかし、芸能界に復帰したなどと言う話は一切聞かない。

少し焦って、楓がよくよく目を凝らしてみると、その番組は今回で何周年か記念放送で、過去に放送した企画の人気投票を行い、その結果と共にその回を放送しているだけだった。

つまり、ただの再放送。


 番組の中では、姫メ乃猫が色々な動物の映像に反応したりコメントをしたり、交通事故の映像や心霊映像をみて驚いたりと、とても忙しそうだった。


「姫メ乃猫は凄いなぁ……ほんと凄い……」


そう言いながら楓は、なんとなく街で買ってそのまま机の上に置いていたポータブルCDプレーヤーを手に取り中にCDを入れた。

そして、イヤホンをポータブルCDプレーヤーに差して、ベッドの上に寝転び、カーテンの隙間から見える月とネオンに想いを馳せる。


「……」


 楓は静かに再生ボタンを押した。

聞こえてくるのは「姫メ乃猫」の歌声。

私が、勇気を元気を、明日や過去を少しだけ好きになれた歌声。

どこか弱々しくて、今にも泣きそうで、だけど一生懸命に歌っていた、まだ幼い「姫メ乃猫」の声。


 一生懸命練習したんだろうなぁ、なんて私は勝手に考えてしまう。

歌詞も、なんだか売れっ子アイドルがよく使いそうな定番フレーズ盛沢山。

社会に訴えかける曲というよりも、愛してもらおうと、好きになってもらおうと、必死で、可愛らしい曲ばかりだった。


「あの子……こんなに楽しそうなのに」


 またアイドルをしてほしい、私の為なんかじゃなくてもいいから、マネージャーが無理ならそれでもいいから。

でも、私はもう何も言えない。

私の言葉は、いつまで経っても届かないまま。


 紅葉の母親はこれからどうしていくつもりだろう、紅葉がしたくない事でも無理にさせるのだろうか。

勿論、それで売れる可能性もある。

だけど、紅葉がそれで長続きするとは思えない。


「私なら、こんなに歌を頑張っているんだから、歌を中心に置く……演技だって、頑張ってるんだから、舞台のオーディションを勧めたりする……あぁ、でもこういうのって私の仕事なのかな」


そんな風に考えても、紅葉には届かない。


 可愛らしい、愛らしい。

きっと何人ものファンがいて、きっとのその内の何人かは今も、ずっと、姫メ乃猫の帰りを待っているのだろう。

私だって一日も早い、姫メ乃猫の、もしくは徒花紅葉の復帰を待っている。

その手助けができたらいいな、なんて私は思ってしまっている。

大層な事だ、そんなの分かっている。


 舞台に立つ、徒花紅葉の姿が頭に浮かぶ。

スポットライトを浴びる徒花紅葉の姿が頭に浮かぶ。

笑顔で、踊る、演じる、徒花紅葉の姿が頭に浮かぶ。

楽しそうで、嬉しそうな、徒花紅葉の姿が頭に浮かぶ。

まるで、そこにいるみたいに、手を伸ばせば届きそうで。


「やっぱりこれは……」


恋、なんかじゃないよ。

ただ私は、側にいたいだけ。だよ、


「どうして……だろう」


 心臓の音が、強くなって止まない。

どうして、だろう。

どうして、こんな事思うんだろう。


「これが、恋だったらよかったのに……なんて」


紅葉が、私に恋してるかどうかなんて、分からないのに。

勝手に期待して。

期待をすればするだけ、裏切られるんだってそう知っているのに。


「紅葉は裏切らないんじゃないか、一緒に生きていけるんじゃないか、ってそんな自分勝手な事を……」


 想っている。

心の奥底で、楓はそう。

想って、願っていた。



夜乃月です。

カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。

こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)


【カクヨム版URL↓】

https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330650826330441

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