21 ≪ヤブランを抱える少女達≫
姫メ乃猫についての話はまだ憶測の域を出ず。
様々な人や、ずっと好きだったファン、何の関係もない野次馬などが勝手に盛り上がっている状況のまま、停滞していた。
「そういえば、お母さんと連絡とれたの?」
「えぇ、一応は……ただその、だいぶ……そうとう……結構……中々に怒っているみたいで」
「私の事は話した?」
「頼りになって信用できる女性の所にいるとだけ」
「でも?」
「ええ、怒られました……けれど、わたしの事を心配しているというよりは、わたしのせいで迷惑をかけた方々について心配している。といった印象でしたね」
「これからの仕事についてか」
「そういうことです」
これからの仕事はどうするんだ、決まっていたドラマの撮影はどうするんだ、舞台はどうするんだ、ライブはどうするんだ、と母は言っていた。
それ以外に特別な事は何もなく、ユリに対する心配の言葉なんてある訳もない。
むしろ心配以上の罵倒がユリには降り注いだ。
「帰りたくはないんでしょ?」
「今の状態で帰っても何もいい事はないでしょうから」
いつか帰らなければいけないと、そう分かっていてもユリはそんな気にはなれず。
まだ楓の側で考えて居たいと、現状維持を続けて居たいと、膝を抱えて、深く悩む。
そんなユリの中には、まだ疑問があった。
「そういえば、楓さんはアイドルを見たことがあるんですか?」
それはゆかりが言っていた言葉の真実だ。
「アイドルくらい見たことあると思うけど」
「そうじゃなくて……その、印象に残るというか、思い出に残るアイドル……みたいなのを、見たことはないですかって、聞いているんです……」
ユリも少しムキになる。
どうしてもその言葉の真実が知りたくて、どうしてもそのアイドルが知りたくて。
それに、あんな状態だった楓が元気になって、またこうやって笑える理由が、そのアイドルにあるのなら。
やっぱりわたしは、知りたい。
「印象に残るようなアイドル、か……」
テレビを見ない、だから当然ドラマもアニメもバラエティー番組もニュース番組も見る事はない。
特別好きな何かがあって、だからその人達に会うためにチケットを取って遠出をして、なんて事も一切しない。
「そんな私が、覚えているアイドル……」
どこかで、見た記憶がある。
何もかも、照明もお客さんも全てが眩しくない。
本当に何一つとして輝いているものはなく、ただ一つそこに何かがあるとすれば、それは舞台に立って一生懸命に踊っている女の子。
輝いている、というよりも必死だった。
必死に舞台に、ダンスに、歌に、しがみついていた。
その子が誰だったのか、あまりよく思い出せない。
「楓さん?」
「ううん……なんでもないの」
あの頃の事は、あまり思い出したくない。
思い出したって、何一ついい事なんてないし、思い出したところで、今更何か変わる訳じゃない。
ただ私が、強ければよかっただけの話。
ただ私が、命を奪ってでも生きる覚悟をしていればよかっただけの話。
「ごめんユリ、あんまり昔の事は聞かないでほしくて」
「ごめんなさい……その、気になってしまって」
「いいよいいよ。何も話せない私が悪いんだから」
「そんな事はないんですけど……」
私の過去なんて誰かに話して喜んでもらえる様なものじゃない。
だからずっと隠していよう。
ひた隠しにして、それでユリが何も知らなければ、きっとそれが一番幸せな事のはずだから。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152/episodes/16817330650790510214




