15 ≪ラズベリーの味を知る≫
家を出て少し、近所にある少し大きめのスーパーに入ると、ゆかりは嬉しそうにカゴを持って楓の顔を見る。
「今日のゆかり、なんだか楽しそうだね」
「だって、久しぶりに楓に会えたんだもん! 楽しいに決まってるじゃん!」
ずっと昔からの幼馴染。
気づけば側にいた二人。
徒花楓と丁香花ゆかり。
スーパーの中に入ると、初めに一番手前にあった日用品コーナーの棚から、ユリに頼まれたシャンプーを手に取りカゴに入れた。
「アイドルの女の子でも、市販の奴使うんだ」
「流石に自家製秘伝のシャンプーみたいなのはないんじゃない?」
「まぁ、そりゃそうだろうけど。なんかあるじゃん、芸能人御用達みたいなの」
「ユキはそういうのないみたいだよ? 『楓さんが普段使っているものでいいです。気を使わないでください』って」
「そこで謙虚になるなら、出ていけばいいのに」
「そういうこと言わないの」
シャンプーをカゴに入れると、今度はお鍋に必要そうな野菜をカゴに入れ、お鍋の素を探して別の棚へと移動した。
「ねぇ、楓。覚えてる? むかし、二人でお鍋した事あったよね。激辛闇鍋」
「あぁ、あったねー今考えるとなんであんなことしたのって感じだけど」
「あれはほら、テレビで激辛特集をしててそれを見たのと、ちょうど冬だったから、じゃなかったっけ?」
「あぁ、そうだっけ? ていうか、ゆかりはよく覚えてるね」
「忘れる訳ないじゃん! 楓との思い出だよ?」
たった二人の世界で生きてきた。
たった二人の世界で傷を舐めあって。
たった二人の世界で慰め合って、生きてきた。
「お鍋、どれがいいかな」
「ユリがラーメンのお鍋にするって言ってたから、これかな」
なのに、急に割り込んできて、急に邪魔してきて。
「そういえば、楓って料理苦手じゃなかった? それとも得意になったの?」
「いや、まだ苦手だよ。だから、料理は全部ユリに任せちゃってる」
「あぁ、そうなんだ……ユリが家事、してるんだ」
「基本的にはね。私もしようと思ってたんだけど、ユリが私に気を遣って料理してくれてね。申し訳ないから、土日とかは一緒に作ってたりするんだけど」
「そっか……まぁ、楓が一日三食ちゃん食べてるなら……それでいっか」
やめてよ、私の楓を勝手に壊すのは。
ずっと私の側にいる楓なんだから、ずっと私の側で暗い笑顔を浮かべてくれる楓なんだから。
私の事を見てくれる、私の側にいてくれる。
可愛そうな楓、なんだから。
「味噌でいいのかな。ラーメンだし、あっでも、うどんを入れる可能性を考えて、別の何かにした方が?」
楓はずっとずっと、私の側にいてくれる。
楓はずっとずっと、私の傷を舐めてくれる。
楓はずっとずっと、私の涙を飲んでくれる。
だから私も、楓の側にいて、楓の傷を舐めて、楓の涙を飲んで。
「うーん、でも辛いのは私もユリも食べられないし……やっぱり、無難に味噌なのかな。ゆかりは何かある?」
そんな楓との関係、なんだから。
「楓がいいなら、私はなんでもいいよ」
「そう? じゃーユリも、これ好きだって言ってたし、こっちにしよう」
楓は態々手に持っていた商品を棚に戻し、別の商品を手に取った。
「ユリはそれが好きなの?」
「シンプルな物の中なら、これが良いって」
そう断言できるだけの思い出が二人にあったんだろうと思うと気分が悪くなる。
吐き気がする。反吐がでる。
ほんとうにもう、嫌になる。
一通りの食材を買い終わり、レジから少し離れた所でゆかりは言う。
「半分持つよ」
買い物袋の全てを楓が持っていたけれど、それは少し嫌だった。
「いいよ。重たいし」
「重たいから、半分持つの」
「じゃあ……うん、ありがと」
楓のその瞳には私だけ、私しかいないはずなのに、私しかいちゃいけないのに。
どうして、なんで。
スーパーで買い物をし、家に帰ろうとしていた二人の前に現れたのは、普段は図書室でしか会う事のない彼女だった。
「あれ? 先輩デートですか?」
こんな炎天下の中、無意味に散歩をするタイプの人ではないので、楓は少し驚いてしまう。
「この子、私の幼馴染で」
「あーそうなんですね……どうも、私は楓ちゃんに告白して振られた女の子ですー」
「ちょっと、その言い方は誤解があるって」
「誤解じゅなくて真実じゃないですかー」
「ねぇ、待って。ちょっと、待って、待とう」
二人で仲良く買い物とトートバッグを持っていたのに、楽し気だったのに。
そんな空気が一瞬で壊れた。
壊された。
「告白ってどういうこと?」
彼女のちょっとしたからかいに、ゆかりはどうしても苛立ってしまう。
「あぁ、いや。この子、クラスの子から色々言われて、罰ゲームで私に告白することになったみたいで……」
「あぁ、なんだ」
そっか、それだけ。
なんだ……びっくりした。
「なに? 楓、またイジメられてるの?」
「いや私は……どうだろ、あはは……で? どうしたの? 珍しいよね。出歩いてるの」
誤魔化されちゃった。
「私だって、お外に出る事くらいありますよ?」
「それはそうなんだろうけど、あまりに珍しくて、つい」
「まぁ、私は先輩とその幼馴染ちゃんの時間を邪魔するつもりはないのでこれで……」
そういうと彼女はいつも通りのふわふわとした掴む事のできない空気をまといながら、どこかへ歩いて行ってしまった。
「変わった子ね。同じ部活の子?」
「まぁ、そんなとこ。あと、告白されたってのはただの悪ふざけで、お互い本気じゃなかったから」
「それわざわざ言う?」
「ゆかりに嫉妬されるとめちゃくちゃめんどくさいのは、私が一番知ってるでしょ」
そんな楓の言葉に思わずゆかりは顔を赤くする。
夏の暑さもあって、熱が出てしまいそうになるほどに。
頬を赤く染め、楓の瞳を見る事が出来なくなって、言葉が拙くなる。
夜乃月です。
カクヨムに投稿していた作品を、こちらにも投稿しはじめました。
こちらは時系列整理版、としてカクヨムの方で閑話扱いとなっていたエピソードも本編中に含めて投稿いたします。(カクヨム版は完結済)
【カクヨム版URL↓】
https://kakuyomu.jp/works/16817330650740228152




