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夜中の訪問者




一気に読んだ私は、やはりぐったりしていた。

またしても濃い人生で胃もたれしそう。そりゃあこれを読んだ誰かさんは、物語の中でだけでも勇者と添い遂げさせてあげたくなるわねと納得もした。

ところどころ過激な発言はあるものの、彼女はひたすら真摯に一途にベリアルを想っていて、それはずっとハルを想って来た私には既視感があった。お陰で疲労は倍に感じる。

分からないのは、彼女が時折自分が犯した罪を仄めかしている点だ。それが一体何なのかは、詳細どころか欠片も書かれていない。

そしてあんなに愛していたベリアルから、割とあっさり離れたのも不自然ではある。確かに元々孤児院で働いていた彼女が人助けを望むのは理解するけれど、それは別にベリアルの傍でも出来たはずだ。どうもこれを見るに、ベリアルはゴルディアで再び騎士となっているらしいので、城の周辺よりも荒んでいそうな郊外に行きたかった結果が別れだったのだろうか?

読んでみてもよく分からないことが多いのは、こちらの方かも知れない。

蝋燭の灯りが頼りの部屋は暗い。だけど夕食後すぐに読み始めたから、まだ深夜というわけでもないと思う。

このまま寝ると妙な夢を見そう、何か温かいものが飲みたい。誰かと話したいなあ。とにかく何でもいい、明るい話題が欲しかった。

流石にこんな時間に外に出て身体を動かすわけにはいかず、抱えるもやもやはどうにか自分の力だけで消化するしかない。色々したいことは浮かぶのに足が動かないまま、私は少しの間文机に突っ伏していた。

そのとき部屋の扉が控えめに叩かれた。きっと寝ていたら気付かない程度だけれど、静寂のなかでは響くような音だ。

私は一瞬敵かと思い、いや待てよと首を振った。ただの村娘を狙う敵って何なの。これは勇者とか聖女とか関係なく、探偵小説が私に与えた影響のせいだろう。ただ、用心するに越したことはない。


「……はい?」

「アン様、このような時間に申し訳ありません。レノです」

「レノ!?ま、待ってね、すぐに開けるから!」


慌てて開いた扉の先には、確かにレノがいた。笑顔なのはいつもと同じだけど、目元に少し疲れが見える。彼を廊下に置いて話すのは他の人たちの夜に迷惑になると、私は中へ入るよう促した。


「レノ入って。散らかって…はないわ、ノエルが今日もぴかぴかにしてくれたから」

「いえ、ここで。アン様良ければこれを」

「え?わあ、可愛い…」

「今日行った町で売っていた、押し花の栞です。大した物ではありませんが、お土産として…アン様は読書がお好きですから」

「こんな、いいの?私が貰っても」

「勿論です」

「ありがとう、嬉しい…。ねえ入って、せっかく来てくれたんだから」

「ですがアン様」

「?何?」

「その…構わないのですか?夜に男を部屋に招き入れて」

「え」


確かにそう言われれば危ういのかも知れない。だけどそんな無体をしたと知れたら彼はここでは働けないだろうにそんな危険を犯す意味もないし、私になんて手を出さずとも女性に苦労はしていないだろうし、そもそもとしてレノが私を無理矢理というイメージがまるで湧かない。

彼が優しいことを私はもう知っている。




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