こんな服で王と会えと
感動は一瞬だった。そもそも私は建造物に興味がない。
歩く廊下の隅々まで行き渡った絨毯、飾られた絵画、置かれた調度品、すべてが芸術的でありそしてお高そうだった。実際高いのだろう。
だけどすぐにどうでもよくなる。それよりもようやく辿り着けた、もう移動しなくて済むという安堵の方が大きい。
実際には本当に着いただけで、私がやるべきことはむしろこれから与えられるのだけど、ストレスから解放されたせいか心が沸き立つのはどうしようもなかった。
レノもまた手慣れた様子で私を先導する。ただ、彼はともかく時折すれ違う制服を身に纏ったメイドらしい女性や、見張り中なのか厳つい装備のままその場に立ち尽くしている騎士らしき男性からの視線は痛いほどに感じた。
メイド服とはいえ生地がしっかりしていて糸のほつれのひとつもないのが見て取れるのに、普通のよくあるワンピース、しかも結局着替えが足りなかったから昨日から着たままという私は出で立ちからして場違いも甚だしかった。
そして廊下を真っ直ぐ進み、城の出入り口からは最も奥まった場所にやけに開かれた場所があった。
窓から太陽の光が注ぐちょっとした広場のようなそこは、この城の王の元へ赴く前に一息つけとでも言っているかのような温もりに満ちている。
だけどその場所の主役は間違いなくこの間ではなく、厳かに佇むチョコレートのような焦げ茶色の扉だった。
美味しそう。…あれ、私実はちょっとお腹が空いているかも知れない。
「失礼致します、レノです。アン様をお連れしました」
見るからに分厚いその扉に声をかけたところで中にまで聞こえるかは謎だったけれど、無事振動と音が響いた。
重量感の割にあっさり開かれた扉の奥には玉座があり、そこに白髪の男性が腰をかけていた。ついでにその隣には金髪の青年が寄り添うように立っている。その逆隣には黒髪の男と茶髪の男。
勿論それだけじゃなく、護衛や大臣?秘書?っていうか誰?みたいな人は脇にたくさんいるけれど、まあその辺は省略ということで。
「……レノ。言っていい?」
「今ですか!?」
「服くらい着替えた方が良かったかなって…」
「…気が付かず申し訳ありませんでした」
「いやまあ、もうないんだけどね、他に着替えるもの…」
勿論この会話は小声である。
そして玉座の前へ辿り着くまでの、短い距離の中でのやり取りだ。
流石に一歩近付くごとにとても口を開けるような状態ではなくなっていったし、緊張感は増し続けていた。
目の前で喋ることすら恐ろしいと感じる迫力なんて初めてで声が詰まる。
王の手前まで来るとレノは膝を折った。私も倣った方がいいのだろうかと判断に迷っている間に、その人が口を開く。
「……楽にしてくれて構わぬ。レノよ、彼女が聖女と?」
「はい。間違いないかと存じます」
「ふむ…」
いざ目の前まで来てしまうと、案外その瞳が優しいことに気付く。声も穏やかで聞き取りやすい。
レノと王が話し始めてしまった横で会話に入れず多少手持ち無沙汰になった私は、少しだけ視線を動かしてみた。




