レノはよく分からない人
断ればこんな小さな村、レノの言うようにきっとあっという間に占領される。
それでもハルは私に行かなくていいと言ってくれるはずで、そんな彼だから私は好きになった。
私は、彼を余計に迷わせたくはなかったし、苦しめたくもなかった。
「……逆に言えば、貴女さえ協力してくれるのならば礼は惜しみませんよ。金銭は勿論村の発展の為に手を貸すのも構わないし、この村の作物は王家御用達などと謳ってもいい。市場での価値は跳ね上がることでしょう」
「分かった、行くわ」
「アン!?」
それ以外に答えはなかった。今度こそ私はハルの方へ向き、大丈夫だとばかりに頷いて見せる。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど」
「窺いましょう」
「私が行って何をするか分からないけど、事が終われば私は帰れるの?」
「その辺りは私も存じ上げません。蔓延する呪いを解くとだけ聞いているとはいえ、どう対処するのかは未知数です。なのでもしかしたら何十年、最悪死ぬまでここには帰れないかも知れません。すみません、私、こういったときに嘘はつきたくないもので」
「……いいえ、助かります。では村の皆を呼ぶくらいはさせてもらえるのかしら?誰だって友人と会って話すくらいしたいものでしょう?」
「残念ながら私、こう見えて友人と呼べる者がいないもので」
「でしょうね」
「いやはや納得しないで下さいませ聖女様!…なのでそのお気持ちを理解することは出来かねますし、今の私にははっきりとした答えを提示出来ません。先程も申したように、これは機密です。その判断を下すのは私ではない。…なので、私から王に進言してみます」
「いいんですか?」
「王の命を破り強引な手段を取りました。申し訳ない。それくらいのことはさせて下さい」
「………」
レノという人が分からない。
確かに完全な脅迫を私は受けたと思う。だけどところどころに垣間見える優しさが、ただの嫌な奴だという私のレノ像を微妙に狂わせる。
妙に明るく振る舞っているのも、きっと演技なのではないかという気がした。
「さあでは善は急げと申します、早速参りましょう!あ、城までは馬車で参りますが勿論1日2日で辿り着けはしないので、途中途中宿を取ることになります。衣食住は城で負担致しますけれどそこまでの道程を考え、着替えなどはご用意していた方がいいかと!」
「……ちょっと待ってて。すぐに終わるわ」
「はい。いつまでもお待ちしますよ」
「アン!」
家を飛び出すように後にした私に、ハルの焦った声が届く。
私はこれくらい平気、そう言いたかったのに、外の新鮮な空気に触れた途端身体中が震えてきて誤魔化せない。
怖かった。いや、今だって怖い。
城になんか行きたくない。村から、ハルから離れたくない。
ハルが悪いわけじゃないのに怒りをぶつけてしまいそうで、それが何より恐ろしい。
「アン、行きたくなかったら行かなくていい。何をされるかも分からないのに…っ」
「駄目よ、ハル。それは出来ないわ。村に攻撃でもされたらどうするの?あの人、間違いなく本気よ」
「…アン、ごめん。僕のせいだ。僕が…」
「…ハル?」
ハルは苦しんでいた。顔を見れば分かる。
それは私が村を出ることになったというだけではない、後悔の念が浮かんでいた。




