第二章 8 義憤
学校に到着して教室に入ると、亮のグループを中心に、塩見が喚いているのをみんなで諌めている様子が飛び込んできた。
俺は自席に荷物を置いて、喧騒の渦中から少し離れたところで俯き加減で腕を組んでいる正木に声をかけた。
「おっす。どうしたん、これ?」
「伊達か。いや結愛がちょっとな……」
どうしたものかと困り顔の正木につられ、騒ぎの輪に改めて視線をやると、大声で騒ぎながら教室を出ようとする塩見を亮と濱田が取り押さえている。
その正面には近藤と今野が塩見に落ち着いた態度で声をかけていて、他数人は物珍しそうに見物している野次馬だった。
「凄い剣幕だがなんかあったのか?」
「まぁ……そのなんだ、結愛がイジメと思われる現場に居合わせたようでな。どうするか相談をしていたら段々とヒートアップしてこの有様だ」
「イジメ?」
俺は興味をそそられ、話し半分で聞いていた姿勢から少し身を乗り出した。
「現場をハッキリとは見てないようなんだが、トイレで数人の女子が一人の女子を取り囲んでいたみたいでな。確定的な証拠はないんだが、あれは絶対イジメだったと、鼻息が荒くなり……」
「直談判すると息巻いているのを止めてる感じか」
「そういうことだ」
恐らく、確証なり状況なりを把握してから教員に話を持っていこうという冷静な亮達と悪即斬を主張する狂犬塩見の意見が割れているというところだろう。
俺はそこまで考えて、一つ疑問がわいた。
「塩見のやつ、教師にすぐ報告しなきゃって騒いでんだろ?」
「いや、それならむしろ俺達も止めないんだが。イジメグループの女子をボコボコにするって聞かなくてな」
「……予想以上の猪だな。返り討ちに合うのが関の山だろ」
「それもそうだが、もし仮に突貫で解決しない場合はイジメられている子にも良いように働かないだろうし。そもそも確証がないからな……」
「確証がなきゃなぁ。てか、そもそも現場にいた時に一悶着なかったのか?」
「あいつの話しによると、件の女子グループに詰め寄ったらしいんだが、そのイジメられていた女の子の友達がすっ飛んできて、場を一喝した後、二人でさっさと消えてしまったらしい。それでポカンとしてたらいつのまにか全員現場からいなくなっていて、それから教室に戻って俺達に話をしている内に再燃して……」
「なるほど。正義に燃えた瞬間冷水をかけられたけど、後々になって再燃したってわけか」
「まぁ、そういうことだ」
「相変わらず忙しいやっちゃなぁ」
「……なぁ伊達よ」
「……タダじゃ俺は動かんぜよ」
俺の即答に正木はぬぅ……と唸り声をもらした。
「一度だけ……一度だけお前の頼みを聞いてやる」
「ほぅ」
「無論、常識の範囲内でだぞ?」
「……いいよ。そこまで言うんだったら」
後悔した表情を浮かべる正木を背に、ヤク切れの中毒者みたいに暴れている塩見の方へ歩み寄った。




