第一章 83 家には慣れた飯がある
「おかえりなさい」
「ただいま」
俺は台所で手を洗って席につくと、出来立てのオムライスを一口運んだ。
そういえば夕飯を食っていなかったなと、飯を食べたことによって、初めて自分が空腹だったことを思い出した。
俺は瞬く間にオムライスを完食すると、中華スープを啜りながら一息ついた。
「春乃と別れたんでしょう?」
紗希はさも当然のように俺達の最新情報を言った。
「……どっかで見てたのか?」
「まさか。春乃の家から帰ってきたってことは、そういうことかなと思って」
「なるほどな……って、お前!春乃が監禁するように焚きつけただろう?」
「何のことかしら?」
「とぼけても無駄だぞ。どうせ春乃に空気を入れて面白がってたんだろ」
「……さぁ?七海が何を言っているのか分からないけど」
紗希はオムライスを口に運んで、静かに咀嚼した。
俺はそれを黙って見つめ、紗希が食べ終わるまで待った。
卵のバランスはバッチリだったわね、と自分で自分の料理評価をしてから水を飲んだ。
「もし仮に私が春乃に何かしらのアドバイスをしたというのなら」
「おう」
「それは七海の為よ」
「はぁ?」
「美少女と二人きり、七海の悩みも解決するかもしれないじゃない?」
「……」
「だからそんなシチュエーションになりやすいように背中を押しただけよ。まさか、数日間帰ってこないとは思わなかったけど」
紗希は俺と自分の食器を洗い、かけてあるタオルで手をふいたが、少し顔をしかめて、そろそろ替えなきゃねとタオル掛けから外した。
「あぁ……そう」
俺は釈然としない気持ちで風呂場へタオルを取りに行く紗希の後ろ姿を見ていたが、結局どちらでもいいかと、お茶の粉末を湯呑に入れて、ポットからお湯を出した。
新しいタオルを掛け終わり、水気のついた食器を拭いて棚に戻すと紗希は帰り支度を始めた。
「もう帰るのか?」
いつもなら引き止める台詞は言わないのだが、無意識に名残惜しく思って、口からそんな言葉が出た。
紗希も俺の言葉にビックリしたようで、少し固まっていたが、心なしか柔らかく微笑んで
「明日、久しぶりに朝食、作りに来てあげるわ」
と言って家を出た。
俺はなんだかむず痒くなり、頭をぽりぽり掻いて、風呂にでも入るかと、着替えを取りに久しぶりに自分の部屋戻ったのだった。
第一章 完
第一章終わりです。
明日から第二章書いてきます。
更新は週5回ペースになるかな。




