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ヤンデレの時代は終わりだ!!!  作者: 松岡由樹
第一章 千枝春乃
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第一章 76 父親

急に部屋が明るくなった為か、んーっと声をあげて目を擦りながら上体を起こす春乃。


寝ぼけまなこでドアの方を見ると、口を無一文字に冷たい面構えで佇む男を認め、ピクリと体が反応した。


「お父さん……」


春乃の呟きにこれが噂の父親かと、顎を引いたまま観察する。

前情報が尾を引いているのもあるが、娘の部屋に男が鎖で拘束されている姿を見ていても、表情筋が全く動いてない様子は、なるほど中々にクールな親父だ。


春乃父は爆音で流れるサイケと俺達二人の姿を吟味し終えたのか、心底見下したような冷めた眼光でフンっと嘲った。


「やはりあの女の子供か」


どういった解釈をしたか分からないが、恐らく春乃の母親ことであろうか、益々軽蔑の眼差しを強めていた。


「男を連れ込んで、狂った性欲を満たしているようだな」


「……は?急に何なの。別に性欲なんか満たしてない」


「はんっ。この有様でか?」


「うるさいよ…….」


「五月蝿いのはこの馬鹿みたいに流れている雑音だ。さっさと消しなさい」


「雑音じゃない。訂正して」


「趣味も悪ければ頭も悪い。大人しいことだけが唯一の取り柄だったが。これでは何の価値もないではないか」


「……うるさい!!!」


それは憤怒と呼んでも差し支えない感情の発露。

春乃がそんな表情を浮かべたことに驚きと愉悦が俺の胸中を満たした。


「盛るのはお前の勝手だがな。学生の身分で妊娠するようなことがあれば、即刻勘当だ。手切れ金はくれてやるが、それで親としての義務は真っ当した事とする。覚えておけ」


クール親父の取り付く島のない宣告に、春乃はベッドから立ち上がり、眉間を険しくさせて、詰め寄った。


「何が勘当よ……今まで親らしいことを一回もしたことがない癖に偉そうに言わないでっ!!!!!」


地団駄を踏みながら激情を爆発させた。


「何を言っているのだ?お前をここまで不自由なく生存させたのは誰のお陰だと思っている?世の中にご飯を食べられない人間が星の数ほどいる中で、衣食住に恵まれた幸運に感謝出来ないとは。厚顔無恥にも程があるぞ」


「……っつ!そういう話じゃなくて!!」


「全く。やはり甘えて育つ人間は碌なモノにならんな。……いや、そもそもあの女の血が入っているからどう教育したところで無駄か」


春乃は感情の抑えが効かなくなったようで、大粒の涙が頬を伝い、悲しみと悔しさでズタボロといった様子だった。


「なっ……なんだって……うぐっ……なんだって……わ、わたしがこ、幸運……うぅ……だって……甘えて……生きてきたって!!!………よ、よくも……よくもお前が…………お前が!!!そんな……ヒグ………ことを言えたなっ!!!!」


父親の袈裟斬りに決壊した春乃は、涙と嗚咽を交えて、心底憎そうに叫び声を上げた。

しかし、父親は全く心が動かされていない様子で虫を見るような目つきで、崩れ落ち、泣きじゃくる春乃を見ていた。


俺は親がここまで子供を冷たく見れるということを初めて実体験し、社会勉強になったと感謝を述べたくなった。


慟哭する春乃から俺に視線を移した。


「君はこれのボーイフレンドかね?」


「はい、まぁ」


「念のために言っておく。君がコレを介して私の財産を狙おうともそれは意味のない事だ。今後、私を余計な手間で煩わせてくれるなよ」


「ホホ。あいあいさー」


「……全く」


生ゴミの臭いでも嗅いだかのように顔を顰め、いかにも不快そうであったが、それと同時に口端が少し歪む。

俺はそれに放蕩の傷痕を見た。


オッサンは最後に春乃へ視線を向け


「妊娠が分かり次第連絡しなさい。最低限度の生活を営める金額は振り込む。その確認を終えたらこの家からすぐに出ていけるよう準備をしておくのだな」


と言い放ち、部屋を出て行った。


「春乃の父親、想像以上だったわ」


蹲り、未だ泣き止まぬ春乃に声をかける。


俺はいいものが見れた感謝の念もあってか、春乃に対する友愛の情が深まった。

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