第一章 74 それでも反応しない
「うんっしょ……よいしょ……」
スポンジを泡立たせ、俺の背中を洗い始めた。
口元は緩み、充実感に満ち溢れているような気色で丁寧に満遍なく洗ってくれる。
背中を一通り洗い終えると、肩にスポンジを乗せ
「腕も洗ってあげるから前ならえしてねー」
と言った。
俺は手錠が邪魔で手は洗えないかと諦めて、春乃の方を向いて手を伸ばした。
上腕から前腕へ両腕を隈なく洗い、掌はボディーソープを馴染ませた春乃の手で、指の付け根から間まで絡ませ合いながら綺麗にしてくれる。
掌の柔らかい感触が、ボディーソープのぬめりと合わさって、どのようなスポンジもこれに勝ることはないだろうと思った。
春乃は白Tシャツにショートパンツという姿で、シャツの裾を絞って腹部で結び、袖は腕まくりをしている。
ショートパンツからは傷一つない白皙の脚が顕になり、形のよいお臍が健康的なクビれを悩ましげにしていた。
また、跳ね返ったシャワーの水によってうっすらTシャツは濡れていて、弾力のある肌に所々ピッタリと吸い付いている。
状況はさておき、美少女がエロティックな姿で献身的に体を洗ってくれる。
勿論、頭ではエロい状況で柔肌の心地良さを感じる感覚もあるが、性欲の導火線に火は灯らず、心は凪のように穏やかな自分を再確認し、改めて不思議に思った。
何故、勃たない。
何故、興奮しない。
もし興奮して通常の男子高校生のように通り風でも感じてしまうような盛りのついた猿になれば、春乃に決定的な烙印を焼き付けることが出来るのに。
俺の中で渦巻く暗い炎は燃え盛っているようで、その実、現実の世界に影響を与えることのできない小火でしかないのだろうか。
俺はなんだか馬鹿馬鹿しくなり、鼻で笑った。
両腕を洗い終え、胸を洗おうとしていた春乃が俺の反応に手を止めて首を傾げた。
「後は洗えるからもういいよ」
「むー……結構楽しかったのに」
「体を洗い終わったら髪の毛頼むから」
「……わかったよー」
俺は春乃からスポンジを受け取り、可動域限界まで体を洗って、シャワーで泡を流した。
春乃に声をかけ、髪の毛も洗ってもらう。
全身を綺麗にし終え、湯船に浸かった。
「あぁ〜気持ちいい……」
春乃は鎖のリードを手にしたまま突っ立ている。
「満足してもらえたようでよかったー」
「極楽極楽」
充分に湯船を堪能し、脱衣所へ向かう。
春乃は拘束具を外したり付け直したり、俺の手の届かないところを拭いたりと忙しそうに立ち振る舞い、着替えを終えた。
「わたしもお風呂入っちゃうねー」
春乃はそう言って、階段の手摺りと俺の手を繋げて風呂に向かった。
もはや逃げる気を失い始めたので、逐一面倒臭いことをしなくてもいいように、風呂から出てきたら話し合おうと思った。




