第一章 72 風呂
部屋に戻りベッドに腰掛けた。
春乃は並んで腰掛けて、俺を犬のリードのように繋いでいる鎖を愛おしそうに弄んだ。
俺は呆れながらその姿をしばし眺めていたが、頭皮の痒みにポリポリと頭を掻き、そういえば急な眠気に襲われて、風呂に入ってなかったことを思い出した。
「ねぇ、風呂に入りたいんだけど」
蕩けた顔でいつの間にか俺の隣にピッタリとくっついてる春乃に声をかける。
「臭くなってもわたしは気にしないよー?」
「お前に気を使っているんじゃなくて、俺が気持ち悪いから風呂に入りたいんだよ!」
「……確かにお風呂はいいもんね。ちょっと待って、替えの下着と洋服出すからー」
鎖が入っていたタンスから、男物の下着とTシャツ、スウェットを取り出した。
「スッと俺用の生活用品が出てくるの、よくよく考えたらホラーだよな」
「七海くんには快適に過ごしてほしいからね!歯ブラシも買ってあるよー」
「あぁそう……」
気の使い方が滅茶苦茶ズレていることに肩の力が抜ける。
「つかさ、風呂に入る時くらい首輪やめてくんない?」
「……ううん。わたしが七海くんを洗ってあげるから心配しないで」
「そういう心配じゃないとか、いちいち指摘するのに疲れたからそこはスルーするけど、お前男の裸とか免疫あんの?」
振り返れば、春乃はキスやハグくらいは要求してくるが、それ以上のスキンシップを求めてくることはなかった。何なら春乃の裸体を見たことすらない。
感覚がお子ちゃまの春乃はそれ以上の行為に抵抗感があるのかと思っていた。
「そ、そういうのはまだ早いからちゃんと対策も考えてあるよー」
自信満々な様子でお風呂へ行こうとベッドから立ち上がる。
俺は鎖に引っ張られて足を引きずりながら、階段をゆっくり降りていった。
お風呂は想像通り大した造りで、家のコンセプトに合わせたレンガ風呂だった。
広々とした浴槽に、大きい窓。3つもカランがあって、もはや銭湯である。
湯は既に張ってあり、気持ちのいい湯気がふんわり立ち上っていた。
俺は素晴らしい風呂を一人で堪能できたらどれほどよかったろうにと、バスチェアに座っている俺の後ろで
「じゃ、じゃあ七海くんをピカピカにしていくねー」
と言いながら、黒いアイマスクを装着している春乃の姿に本日何度目か分からないため息を盛大についた。
「なぁ、もしかして俺を笑わそうとしてる?」
「ち、ちがうよ!こうすれば恥ずかしくないからちゃんと七海くんを洗ってあげられるし……」
手枷足枷首輪付きの男をアイマスクしている女が洗っている。
意味わかんねぇなと心の中で呟きながら、背中だけでいいからなと春乃に伝え、肩を落とした。




