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ヤンデレの時代は終わりだ!!!  作者: 松岡由樹
第一章 千枝春乃
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第一章 71 新たな扉


「はいあーん」


春乃は作ってきた炒飯をスプーンですくい、俺の口元まで差し出した。

流石に寝たままでは食べられないだろうと、右手の手錠だけを外し、座る体制が出来るように気を効かしてくれた。


……気を効かすという考えは、おかしな表現だ。

自由を縛っている元凶に気を効かされるも何もないだろうに。

こうやって人は洗脳されてしまうのかと飛躍した感想を抱いた。


「片手が空いてるし、自分で食えるわい」


春乃の思い通りに事が進むことを嫌って顔を背ける。


「あーそんなことを言う悪い子にはご飯食べさせてあげないよー」


「こ、こいつっ……」


若干イラっときたが、胡麻油の効いた炒飯の香りに耐えきれず、目の前にあるスプーンにパクついた。

酔い覚めの空腹と相まって、とても美味しかった。


「…………これ、癖になるかもー」


フニャけた笑顔を浮かべ、空になったスプーンで上機嫌に炒飯をすくい、俺に差し出す。


俺はひとまず腹の飢えを満たそうと、口に運ばれる炒飯を黙って食べていた。


「小鳥さんみたいで可愛いね」


「煽ってないでそこにある水を持ってこいや」


「……褒めてるのに」


春乃は不満気にペットボトルのキャップを開けてストローを刺し、俺の口元に運んだ。


「だから水くらい自分で飲むから渡せって。ストローまで用意する配慮があるなら、根本的な間違いに気づけよ!」


「だって七海くんのお世話は全部わたしがやるんだもん」


「お前なぁ…………大体ずっと一緒にいるって言ったって、そりゃ無理な話だろ」


俺が家に帰らなければ父さんが警察に通報するだろうし……多分。


「もしかしたらそうかもしれないけど、そうならないよう紗希ちゃんにお願いしているし……」


「あぁん?紗希ぃ?」


「七海くんが帰らなくても問題ないようにしておくって」


「あの外道ガァ!」


あいつは本当に碌なことをしない奴だ。


「だから、いつか来るかもしれないその日まで……いいえ。永遠に……わたしが七海くんを養ってお世話し続けるの」


春乃は目を爛々と輝かせ、俺にしなだれる。


「そうすれば、七海くんは誰にも奪われず、わたしだけを見続けてくれるから……」


月下の乙女のように幻想に酔いしれている様子を見る限り、やはりと言うべきか、解放する気が一切ないようだ。


俺は抑えきれぬ大きなため息を漏らした。


「なんか考えるのめんどくさくなってきたわ。とりあえず小便行きたいから手錠外して」


「わかったよー」


春乃はタンスの引き出しから2本の手錠を取り出した。

一本は通常の手枷で、もう一本の方は鎖が1m程度の長さで両端に首輪と取手がついている。

自由になっていた方の腕とベッドに縛られてている方の手に手錠をかけると、続いて首輪もつけようと俺に迫った。


「おい、首輪までつけなくても逃げねぇよ。手と足が拘束されてんだぞ?」


「だーめ。もしかしたら逃げられちゃうかもしれないし」


「俺に犬畜生の扱いを受け入れろと……そういうのか?」


「ワガママいわないで。はい、もう着けるからね」


俺は諦めの境地に達して、無感情に首輪を受け入れた。

昨日と今日で屈辱の連続である。


春乃は首輪をつけ終えると、ベッドと繋がっている左手の手錠を外した。


「これでよし!さ、おトイレにいこー」


「はい」


俺は転ばないようにすり足で遅々と進みながらトイレに向かう。


春乃は鎖をピンと伸ばしてついてきた。

チラリと後ろを見ると、こそばゆいのを我慢しているような、新しく発見した感情に喜んでいるような、ムズムズ顔をしている。


俺はトイレの扉を半開きに放尿した。


小便が水に叩きつけられる音が盛大に響いているが気にしない。

何ならこの音に懲りて、移動中の首輪はやめてほしいくらいだ。


俺は最後の1滴を搾り出して、トイレから出ると、ウットリした顔で頬に手を添えている春乃がいた。


「なーにこれ。お腹の底からゾクゾクってする。こんなの初めてだよー」


俺は半眼で春乃を見て、すり足で部屋に戻る。


春乃はどうやら新たな扉を開いたようだった。

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