第一章 65 無理なものは無理
「凄い人混みだったから探すのに苦労したよ」
俺の手を握ったまま、飄々と笑う。
胸元が開いた扇情的なボディコンドレスを着こなしている様は、高校生に成り立てとは思えない一種の貫禄があった。
「その服装、似合ってるけど高校生には早くねーか?」
「それは一般的な話だろ?僕はスタイルが良いからね、問題なく袖を通せるのさ」
「さいですか」
メアリは折角だし一杯飲もうと言いながら、バーテンにハイネケンを2本注文した。
俺はビールを受け取ると、瓶をこちらに向けているメアリの意図を汲み、軽く当ててから口をつける。
炭酸の刺激とビールのほの苦さを味わいながら、快い喉越しを楽しんだ。
「ビールって、味は微妙だけど飲んでる時の感覚はいいよな」
「慣れれば味も美味しく感じるさ」
身を置いている環境のせいか、ませたことを言うメアリの言葉に鼻を鳴らした。
「お前がうちの高校に入ってたとは思わなかったわ」
「誰にも教えてないし、殆ど学校に行ってないからね」
「頭が良いのは知ってたけどよく入れたな」
俺の言葉に三日月のような裂け方で、悪どい笑みを湛えた。
「学力と、後は人脈かな」
「人脈?」
「理事長がお得意様なんでね」
メアリは何かを思い出して、クククと忍び笑いをする。
「……ふぅん。横道からわざわざこの高校に来たってことか」
少し嫌味を混ぜながらビールを一口飲む。
「そうだよ。君がこの高校を受けると知っていたからね」
メアリは俺の足に自分の足を絡ませながら、胸を密着させて俺を見上げた。
「ふふん。やっぱり僕好みの男だよ君は。あぁ……なんだかこうして密着していると我慢が出来なくなるな……やっぱり、このままホテルに行ってお互いをむさぼって喰らい合おうよ」
「それは物理的に無理だな」
「……物理的に?どういうことだい?」
「……物理的には物理的に、だ」
メアリは不思議そうに俺を見つめていたが、ハタと何かの可能性に行きついたようで、あっと声を上げた。
「七海。まさかとは思うがその年で……」
「皆まで言うな。そういうことだよ」
驚愕した表情で口をパクパクさせていたが、俺の身体的弱点の意味を呑み込んだのか、横を向いて、噛み殺し切れない笑いを漏らしながら咳込んだ。
「ふぐっケホ………そうか、それはさ、災難……くく…‥災難なことだね………ププッ」
「その反応、丸で二人目だな。まーそういことだからホテルには付き合えん」
「くくっ………ハァ…………ふぅ。それは早計と言うものだよ」
メアリは息を整えて俺に向き直る。
「何が?」
「僕のテクニックにかかれば枯れたフニャチンですら、エレクトさせることが出来るってことさ。僕を信じて、リハビリに挑戦してみようぜ」
「…………いや、メンタル的な原因だと思うからテクニック云々じゃ、どうにもならんと思うぞ」
「……フーン。それならこの場で少し試してみようか」
メアリはそう言うと、いきなり俺の股間に手を当てながら唇を奪い、舌を入れてきた。
淡い石鹸の匂いが、舌の柔らかさと温かさに合わさり、心地よい感覚を生んでいる。
股間に添えられた手は、優しくなぞるような動きで刺激を与えようとしていた。
俺はメアリのなされるがまま、しばしその感触を受け入れていたが、期待した興奮は全くやってこなかった。
そろそろ飽きてきたのでメアリの行為を止めようと思った瞬間、絡みついていたメアリが誰かによって引き剥がされる。
間に入ってきたのは、無表情でメアリを見る、春乃だった。




